日本球界にとって損 “田沢ルール”はすぐに無くすべき
米大リーグ、レッドソックス時代の2013年に一緒にワールドシリーズ制覇の喜びを分かち合ったタズ(田沢純一投手)が日本の独立リーグ、ルートインBCリーグの埼玉に入団した。
今年3月にマイナー契約していたレッズを自由契約となり、日本に帰って練習をしていたことは知っていた。コロナ禍でマイナーリーグでプレーする環境が早々と閉じられてしまった中で、今後のことを考えての決断だったと思う。埼玉に入団することは発表前にわざわざ連絡をくれた。
まずは野球ができるということで、タズにとっても良かったと思う。野球がしたいという現役選手にとっては、プレーできる場所があるといのが一番だ。34歳ともう若くはないが、自分に悔いのないようにプレーしてほしいと思う。
タズは2008年、新日本石油ENEOS(現ENEOS)から日本のドラフト指名を拒否してメジャー挑戦を表明。09年からレッドソックスに所属した。くしくも私が巨人をFAになってオリオールズに移籍したのも09年で米球界では"同期"だ。
マイナーからはい上がってきた経歴からもわかるように、マウンドではどんな修羅場にも動じない肝っ玉の据わった投手だ。練習やトレーニングでも周りに流されることがない。自分がやるべきメニューをきちんとこなしたら、ダラダラとクラブハウスに残ることなく帰っていた。
私は大阪体育大を卒業するとき、巨人かメジャーかで悩んだことは周知のとおりだ。結局は大きな不安が解消されることなく、その時点でのメジャー挑戦を断念した。もちろん、自分を成長させてくれた巨人にはとても感謝しているが、夢だったメジャー挑戦にはフリーエージェント権を得るまで10年を要した。
一方で、日本で実績を積んだおかげで、最初からメジャー契約で待遇には恵まれた。マイナーの厳しい環境に身を置いたタズの経験が知りたくて、話を聞かせてもらったことがある。自分からは苦労を口にしないが、質問したら答えてくれた。日本のドラフト1位候補でマイナーからはい上がったという経験はタズしか持っていない。
そんなタズを今なお縛っているのが「田沢ルール」だ。"第2の田沢"を出すまいと、日本のプロ野球(NPB)が「ドラフトを拒否した選手は海外の球団退団後、高卒は3年間、大学・社会人出身は2年間、日本のプロ野球(NPB)でプレーできない」という"ペナルティー"を課すことを申し合わせ、タズのメジャー挑戦から10年が経過しても存在している。
私自身は「何のためのルールなのか」と怒りを覚える。またの機会にもじっくりと書かせてもらうが、ポスティングシステムに対しても、同じく廃止すべきという考えだ。
田沢ルールに関しては、生まれ育った日本で野球をやってきたからといって、NPBがドラフト指名で優先する権利はない。田沢ルールは、メジャーに行きたいという選手の未来をつぶす弊害でしかない。
「メジャーに挑戦してダメだったから日本でプレーするというのは安易な考え。一定の規制が必要」「NPBもビジネスなのだから、若い有望選手をメジャーに取られたくない」などと田沢ルールを肯定する主張があるが、帰国後にNPBの球団に入るときには、ドラフトにかからなければならないというルールがある。その時点で活躍しないと思えば指名しなければいいだけの話で、わざわざ2年とか3年はプレーできないと縛る必要はない。
そもそもマイナーから挑戦しようという選手が「安易な考え」でアメリカに行くという発想がおかしい。メジャーでプレーできるのは、ほんの一握り。そんな甘い世界ではない。成功できる保証がなくても、挑戦したいという選手がいるのなら、私は応援したい。
タズの技術や経験が聞けるのは、独立リーグの選手にとっては貴重な財産だろう。NPBの選手だって、知りたいはずだ。ルールで縛ることで、結果的に日本のプロ野球が損をしている。そんな気がしてならない。