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女子W杯「なでしこジャパン」がイングランド代表に完敗した理由を考えてみた

木村正人在英国際ジャーナリスト
イングランドDFにタックルされる岩渕選手(写真:ロイター/アフロ)

必勝の布陣で臨んだイングランド

[ロンドン発]FIFA女子ワールドカップ(W杯)フランス大会は19日、1次リーグD組の最終戦が行われ、日本代表なでしこジャパンはイングランド代表に0-2で敗れました。しかし勝ち点4で2位となったなでしこは決勝トーナメントに進出します。

イングランドはW杯出場3度目、2012年のロンドン五輪にも英国代表として出場したベテランFWエレン・ホワイト選手(30)をセンターフォワードに置く必勝の布陣。日本はGK山下杏也加選手がファインセーブを連発するも、一瞬のスキも逃さないホワイト選手に仕留められました。

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データを見ると、なでしことイングランドの差はフィジカルと決定力でした。前半、なでしこの攻め手は横山久美選手のミドルシュートしかありませんでした。71分にFW菅澤優衣香選手が入ってから何度かチャンスが生まれますが、ゴールネットを揺らすことはできませんでした。

これに対してホワイト選手はパスをもらう走り方、フィニッシュも完璧な精度でした。イングランド代表の速さ、強さ、パスの距離、強さともになでしこを圧倒していたように思います。

女子クラブに力を入れるマンC

なでしことの試合で2点を決め、イングランド代表を勝利に導いたホワイト選手は今年5月に「欧州最高のチームに復帰してプレーしたい。欧州最高のプレーヤーになりたい」とマンチェスター・シティ(マンC)に移籍したばかりです。

イングランド代表にはマンCからホワイト選手のほか、クラブと代表で主将を務める親友のDFステフ・ホートン選手ら6人が加わっています。

常勝のジョゼップ・グアルディオラ監督に率いられた男子のマンCは昨季、プレミア史上初となる国内3冠(イングランド・プレミアリーグ、EFLカップ、FAカップ)、コミュニティシールドを含めてイングランドのクラブでは史上初の4冠を達成しました。

ブランド戦略会社ブランドファイナンスの「フットボール50」(2019年版)によると、マンCは世界のクラブの中で5番目に価値のあるブランド(12億5500万ユーロ)です。

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しかし伝統あるレアル・マドリード(スペイン)やマンチェスター・ユナイテッド(マンU)、FCバルセロナ(スペイン)、FCバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)にはまだまだ及びません。

アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビの石油マネーを背景にグアルディオラ監督を招いたのは、マンCをただ強いだけでなく、世界を代表する伝統的なクラブに仲間入りさせるためです。世界的なブランド構築を目指すマンCは女子クラブにも力を入れています。

女子クラブのマンチェスター・シティWFCは1988年に創設され、2016年シーズン(FA女子スーパーリーグとリーグ杯)と昨季(FA杯とリーグ杯)、2冠を達成しています。マンチェスターのライバルクラブであるマンUはFA女子スーパーリーグには参加していません。

ホワイト選手は英メディアにマンC入りした理由について「親友の1人、ホートンはクラブとその志、環境、文化、プレースタイル、彼女自身の成長について語ってくれた。私の夢を叶えられる場所と判断した」と話しています。

2代目「ヘアードライヤー」監督

昨年から女子イングランド代表の監督を務めるフィル・ネビル氏(42)はプレミアリーグのマンUやエバートンで505試合に出場、イングランド代表でも活躍した人気プロサッカー選手でした。英BBC放送のサッカー番組で解説していた時は「退屈で眠たくなる」と酷評されたこともあります。

なでしことの試合が終わった後、BBCにネビル監督はこう語りました。

「前半は良かったが、後半、2~3人の選手が疲れて十分にプレーできていなかった。意味のないパス回しにこだわらなかった。シンプルなパスを出すことに注意を払い続けた。2人のセンターフォワード(ホワイト選手とこの日は控えだったジョディー・テイラー選手)が3試合で4点を取ってくれた」

イングランド代表はなでしこの高速トライアングル・パスを封じるためDFとMFの7人でタイトに守り、パスを寸断。エース岩渕真奈選手のドリブルも相手DFの速さと強さに完全に封じられました。ネビル監督は徹頭徹尾、グループステージでの「3勝」にこだわりました。

ネビル氏ほどの現役時代のキャリアを持つ監督は女子代表では初めてです。昨年、女子代表の監督に就任する際、過去に「女性は朝食や子供の準備をするのに忙しすぎる」と受け止められるツイートをしていたため謝罪しています。

テレビに映るピッチ上では紳士のように行動していますが、ハーフタイムの更衣室では「ヘアードライヤー」の異名を持つアレックス・ファーガソン元マンU監督と同じように怒り狂うそうです。

主将を務めるホートン選手はBBCにこう語っています。「彼は叫んで、モノを蹴飛ばすの。私は十分にプレーできていなかったことを分かっているわ。私は怒られ役」と打ち明けています。

怒りの熱風を吐き出す2代目「ヘアードライヤー」ネビル監督には「女だから」という甘えと自己満足は通用しないようです。

何やらスポ根モノの少女漫画『サインはV!』や『アタックNo.1』を思わせますが、英国サッカー界のジェンダーフリー(性差解消)はこういう形で進んでいくのでしょうか。

世界中のタレントと個性ひしめくプレミアのカネと技術、戦術、ガッツが注ぎ込まれた女子イングランド代表の強さは新たなステージに入ったように感じました。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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