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寒暖差に注意 10月19日の東京は昼間は真夏日で夜は冬の到来を告げる「木枯らし1号」か

饒村曜気象予報士
木枯らしのシルエット(提供:イメージマート)

真夏のような陽気

 きょう、令和6年(2024年)10月19日は、北海道を通過する低気圧から日本海沿岸に伸びる前線に向かって南から暖湿気流が流入する見込みです(図1)。

図1 予想天気図(10月19日9時の予想)
図1 予想天気図(10月19日9時の予想)

 このため、沖縄と西日本から東日本の太平洋側では気温が上昇し、東京や沖縄を中心に、気温を観測している914地点のうち約7パーセント(69地点程度)で、最高気温が30度以上の真夏日に、約57パーセント(520地点程度)となる見込みです。

 気象庁が発表している東京都心の時系列予報によると、日中の最高気温が30度と、真夏日となる見込みです(図2)。

【追記(10月19日13時45分)】

 東京都心は、13時31分に30.1度を観測し、10月19日は真夏日となりました。今年83日目です(平年は52.1日)。

 そして、東京都心は、明治8年(1875年)6月5日以降の気象観測がありますが、最も遅い真夏日となりました。また、これで10月に3日目の真夏日となりましたが、10月に真夏日が3日以上というのも、初めてのことです。

図2 東京の時系列予報
図2 東京の時系列予報

 そして、昼過ぎから気温が降下するのですが、風については注目すべき点があります。

 それは、昼前から夕方までは南の風6から9メートルに対し、夜のはじめ以降は北の風6から9メートルとなっているからです。

 これは、寒冷前線が通過し、西高東低の冬型の気圧配置となって寒気が南下することに対応しています(図3)。

図3 予想天気図(10月19日21時の予想)
図3 予想天気図(10月19日21時の予想)

 気象庁の天気予報作成の元となっているコンピュータの計算の一つは、図4のように気温が28度から15度まで半日で13度も急降下しています(気象庁は、いくつかの計算をもとに総合判断で予報を作成していますので、図4と実際に発表する予報とには差があります)。

図4 東京の1時間ごとの風と気温(10月19日1時以降はコンピュータによる予想)
図4 東京の1時間ごとの風と気温(10月19日1時以降はコンピュータによる予想)

 10月19日夜遅くに、西高東低の冬型の気圧配置となり、東京で北よりの強い風が吹くということは、「木枯らし1号」が吹くということになります。

 つまり、真夏日を観測した日に、「木枯らし1号」が吹くということになります。

【追記(10月20日9時30分)】

10月19日夜は、予想通り北よりの風に変わって気温が急降下したのですが、瞬間風速は10メートルを超えたものの、平均風速は6メートルを少し上回る程度でしたので、「木枯らし1号」とはなりませんでした。

「木枯らし1号」の定義

 気象庁では、東京地方(島嶼部を除く東京都)と近畿地方について、定義をきめて「木枯らし1号」が吹いたとの情報を発表していますが、この定義に気温は入っていません(表1)。

表1 木枯らし1号の定義
表1 木枯らし1号の定義

 気温が高くても、3条件を満たせは「木枯らし1号」となります。

 東京地方で「木枯らし1号」が一番早く吹いたのは、昭和63年(1988年)の10月13日、逆に一番遅く吹いたのは昭和56年(1981年)の11月28日です(表2)。

表2 東京地方の木枯らし1号の早い方の順位と遅い方の順位(昭和26年(1951年)~令和5年(2023年))
表2 東京地方の木枯らし1号の早い方の順位と遅い方の順位(昭和26年(1951年)~令和5年(2023年))

 つまり、きょう、10月19日に「木枯らし1号」が吹くとすると、早い方の5位ということになります。

 また、気象庁は「木枯らし1号」についての平年値を発表していませんが、ウェザーマップの片山由紀子気象予報士が平年値と同じ期間の平均をととった所によると11月5日になります。つまり、立冬の頃に「木枯らし1号」が吹くということになります。

「春一番」と「木枯らし1号」の情報の差

 「春一番」が吹いたという情報は、北海道を除く全国を10の区域に分けて定義をきめて発表していますが、「木枯らし1号」が吹いたという情報は、東京を主にしたものと近畿地方だけの情報です。

 また、意味合いが同じといっても、発表期間が東京地方は11月末まで、近畿地方は冬至までですので、12月に東京地方の発表は完全にありませんが、近畿地方は発表の可能性があります。

 この差は、「春一番」が吹いたという情報が、暴風等に対する警戒を呼び掛けるという防災情報の側面を持っているのに対し、「木枯らし1番」が吹いたという情報は、冬への季節の変わり目を知らせる意味はあるものの、防災情報という側面がやや弱いからと思われます。

