「働かないおじさん」よ立ち上がれ!【白河桃子×山﨑京子×倉重公太朗】第1回
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今回のゲストは、白河桃子(しらかわ・とうこ)さん。ダイバーシティや働き方改革、ジェンダー、女性活躍、ライフキャリアなどをテーマに著作、講演活動を行っています。「働き方改革実現会議」「男女共同参画会議 重点方針専門調査会」「テレワーク普及展開方策検討会」など多数の政府の委員も歴任されている方です。 2021年2月には『働かないおじさんが御社をダメにする ミドル人材活躍のための処方箋』(PHP新書)も出版されました。コロナウィルスのまん延で、働き方が否応なしに変わるパラダイムシフトが起きました。そんな中、変化に対応できずにいる「働かないおじさん」問題が浮き彫りになっています。問題の本質と改善点は何でしょうか? 立教大学の社会人MBAの特任教授、山﨑 京子さんもお招きし、日本の雇用慣行や制度改革について話し合いました。
<ポイント>
・働かないおじさんはなぜ生まれるのか?
・ミドルシニアが抵抗勢力になる「昭和レガシー企業」
・日本企業の足を引っ張る「同質性」の問題点
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■働かないおじさんが生まれる構造的問題点
倉重:きょうは鼎談(ていだん)ですね。白河桃子さんと、山﨑京子さんにお越しいただいています。早速ですが、ご自身のキャリアも含めて簡単に概要をお話しいただきたいと思います。まず、白河先生、お願いします。
白河:はい。今年の2月に『働かないおじさんが御社をダメにする』という本を上梓(じょうし)しました。これはミドル人材活躍のための処方箋なのですが、この本に関して対談のお声がけをいただきました。私は元々ジャーナリストであり、ダイバーシティや女性のライフキャリアが専門です。中央大学ビジネススクールの佐藤博樹先生のところで、人的資源管理についての修士論文を書いたばかりです。元々「女性と仕事」を専門にしてきました。経営学を専攻したのは、「経営者の視点を知らないと経営者を説得できない」と思ったからです。ずっと女性のライフキャリアや仕事との両立、社会におけるダイバーシティーの重要性について考えていました。私がジャーナリストとしての道を歩むことになったきっかけは、『「婚活」時代』という本を山田昌弘先生と一緒に書いたことです。
倉重:そうなのですね。
白河:はい。婚活、妊活、就活のテーマで本を書きました。全部女性の問題ですね。そのうちに、「これは女性だけで解決するのは無理ではないだろうか」と思いました。
倉重:なるほど。片面的ですものね。
白河:そうです。今は24時間働けて、専業主婦の奥さんにケアや家事育児を全て丸投げしている人しか上に行けないようなシステムです。働き方が変わらないと駄目だと思って、「一億総活躍国民会議」や、「働き方改革実現会議」の有識者議員の時に、労働時間にフォーカスした働き方改革を提言してきました。
私は残業の上限規制を入れようと、小室淑恵さん(ワーク・ライフバランス社社長)たちとチームで提言していたのです。「日本初の」と言うと認識が違う人もいると思いますが、残業の上限がやっと19年から法律となりました。制限速度のなかった高速道路に制限を付けて、やっと働き方改革が少し良くなってきたところで、今度はコロナですよね。
倉重:日本の労働法史上初の労働時間上限規制と言って良いのではないでしょうか。
白河:関心事が女性の働き方や、「女性が望むライフやキャリアを実現するには」というところが焦点だったので、男性の本はあまり書いたことがありませんでしたが、今回初めておじさんの本を書いたのです。「女性は意識が低いから管理職になれない」などと言われる度に、「それは構造の問題です」と言ってきました。それでは男性にも同じ構造問題があるだろうと。今、企業で働く人の大部分が45歳以上の男性なので、どうしても「おじさん」という総称にはなってしまうのですが、彼らがこうなったのも構造の問題であると言わなければ、やはりおかしいと思います。
倉重:確かに、個人では無くシステムの問題ですから、個人攻撃はフェアではありませんね。
白河:構造を突き止めたところでこういう本になりました。
倉重:タイトルは、『働かないおじさんが御社をダメにする』と、刺激的なタイトルになっていますが、別に、個人を責めるとか悪口を言うわけではなくて、構造的に変えていくべきだという話ですよね。
白河:そうですね。構造自体を変えないと駄目だという話を常にしたいなと思っています。ちなみにこのタイトルは編集者が付けました。(笑)
倉重:なるほど、そうだったんですね(笑)。ありがとうございます。では、この本の中にも登場するので、本日お越しいただいていますが、山﨑さんも簡単にキャリアと自己紹介をお願いします。
