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北朝鮮の「人工衛星」発射の「Xデー」は?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2016年に打ち上げられた北朝鮮の衛星発射体「光明星4号」(労働新聞から)

 海上保安庁は29日、北朝鮮から「5月31―6月11日の間に人工衛星ロケットを打ち上げる」との通告があったことをl明らかにした。

 北朝鮮からはまだ何の発表もない。朝鮮中央通信も午前9時半現在、その種の報道をしていない。

 北朝鮮から海上保安庁に直接通報があったのか、それとも国際機関を通じての連絡なのか、詳細はわからないが、どちらにしても北朝鮮が公式発表する前に海上保安庁が北朝鮮の衛星発射の予告日を事前に公表するのは珍しい。

 北朝鮮は国際海事機構(IMO)にも通告しているのでいずれ日本にも知らされることにはなるが、個別に日本政府に衛星発射に伴う海上の危険区域の設定を事前通告するとは思ってもみなかった。衛星を搭載した北朝鮮のロケットが石垣島や宮古島など沖縄周辺の上空を通過することになるので当然と言えば、当然のことだが、韓国には事前通告していないので言わば、日本を「特別扱い」したことになる。

 北朝鮮のミサイルは韓国の辺山(ピョンサン)半島付近から沖縄方向に向かう。本来ならば、韓国に対しても一言あってもおかしくはない。と言うのも、2012年12月に発射された衛星ロケットの1段目は韓国の辺山半島西方140kmの黄海上に落下しているからだ。韓国無視は北朝鮮との対決姿勢を鮮明にしている尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は相手にしないとの方針に沿っているからであろう。

 岸田文雄首相は一昨日(27日)、拉致関連の集会でいつものように金正恩(キム・ジョンウン)総書記に向かって首脳会談開催を呼び掛けていたが、その際に「現在の状況が長引けば長引くほど新しい関係を築こうとしても実現は困難」として「私は大局観に基づき、地域や国際社会の平和と安定、日朝双方のため自ら決断する」と、首脳会談の早期実現のため「私直轄のハイレベル協議を行っていきたい」と決意を表明していた。

 北朝鮮の人工衛星発射は国連安保理決議で禁じられているため日本は発射に断固反対し、米韓と共に北朝鮮に自制を求めることになるが、日本が、米国が反対しようが、過去の事例からして北朝鮮が中止する可能性はゼロに等しい。従って、北朝鮮とハイレベル協議や首脳会談を行ったとしても止めることはできないが、北朝鮮が日本に事前に公式通告したことを最低限の信頼造成措置の一環として前向きに捉えるならば、「災い転じて福となす」ではないが、今後の日朝協議に繋げていく一つのきっかけにはなるかもしれない。

 北朝鮮は発射の時期について「今月31日から来月11日の間」と予告したようだが、発射の日、即ち「Xデー」はいつだろうか?単純に考えると、最短で2日後、最長で13日後となる。

 北朝鮮はこれまで人工衛星を6回発射しているが、IMOや国際民間航空機関(ICAO)など国際機関に通告しての発射は2009年4月5日、2012年4月13日、2012年12月12日、そして2016年2月7日の計4回である

 このうち2009年の時は3月13日に「4月4-8日の間に打ち上げる」と通告し、予定日初日(4日)に「間もなく発射する」と発表し、翌5日に発射していた。

 また、2012年4月の時は3月16日に宇宙空間技術委員会が「4月12-16日の間に発射する」と発表し、予定日開始2日後の13日に発射したが、1段目と2段目の分離に失敗し、2分で空中爆破し、失敗に終わっている。

 この年12月に再チャレンジした際には12月1日に宇宙空間技術委員会が「12月10―12日の間に発射する」と発表したもののカウントダウンに入った10日になって「技術的欠陥が見つかったので、発射予定日を29日まで延期する」と通告しておきながら、実際には最初の予定期間内の12日に発射していた。

 前回の2016年2月の発射の時は2月2日に国際電気通信連合(ITU)に「8-25日の間に発射する」との通告はあったものの6日になって急遽予定期間を「7-14日に発射する」と変更し、翌日の7日に発射していた。最初の予告から5日目の発射だった。

 今回7度目の発射は直近の2回と同じパターンを辿るものとみられるが、仮に本当に「5月31―6月11日」の間に発射するならば、6月上旬の可能性が高い。というのも、今朝、朝鮮中央通信が「革命発展に重要な意義を持つ政策的問題を討議するため」の党中央委員会第8期第8次全員会議を「6月上旬に開催する」と発表していたからだ。

 この時点で日時を定めていないのは衛星発射と無縁ではない。発射前後に開くつもりなのだろう。今年2月に開催されたばかりの党中央委員会全員会議を上半期に2度も開くのは極めて異例である。

 天候に問題がなければ、北朝鮮は「9」に願掛け、こだわっているので最短で5月31日(数字を全部足すと「9」になる)、もしくは「6月3日」か、「6月9日」あたりが有力視される。

 米韓の電波妨害による失敗や迎撃を警戒しているならば、フェイント掛け、予定日を変更するなど遅延行為もあり得るだろう。

(参考資料:軍事(偵察)衛星発射に至るまでの北朝鮮の宇宙開発計画(月光計画) 全データを検証する!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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