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きわどいネタで舞台は常に満席!でも、テレビには出せない人気芸人が教えてくれたこと

水上賢治映画ライター
「テレビで会えない芸人」の四元良隆監督(左)と牧祐樹監督(右) 筆者撮影

 鹿児島テレビがテレビではなく劇場版として届けるドキュメンタリー映画「テレビで会えない芸人」は、タイトル通り、ひとりの芸人を追っている。

 その芸人の名は、松元ヒロ。

 かつて社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」で彼は数々のテレビ番組に出演していた。

 しかし、ある意味、テレビという場に見切りをつけて、1990年代末に活躍の場を舞台へと移す。

 そんなテレビに出なくなった芸人を、テレビカメラが追っている。

 ただ、本作は、ただ単に芸人を追った人間ドキュメントではない(※人間ドキュメントとしても側面をもってはいる)。

 ひとりの芸人からみえてくるのは、テレビというメディアの現状にほかならない。

 なぜ、松元ヒロはテレビで見ることができないのか?

 政治や社会問題を風刺する彼の芸を、テレビで流すことはほんとうに許されないのか?

 さまざまな問いが浮かんでくる。

 松元ヒロと時間を共有したテレビマンは何を感じ、何を見たのか?

 手掛けた鹿児島テレビの四元良隆、牧祐樹の両監督に訊く。(全五回)

「テレビで会えない芸人」より
「テレビで会えない芸人」より

人として大切にしないといけないことを教えていただいた気がします

 第五回の最後は、松元ヒロという芸人と向き合って、どんなことを感じたのかを訊いた。

「ヒロさんは、すべての人に対して、心を開いている人なんです。

 そして、ひと言でいうならば、優しい。

 うわべだけではない真の優しさがある。誰に対しても接し方が変わらない。

 そうでなければ、さきほど触れた冒頭のシーンのようにはならない。

 四元とわたし別々でヒロさんのところへうかがうことも多かったんですけど、お互いが取材したものを最後にVTRでチェックすると、同じような質問をしていることが多々ある。

 僕と四元で事前にこの質問はしたとか確認すべきことで取材者として恥ずかしい限りなのですが、こちらの不徳とするところで同じ質問を投げかけている。

 たぶん、ふつうは『それ四元さんに訊かれた』とか『繰り返しの質問になるんだけど』と言われても仕方ないと思うんです。

 でも、ヒロさんは『また、それ聞くの』みたいな顔を一切しないで、同じ質問でも真剣に答えてくれる。

 僕は、ヒロさんの息子さんよりも年下なんですけど、いつもこちらが恐縮するぐらい丁寧に接してくださる。

 いろいろな地方を周るところもご一緒しましたけど、コミュニケーションのとり方はまったく変わらない。

 それから公演でアンケートを書いてくださった方全員に、手書きでメッセージを送ったりしているんです。

 ひとつひとつの人間関係をすごく大切にされている。

 すごい丁寧な生き方をされてらっしゃると思いました。

 人として大切にしないといけないことを教えていただいた気がします。

 ヒロさんの人間性は、今回の作品でも十分に感じていただけると思います」

「テレビで会えない芸人」より
「テレビで会えない芸人」より

ヒロさんにずっと『いまの君たちには優しさが愛があるか、

いまのテレビには優しさと愛があるか』と言われているような気がしました

四元「僕は、ヒロさんと話したり、ステージを拝見したり、その舞台裏をのぞかせていただいたりして、彼の人間性を育んだのは何か?と考えました。

 牧くんも言いましたけど、人を包み込むような大きな心、相手を許せる心、相手を思いやる優しさはどこからくるのかと思いました。

 僕の考えですけど、ヒロさんの人間性を育んだのはやはりふるさとの鹿児島なのではないかと思いました。

 映画でも出てきますけど、ヒロさんは、陸上選手の特待生として法政大学に入ったそうなんです。

 だけど、髪を切る切らないの問題で2年で辞めてしまった。

 以来、法政大学へ導いてくれた高校時代の恩師に50年間会えないでいた。合わせる顔がないと。

 50年ぶりに恩師を訪ねることになって、カメラも同行させてもらいましたけど、行くまではいつになくヒロさんは緊張していました。

 先生にひどく怒られるのを覚悟しているようでした。

 でも、たずねたら、恩師の先生は『おお、久しぶり』みたいに笑顔で、『元気だったか』となんのわだかまりもなく迎えてくれた。

 このときのヒロさんは、長年抱えていた悔いが瓦解して心が優しさで満たされるようでした。

 この光景をみたときに、ヒロさんはこの恩師のような方たちに育てられて、人を受け入れる、許す優しさが養われたのではないかと思いました。

 ヒロさんは政治家や政府に厳しいことを言う。でも、そこには愛がある。

 愛があるからこそ、間違っていたら注意をするし、改めたらそれは許して受け入れる。

 親しいから間違っていても注意できない、見逃すというのは、真の優しさではない。

 ヒロさんにはそのことを教えられた気がします。

 そして、ヒロさんにずっと『いまの君たちには優しさが愛があるか、いまのテレビには優しさと愛があるか』と言われているような気がしました」

【四元良隆監督×牧祐樹監督インタビュー第一回はこちら】

【四元良隆監督×牧祐樹監督インタビュー第二回はこちら】

【四元良隆監督×牧祐樹監督インタビュー第三回はこちら】

【四元良隆監督×牧祐樹監督インタビュー第四回はこちら】

「テレビで会えない芸人」より
「テレビで会えない芸人」より

「テレビで会えない芸人」

出演:松元ヒロ

監督:四元良隆 牧祐樹

プロデューサー:阿武野勝彦

撮影:鈴木哉雄 編集:牧祐樹 音響効果:久保田吉根 音楽:吉俣良

制作:前田俊広 山口修平 金子貴治 野元俊英 崎山雄二 荒田静彦

クレジットアニメーション:加藤久仁生

全国順次公開中&上映会受付中

公式サイト → https://tv-aenai-geinin.jp/

場面写真はすべて(C)2021 鹿児島テレビ放送

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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