山﨑:こんにちは、山﨑です。白河先生に取材に来ていただいたときには学習院大学所属でしたが、現在は立教大学の社会人MBAで人的資源管理とキャリアデザインを教えています。
白河:社会人大学院は面白いですものね。
山﨑:面白いですよ。「そもそも役職定年は要る?」というような話もします。実力主義にすれば問題がないのではないかという意見も出ます。
倉重:年齢で区切る意味は何なのかと。
山﨑:逆に「あれは不公平だ」「年齢差別だ」という話が加熱して面白かったです。私は、外資系3社で人的資源管理の担当をしていたのですが、会社にいるときから「同質性」というものにすごく違和感がありました。外資系だったので、同質性のある組織では決してなかったのですが、日本の社会全体を見ると、この同質性というものが足を引っ張っていることが多々あるなと思いました。
特に「出るくいは打たれる」という言葉が日本にあるように、少し創造的なアイデアを言うと、悪目立ちしてしまうのはどうなのだろうと思います。もっと異端者が受け入れられる社会が必要なのではないかというのが、自分の中のテーマとなって、大学院に通っています。 筑波大学でMBAを取った後、神戸大学の金井壽宏先生のところで博士号を取ったときのテーマが、「個人と組織の適合と不適合のダイナミクス」でした。
最終的に組織との不適合を感じた人たちは、どのような行動を起こしているのかを博士論文にまとめたという経緯があります。
白河:非常に興味深いですね。
山﨑:倉重先生や白河先生と入り口は違うのですが、多分、目指しているところは一緒だなと思いながら、今回ご一緒させていただくことを光栄に思っています。白河先生が取材にお越し下さったのは、私が日本人材マネジメント協会で今野浩一郎先生たちと共に、シニアのキャリア・シフトチェンジに必要な能力要素を作成し、ワークショップをインストラクションできる講師を全国で育成する活動をしているためです。
倉重:私も労働法の会社側の代理人として、過労死の案件などに携わっていましたので、残業規制が入って、働き方が変わっていく現場もかなり見ています。「働かないおじさん問題」ということを少し整理したいのですが、本書の中では、働かないおじさんというのは、「生産性と賃金が逆転している人」であると定義されているだけではなく、「変化に対応できない人」であると書かれています。ここも大きいですね。
白河:そうですね。働かないおじさんというのは一つの問題でもありますが、ある程度偉くなって管理職になっている人たちも、非常に同質性が高いのです。だから、全ての変化を拒む人たちの問題を書いたつもりです。
倉重:なるほど。個人というよりも、そういった問題の総称だなと思います。また、おじさん自身も、「働かないおじさんになりたくてなったわけではない」というご指摘もありました。日本の働き方でどうして働かないおじさんが生まれてしまうのか教えてください。
白河:「メンバーシップ雇用だから」と言ってしまうとすごくざっくりなのですが、やはり時代が変わったということです。昭和の高度成長期には、企業がもうかって、日本全体が良かった働き方は確かにありました。そのころは、どちらかというと工場労働者みたいな人的資源管理でしたよね。
「時間を創出することが企業への忠誠である」という働き方や、それに対しての評価がずっと続いていて、変わりきれませんでした。それにはいくつか事情があります。一つは、おじさんたちは一家の大黒柱です。家族社会学的な問題になってくるのですが、女性は専業主婦になるしか選択肢のない時代というのがありました。好みの問題ではなく、そうならざるを得ない時代です。女性の収入がゼロになれば、それを支えるのは一家の大黒柱である男性ですよね。
その人たちは絶対に会社でお金をもらわないといけない立場です。「転勤しろ」と言われたらどこでも転勤するし、理不尽な残業でもこなさなければなりません。家族をある程度人質にとられたような立場で、企業戦士ならざるを得ませんでした。そのころの企業の管理では、「イノベーション」などとは誰も言いませんでしたから。
倉重:先輩の背中を追い掛けていれば良かったのですよね。
白河:「わきまえる男になれ」というような管理だったと思います。組織に最適化するように教育されてきた人たちですよね。それが何年も続いて、企業戦士のよろいを着て、ガチガチに固まってしまいました。働き方改革やダイバーシティーなど、いろいろなものが変わろうとするときに、一番の障害になるのがよろいを着た企業戦士の集団のように私には見えています。
倉重:会社の肩書は言えるけれども、何ができる人なのかは言えないみたいな話もありましたね。
白河:そうです。全ての会社が変革しようとするときの障害になっているのが、やはり「粘土層」といわれる人たちです。
倉重:山﨑さんは外資系で働いていらっしゃいました。こういう問題は全くないですか?
