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学童保育に落ちて仕事に支障。埼玉県所沢市の保護者に聞いた「小1&小4の壁」の実態

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
放課後の小学生の下校イメージ(写真:アフロ)

「小1の壁」「小4の壁」という造語がある。

小学校に上がると保育園に比べ、子どもを仕事上がりの時間まで預けることが困難になる。また、夏休み冬休みなど長期の休みがあることで、ワーキングマザーが働き方の変更を強いられる問題を指す言葉である。

授業が終わった放課後は、公的な学童保育に預けるなどが一般的だが、学童保育は定員の問題などで低学年の受け入れが主となっており、高学年になる小学校4年生くらいを境に受け入れてもらえなくなるのが「小4の壁」だ。

就労以外にも、疾病や介護などの理由で子どもを放課後預ける必要が出てくる場合もある。たとえば、埼玉県所沢市の学童では、以下図の通り入所要件の具体例が記載されている。『※育児休業取得中は、「日中不在」扱いとはなりませんので、ご注意ください。』ともあるので、育休中は上の子を預けることが出来ないようだ。(以下図の要件を参照)

出典「令和2年度 所沢市放課後児童クラブ 入所のしおり」
出典「令和2年度 所沢市放課後児童クラブ 入所のしおり」

参考資料:「令和2年度 所沢市放課後児童クラブ 入所のしおり」

毎年この時期は「保育園落ちた」の悲鳴が上がるが、「学童落ちた」の時期でもある。

共働き世帯が増え、学童への需要も高まっている。もちろん自治体によって学童の受け入れ状況は様々だが、その実態はどのような状況なのか。埼玉県所沢市を例に、保護者や行政、民間団体に話を聞いた。

【補足】

児童福祉法に基づく「放課後児童健全育成事業」を一般的に「学童保育」、略して「学童」と呼んでいる。(厚労省の省令や通知などでは「放課後児童クラブ」の語が用いられる。)

埼玉県所沢市の「学童」には、民間事業者に指定管理または委託をしている「児童クラブ」もあれば、児童館のなかで運営している「生活クラブ」もある。

また、「学童」とは別に、文科省の教育委員会が所管の「ほうかごところ」という、月々500円~1000円で学校の敷地内で子どもたちが自発的に遊んでいる「放課後子ども教室」もある。

それ以外の選択肢としては、月謝は高いが送り迎えもしてくれる英語・プログラミングなどを習える民間企業の塾などがある。

取材に答えてくれたAさん/取材時に筆者撮影
取材に答えてくれたAさん/取材時に筆者撮影

●学童に落ちて、仕事を辞めることになったAさん

朝9時から17時まで派遣社員として働いていたAさん。子どもが小学校1年生の時は、学童に入れていた。昨年(2019年)4月、子どもが小学校2年生になり、週1回習い事に通わせることにした。本当は習い事のある木曜日だけ仕事を1時間早く切り上げたかったが、派遣先と派遣元との関係で、月~金曜日まで一括して16時と短くするしかなかった。

そのことによって、他の人より学童に預ける必要性がないとみなされ、学童に落ちてしまったようだ。Aさんが子どもを通わせていた学童は定員を遥かに上回る申し込みがあり、1度落ちたら、退所児童が出ても優先順位順での入所となるので、すぐに入れる状況になかったようだ。

学童の職員さんたちは子どもをとても良く見守ってくれていて、子どもも学童が大好きだった。他の友達たちは学童に行くのに、下校が一人になってしまい泣いて帰って来たという。落ちてしまってから、放課後に子どもをどう過ごさせたらいいのか、分からなくなってしまった。

結局Aさんは仕事を辞めることにした。今年(2020年)1月からまた別の仕事を見つけたが、自分の今までのスキルとはかけ離れてしまったので、残念な気持ちが残っているという。

●小学校4年生で学童に落ちて、時短勤務に変更したBさん

Bさんはフルタイムで働く、二人の子どものママ。上の子が小学校4年生になった昨年(2019年)に、学童に落ちてしまった。夏休みなどの長期休みに子どもを見てくれる人がいないため、時短勤務に変更したという。

国の法律では、時短勤務は3歳までの利用だが、Bさんの会社では小学校入学前の5歳まで利用可能と独自に設けていた。その当時、下の子が幼稚園の年長(5歳)だったので、下の子に使う名目で時短勤務を利用した。

今年(2020年)4月から下の子も小学校に上がるので、時短勤務が使えなくなる。Bさんは、職場を変えてパートになるしかないと考えている。

Bさんは学童保育の受け入れ枠を増やして欲しいという。小学校6年生まで見てもらえると助かるし、学童側も低学年だけでなく高学年がいることにより、グループ活動など縦割りで学べることもあるのではないかという。

