コロナ禍でも黒字を守った餃子酒場、店名から「酒場」を外して見えた次の勝算
コロナ禍によって飲食業界では経営方針の転換が行われている。直近では2020年6月期決算を発表した株式会社NATTY SWANKY(本社・東京)の動向に、これからの外食ビジネスの在り方を示唆するものが感じられた。筆者は9月8日に同社代表の井石裕二氏に直接取材をしたので、その内容をまとめて筆者の見解を述べたい。
この社名は聞き慣れないかもしれないが、餃子酒場の「ダンダダン」を展開している会社だと言えば、首都圏の人にとってはお馴染みのことであろう。この8月末で93店舗(うちフランチャイズ21)を展開している。メイン商品は「肉汁焼餃子」で大振りの餃子が6個盛り付けられている。商品名にあるように「肉汁」がたっぷりなのが特徴で不用意に餃子を口に入れると、熱々の肉汁が飛び散ることになる。フードメニューは全体で40品目程度だが、お客の一番の目的は肉汁焼餃子であるからこの品目数で十分だ。
餃子はこれまで「町中華」の店で副菜の定番であり、ラーメンやチャーハンが出来上がる前にビールのおつまみとして食べるという位置づけであった。これが今日「餃子酒場」という言い方で通じるようになったのは、ダンダダンが先駆けである。1号店は2011年1月に東京・調布でオープン、当初は京王線沿線で店舗展開していたが現在では一都三県の他に北海道、宮城県、愛知県、広島県、福岡県に出店し全国に広がっている。
解約コストが発生しても新規出店を中止
さて、同社の2020年6月期は売上高42億5500万円、営業利益は900万円、コロナ禍の中で黒字となった。コロナ禍にあって多くの飲食業ではテイクアウト・デリバリーを手掛けたが、ダンダダンでは元々店舗にテイクアウトコーナーを設けて、冷凍の生餃子や焼き餃子を販売しているので、この比重を高めることは比較的に容易であったようだ。
営業は全店休業することなく要請通りに行ない、テイクアウト専用の「弁当」をつくり、出前館によるデリバリーを新たに手掛けた。コロナ禍で最も厳しい4月、5月はそれぞれ既存店の客数が前年同月比(以下同)23.5%、30.1%であったが、テイクアウトとデリバリーによって、客単価が125.1%、139.9%となり、売上高は29.4%、42.1%と回復基調となった。8月には客数66.2%、客単価114.7%、売上高75.9%となっている。
類似業態の「日高屋」の8月は客数74.6%、客単価103.3%、売上高77.0%。また、「餃子の王将」の場合、客数81.7%、客単価110.7%、売上高95.8%となっている。餃子の王将の業績からも言えるように、「町中華」にとってテイクアウト・デリバリーを強化することは客単価が上がり業績の回復に奏功していると言える。
NATTY SWANKYが4月に行った重大な経営判断は「新規出店の一旦中止」であった。工事に入っていた物件はオープンしたが、工事にまだ入っていなかった物件は「出店しても赤字なのでは意味がない」(井石氏)ということで契約を解消した。このように解約コストが発生した事例は3件あった。
「酒場」であることに来づらい人もいたのでは?
新しい期に入ったこの7月、同社ではダンダダンの店名を変えた。これまでの正式な店名は「肉汁餃子製作所 ダンダダン酒場」であったが、新しく「肉汁餃子のダンダダン」として、店名から「酒場」を外してシンプルなものとした。そして、ランチタイムで提供していた定食を「夜定食」としてディナータイムでも食べられるようにした。
これについて井石氏はこのように語った。
「そもそも店名に酒場をつけていたのは、日本の焼き餃子を食べながら気軽にお酒を飲めるお店をつくりたかったから。当初は『ラーメンはないの?』『チャーハンはないの?』と言われ、『ないなら帰る』といったこともあったのですが、最近はダンダダンの知名度も上がったということもあるでしょうが、餃子居酒屋という業態がお客さまに認知されるようになったからでしょう」
「そこで、なぜ店名に『酒場』をつけているんだろうと。『酒場』がついていることによって、『気軽に餃子とご飯を食べよう』とかファミリー層の需要を取りこぼしていたのではないか、『酒場』がついているから来づらい想いをしている人がいるのではないかと考えるようになりました。これから『酒場』はなくなることもありません。そして食事主体のお店との垣根は低くなり、その傾向は著しい速さで進んでいくでしょう」
このような発想は日高屋の利用のされ方を思えば分かりやすい。日高屋は「酒場」を名乗らなくても、アルコールドリンクの品揃えを分かりやすく表示して、フードメニューとともにアフォーダブルプライス(気にならない価格)で設定していることで、同じお客が食事の場としても酒場としても利用している。食事主体と酒場の垣根を低くするということは、客層を拡大すると共にリピーターが増えるということだ。
キーワードが示す外食ビジネスの大転換
さらに、新規出店を8月から再開した。その理由について井石氏はこう語った。
「黒字転換した店が増えてきたということが要因です。そこでいろいろなことを予測できるようになりました。これらは主に郊外の店ですが、都心の繁華街と言われた立地は家賃が高く相変わらず厳しい。そこで、立地を選べば出店していいかなと考えるようになりました。10月に出店する店の中には宇都宮がありますが、『餃子の街』に出店することになります。宇都宮の人は皆、ダンダダンを宇都宮でやってほしいという。そこで宇都宮では3店舗は展開したい」
ちなみに、同社では9月に入って全国に向けて冷凍餃子のEC(通信販売)を開始した。にわかに注文数が増えていて、特にまだダンダダンが出店していない関西からの注文が多いという。
同社の動向や井石氏が語ったことからキーワードを整理すると「テイクアウト・デリバリー・EC」「食事主体と酒場の垣根を低くする」「都心よりも郊外」が挙げられる。コロナ禍で外食ビジネスは大転換の最中にあることを実感しているが、これらのキーワードは外食ビジネスの方向性を示唆する一つであることは明らかだ。
この記事を書くにあたって筆者はダンダダンの店を本八幡、新宿三丁目、赤羽、池袋西口と4箇所を巡って体験した。どの店も従業員のユニフォームは真っ白で、受け答えに覇気があり、筆者の気分は高揚した。
2020年6月期決算説明資料の中の「今後の店舗の活動」として「QSCの更なる向上」を掲げた。Q(クオリティ=品質)、S(サービス)、C(クレンリネス=清潔さ)のために、社内講師の育成と体制強化、店舗マニュアルの細分化、各店舗の定期検査の強化。新規商品開発によるブランド価値向上に取り組むとした。店舗の現場では、それがしっかりと実践されていることを実感した。