山﨑:日本企業ほどではありません。
倉重:でも日本化している外資系だったらありますよね。
山﨑:そうですね。私がいたのは、ロイター通信やGMなど、比較的外資系企業に近いところでしたし、新卒採用もあまりしていないところでした。今で言う典型的なジョブ型で、日本国内におけるジョブ型組織だったと思います。
倉重:最近、ジョブ型の議論が結構多く出てくるようになってはきましたけれども、少し誤解も多いかなというところで、この連載でも取り上げています。「ジョブ型にしたら全て解決だ」とか、「ジョブ型にしたら解雇しやすくなる」という話ではないですよね。
白河:それは全然違うと思います。
倉重:働かないおじさんがなぜ生じるのかと、メンバーシップによる問題ということでした。特に、高度経済成長期が終わって、「失われた30年」ともいわれる中で、本当に過去の再生産でいいのか、イノベーションを起こさなければいけないのではないかというジレンマに突き当たっているからこそ、生じている問題ですかね。
白河:そうですね。「昭和レガシー企業」と呼んでいるのですが、割と立派な企業の人材の構成を見ると、霞が関もまさにそうなのですが、45歳以上の男性でできています。女性がいるといっても大した数ではありません。とくにメディアはひどいです。新聞社も平均年齢50歳ぐらいではないですか。
倉重:「平均年齢が」、ですよね。
白河:そうです。平均年齢がすごく高いです。45歳以上だと、本当に男性ばかりです。そういう方々が企業の上のほうにいて、お給料も高いので、会社の経営層も少し重荷に思っていることは確かです。
倉重:おじさんだらけであるということの問題は、同質的であるということですか。
白河:そうですね。同質性が高まると、データ改ざんや金融不正などの不祥事が起こるリスクも上がります。誰か一人が悪人だったというよりは、長年の慣習通りにしてしまったり、組織に一個人が逆らえないので、辞めるか従うしかない状況で不正に加担してしまったりするのです。
私はハラスメントの本も出していますが、それもまさに組織の問題です。ハラスメントしやすい人はいますけれども、その人たちのハラスメントが発動するのは、組織がそれを許す風土にあるときだけなのです。私はこのことを霞が関で一番感じています。よく研修などを頼まれるのですが、構成を見るとほとんどが45歳以上の男性です。その人たちが今かなり機能不全に陥っていて、さまざまな問題が起こっていることを感じています。
倉重:霞が関も、一人ひとりはとても優秀ではないですか。しかし、集団になるとうまく機能しない理由は何でしょうか。
白河:集団が個人の能力の総和より低いレベルの意思決定をしてしまうことを「集団的浅慮」と呼んでいます。それを防ぐにはどうしたらいいかについては、いろいろな研究がされています。集団的浅慮の特徴は、例えば「悪い情報を上げない」「集団の力を過信し過ぎてしまう」「全員一致の幻想を見てしまう」ということです。今起きている日本の不祥事はほとんどこれだなと思います。
倉重:社内ルールを法律や法令よりも優先してしまうのですね。
白河:そうなのです。ですから、「明らかにこれはハラスメントでしょう」と思うのだけれども、「このぐらいみんながやっている」という感覚になってしまうようです。メディアと財務省の事件などもいろいろありましたね。やはり日本の企業は、いわゆる「経路依存性」がすごく強いのです。それがさまざまな問題の温床になっていますし、変われない理由になっています。変化しないと生き残っていけません。女性が働くというところでも、一番ハードルになるのはそういう人たちなのです。
倉重:同質化が進めば進むほど、会社のルールになじんでしまって、悪いことも悪いことと言えなくなるという問題点があるということですかね。
白河:そうですね。イノベーションが起きないのはもちろんのことですが、もっとまずいことがたくさんあるのではないかと思っています。
倉重:山﨑さん、この点はいかがですか? 実際に外資系の企業にお勤めされて、同質性の高くない組織でのご経験もあると思うのですが。