●小学校4年生で学童に落ちたが、なんとかやりくりしたCさん

Cさんは8時半~17時まで医療関係の職場で働いている。二人の女の子を育てる共働き家庭だ。昨年(2019年)上の子が小学校4年生になるときに、学童に落ちてしまった。

そのときに入れた4年生は全体のうちわずか2名で、いずれもシングルマザー家庭の子どもだったという。

平日は習い事に通わせて、ごまかすしかない状況。夏休みは、そのほとんどを塾の夏期講習にあて、開始時間よりも早い朝8時の自習室に子どもを置いて来たりしていた。どうしようもない日は、子どもにCさんの職場の事務室にいてもらったりもした。

両親ともに医療従事者のため、職場に勤務調整をお願いして、夫の夜勤あけを平日にしたり、夜勤を休日に当ててもらい代休を発生させて平日休みを取ったりしていた。

また、同じ学童に入れなかったママ友と相談し、どちらかが休みの日に子どもの面倒を見合ったりした。

上の女の子の精神年齢が比較的高かったのでなんとかなったが、そうでなければパートになるしかなかったという。

Cさんは、学童問題が個別事情になってしまっていることが問題だと指摘する。入れなかったら入れなかったで、何とかやりくりするしかないので、ほかの家庭も同様だが、皆でまとまって声を上げるとはならず、時が経てば興味が薄れてしまうのが問題だという。

●学童を所管する所沢市こども未来部青少年課に状況を聞いた

青少年課課長の森田茂明さんに、今年(2020年)2月の所沢市の現状について聞いてみた。

2月3日付けで入所通知と保留通知を発送しているという。申し込み希望者は3796人。そのうち、入所できたのが3324人、保留つまり入れなかった人が472人で発送したとのことで、8人に1人が学童に落ちている状況だった。

学童に落ちてしまう保留数も増えているが、学童への申し込み自体が年々増えてきているという。(児童数は微減だが、共働き世帯数が増えている。)

ただ、2月3日付けの発送で確定なわけではなく、青少年課としても少しでも多くの人が学童に入れるよう、保留通知に同じ小学校区に空いている児童クラブがある場合、書面を入れて再申込みを促している。なので、2月3日付けの決定通知を出してからも、若干の入所数の増加があるとのことだった。

学童の入所の判定基準は点数によって設けられていて、各児童クラブで公開している。各児童クラブに問い合わせてもらえば、自身の点数が分かるとのこと。

点数は、保護者の就労時間や日数(正規か非正規かは関係なくあくまで時間)、世帯の状況(一人親世帯、子どもの障害など)、子どもの学年(学年点は高学年の方が低い)などで決められている。そのため、学年が上がるほど入りづらくなってしまう。

所沢市としては、学童への希望者が増加していることに合わせて、今年までの4年間で約500人、来年度にかけてさらに約150人の受け入れ拡大を予定している。それでも申込者が増えている状況で、それに応じて今後も計画的に拡大を図っていくという。

●「数」を増やすことが優先で、「質」の問題がおろそかに

埼玉県学童保育連絡協議会の事務局次長、森川鉄雄さん(62歳)によると、学童保育を巡る環境はここ数年激変しているという。

1950年~60年高度経済成長期のベビーブームの頃に、保護者の間で草の根的に学童保育が出来て行った。1998年児童福祉法の改正で、学童も法律に則って運営するようになっていく。2015年子ども子育て新制度が始まり、指導員の資格が定められ、予算も大幅に増額された。そうした制度改正に伴い企業の参入が急増してきた。

共働き世帯が増え、保育園の待機児童問題から学童の待機問題についても関心が高まった。その影響からか、「数」を増やすことが優先となり、「質」の問題がおろそかになっているという。

支援員を非常勤だけで回したり、シルバー人材だけで構成されていたりなど、とにかく人を集めれば良いというような傾向も見られる。企業が新規参入したことで、支援員が入れ替わり混乱する事態や、支援員のレベルが低いなどの声も出ていると森川さんはいう。

(埼玉県学童保育連絡協議会とは、保護者と指導員で構成し、学童保育の充実と発展のための活動に取り組んでいる民間団体。)

~筆者より~

学童待機の問題と保育の質の問題は、本来両立させつつ解決すべき問題だが、急激に「数」を増やせば「質」が追いついていかないといった、ある意味相反しかねない問題でもある。

学童の入所希望者の需要に応えつつ、「質」の問題も両輪で進めてもらえるよう、国や行政、各施設にお願いしたい。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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