 気象庁が「春一番」が吹いたという情報を発表するようになったのは、キャンディーズのヒット曲からですが、「木枯らし1号」が吹いたという情報を発表するようになったのは、テレビドラマ「木枯らし紋次郎」のヒットからです。

ヒット曲「春一番」とテレビドラマ「木枯らし紋次郎」

 「春一番」の語源については諸説ありますが、「長崎県壱岐郡郷ノ浦町(現・壱岐市)で安政6年(1859年)2月13日に五島近海での海難で53名が死亡したときに言われた」というのが定説になっています。

 気象関係者の間で使われ出したのは、昭和31年(1956)2月7日の日本気象協会の天図図日記からと言われています。そして、マスコミに取り上げられたのは、昭和37年(1962年)の「春一番」からですが、「春一番」が一躍有名になったのは、昭和51年(1976年)のキャンディーズの大ヒット曲からです。

 昭和51年(1976年)3月にリリースされたアイドルグループ・キャンディーズの9枚目のシングル「春一番(作詞・作曲・編曲:穂口雄右)」の歌詞は「雪がとけて川になって流れ、風が吹いて暖かさを運んできた」という、海難を引き起こす危険なイメージの「春一番」とは別の側面ですが、「春一番」という言葉を浸透させました。

 そして、気象庁には「春一番」の問い合わせが殺到するようになり、気象庁は春一番の定義を決め、昭和26年(1951年)まで遡って春一番が吹いた日を特定し、平年値を作り、「春一番の情報」を発表せざるをえなくなっています。というより、春一番という言葉が浸透したことを利用し、防災情報の充実をはかっています。ヒット曲が気象庁の業務を変えたのです。

 「木枯らし1号」も似た状況と思われます。

 「木枯らし1号」という言葉が初めて使われたのは、日本気象協会が発行(気象庁監修)していた月刊誌「気象」の昭和36年(1961年)11月号です。

 天気図日記という記事で用いられたのですが、それまでは、「木枯らし一番」とか、「この秋初の木枯らし」など、決まった名称はありませんでした。

 ただ、当時は、「木枯らし1号」の明確な定義がなく、経験的に判断されていたようです。

 最初に「木枯らし1号」の定義が示されたのは、月刊誌「気象」の昭和48年(1973年)で、そこでは、天気相談所長の宮沢清治さんが、昭和45年(1970年)10月26日を例に「木枯らし1号」を説明しています(図5)。

図5 地上天気図(昭和45年10月26日3時)
図5 地上天気図(昭和45年10月26日3時)

 そして、その後、天気相談所の小山博氏と大沢重雄氏が昭和21年(1946年)までさかのぼって「木枯らし1号」の調査をしています。

 宮沢清治さんの「木枯らし1号」の定義は、最大風速が10メートル以上であるなど、現在とは多少違いがありますが、定義を決めて調査したというのは大きな意味があります。

 昭和48年(1973年)に「木枯らし1号」の定義を決めて調査した理由についての記録は残されていませんが、1年前の昭和47年(1972年)、フジテレビ系列で、原作・笹沢佐保、監督・市川崑、主演・中村敦夫で「木枯らし紋次郎」が放送されています。

 視聴率が30パーセントを超える人気となり、「あっしにはかかわりのないことでござんす」は流行語になっていますので、少なからずというか、たぶんこれが直接のきっかけと思われます。

 読売新聞、朝日新聞、毎日新聞で「木枯らし1号」を検索すると、昭和44年(1969年)11月7日の読売新聞夕刊が初出のようで、昭和48年(1973年)以降は、よく使われています。

引用:昭和44年(1969年)11月7日の読売新聞夕刊

「立冬」の冷え込み 各地で氷点下

きょう7日は立冬 

ここ数日、木枯らし第1号に見舞われて冷え通しの日本列島は、けさも各地で氷点下を記録、こよみ通り寒い朝となった。

 また、「木枯らし1号」の発表が始まった頃は、12月に発表したり、関東地方に発表したりと、現在とは定義が少し違っていました。

引用:昭和52年(1977年)12月3日の朝日新聞朝刊

木枯らし1号 ヒュー

2日午後から夜半にかけて日本列島に、強く、冷たい北風が吹き抜けた。この朝、太平洋上にできた低気圧が発達し、日本列島には大陸の高気圧が張り出して「西高東低」の典型的な気圧配置となったためで、気象庁は、東京地方の風に「木枯らし1号」と命名して発表した。

 10月19日に「木枯らし1号」が吹いても一時的で、大陸から大きな高気圧が移動してくる見込みです(図6)。

図6 予想天気図(10月20日9時の予想)
図6 予想天気図(10月20日9時の予想)

 今年は、「木枯らし1号」が早く吹いたとしても、気温は高めに経過し、冬への季節の進みは遅そうです。

表1、表2の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図1、図2、図3、図6の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図5の出典:宮沢清治(昭和48年(1973年))、木枯らしの季節、気象、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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