山﨑:同質をどう捉えるかという視点も大事になります。研究の中では、「組織文化が従業員の方々のロイヤリティーやチームのパワーを上げていく」「一つの暗黙知としての共通言語のようなものが大事だ」という報告もあります。日本で言っている同質性は、「暗黙知を共有していく」という組織文化の一つでもあるのです。
それと、外資系が言っている組織文化との違いは何なのかなと比較して考えなければいけません。外資系が全部良いとは言いませんし、いわゆるジョブ型の陰の部分も当然ありますが、少なくとも私が経験してきた3つの外資系の文化で共通していることは、「ダイバーシティーを重視することが文化の一部になっている」という点かもしれません。
ここでいうダイバーシティーとは、一人ひとりをリスペクトするということです。「女性だから」とか、「マイノリティーだから」という属性に限定せず、一人ひとりが持っているパワーを最大限に引き出していくことがマネジャーの役割と考えているところが共通していました。自由に発言したり、チャレンジしたりすることが受け入れられる文化でしたし、そういう文化をつくろうとしていた印象があります。
倉重:白河さんの本でも書かれていましたが、文化や風土を根本から変える必要があるけれども、そのためには、ボリュームゾーンであるミドル層の意識を変えなければいけないということですね。
白河:本当にそのとおりだと思います。その方たちも意識を変えれば、まだまだ伸び代があるのです。イノベーションを企業に強制創出させるファシリテーションのようなことをされている大学教授は、「日本企業に行くと『うちは男ばかりだし、年齢も同じぐらいだし、多様性がないのでイノベーションが起きない』と必ず言うけれども、実はそうではない」とおっしゃっていました。その人たちも、個人に立ち返れば、みんなそれぞれ違う人であり、個性を持っているのです。結局個人に立ち返る隙を与えなかったのが、今までの日本企業の文化だったので、イノベーションも起きてこなかったのだと思います。
倉重:本来一人一人、同じ男性出会ったとしても違う個性を持っているはずですが、いつの間にか個性を消すような教育になってしまっていたということですかね。
白河:そうです。そのほうが、都合が良かったからです。
山﨑:マネジメントしやすいですからね。「右向け、右」ができるから楽でしたし、意志決定と行動のスピードも速かったので、高度経済成長期は、それが功を奏したとは思います。
(つづく)
対談協力:白河 桃子(しらかわ とうこ)
相模女子大学大学院 特任教授、 昭和女子大学 客員教授 、 東京大学 大学院情報学環客員研究員
東京生まれ、私立雙葉学園、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。住友商事、リーマンブラザースなどを経て執筆活動に入る。 2008 年中央大学教授山田昌弘氏と『「婚活」時代』を上梓、婚活ブームの火付け役に。2020 年 9 月、中央大学ビジネススクール戦略経営研究科専門職学位課程修了。働き方改革、ダイバーシティ、女性活躍、 SDGs とダイバーシティ経営などをテーマとする。「働き方改革実現会議」など政府の有識者委員、講演、テレビ出演多数。
山﨑 京子(やまざき きょうこ)
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授、日本人材マネジメント協会副理事長
アテナHROD代表
ロイタージャパン、日本ゼネラルモーターズ、エルメスジャポンでの人事実務を経て、アテナHROD設立。社会人大学院で人的資源管理とキャリア・デザインの教鞭を執る傍ら、日本企業での人事コンサルティングや研修講師、さらにJICA日本人材開発センタープロジェクトの教科主任として7か国(ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、モンゴル、キルギス、ウズベキスタン)の現地経営者に対して人的資源管理の実務指導を行う。
2009年筑波大学大学院ビジネス科学研究科修了、2019年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(経営学)。