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日本の輸出規制で「反文在寅闘争」を「休戦」?「抗日」にシフトする韓国の保守

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
韓国で始まった日本製品不買運動(韓国中小商工人会)

 少し前まで文在寅大統領の弾劾を叫んでいた保守陣営の間に日本の輸出規制措置発動によって直面した経済危機を乗り切るため「今は、足並みを揃え、日本に対して声を上げ、対抗しなければならない」との雰囲気が醸成しつつある。

 来年4月の総選挙で勝利を収め、次期大統領選挙で政権交代を狙う野党第1党の自由韓国党は日本の輸出規制措置を当初は文大統領の無能、無策の産物として、また硬直した対日外交に原因があるとして責め立てていたが、昨日、黄ギョアン党代表や羅ギョンウォン院内総務ら党3役が出席して開かれた「日本の経済報復 緊急対策会議」では日本の規制措置を与党同様に「経済報復」、「貿易報復」と断じ、一様に日本に撤回を求めていた。

 次期有力大統領候補の一人である黄代表は「日本の経済報復は世界貿易機関(WTO)の規定にも国際法上の慣例にも反する不当な措置である」と、「制裁措置」の即時撤回を求めると同時に「経済報復の拡大は両国の関係を破局に追いやりかねない最悪の決定であると日本に警告する」と日本の追加制裁の動きを牽制。

 黄代表はまた、「今直ぐに我が国民と企業の被害を防ぐため全ての力量を結集しなければならない。問題解決のために我が党も力を貸すつもりである」と、対日問題でスクラムを組むよう求めている政府への連帯を表明していた。

 「反文在寅」の先鋒であるNo.2の羅院内総務も政府の対日外交の甘さを批判しながらも「日本政府の貿易措置はG20サミットで強調された自由貿易主義の精神に完全に違反しており、非常に幼稚な行為である」と切り捨て、「非正常的で、非理性的な措置を即時撤回せよ」と声を張り上げていた。

 尹サンヒョン外交統一委員会委員長に至っては「文在寅政府に対する政治報復のため日本が経済手段を講じているのが問題の本質である」と日本の対応を「政治報復」とまで言い切っていた。

 自由韓国党が政府攻撃一辺倒から軌道修正した背景には国難時に政争している場合ではないとの財界や世論の声を無視できなかったこと、また「党利党略を捨て、国益のため声を一つにしよう」と政府が団結を呼びかけ、与党の「共に民主党」が「日本の報復に対処する特別委員会」を設置する動きしていることも意識せざるを得なかったようだ。

 それでも自由韓国党は今回の事態は文政権の対日外交不在に原因があるとして、日本との交渉を通じた問題解決を主張しているが、「日本の報復に対処する特別委員会」の委員長就任が噂されている与党の崔ジェソン委員は韓国メディアとのインタビューで日本の輸出規制措置について「これは経済戦争ではなく、明らかに経済侵略と規定すべきだ。経済侵略がすでに発生した状況では戦争を避ければ良く暮らせると言う話ではない」と述べた上で「日本に対しては受けて立って戦うか、降伏するか二者択一の選択しかない」として、「歴史問題や慰安婦問題では妥協すべきではない」との強硬論を展開していた。

 一方、自由韓国党以上に文政権に厳しいスタンスを取り続けている韓国の最大手紙「朝鮮日報」も今朝の社説で「『韓国が北に毒ガス原料を渡した』と日本 根拠を出せ」と安倍総理の昨日の民放での発言を槍玉にあげていた。

 安倍総理は「韓国は(北朝鮮に対する)制裁をちゃんと守っていると、(戦略物資統制体制である)ワッセナー協約上の貿易管理をちゃんとやっていると主張しているが、国家間の請求権協定を破って約束を守らないことが明確になった。貿易管理も恐らくきちんと守れないと思うのは当然だ」と、日本が韓国に輸出規制に踏み切ったのは、徴用工問題の対応よりも韓国経由で北朝鮮に流れていることが理由であるかのごくと仄めかした。

 この発言に「朝鮮日報」は;

 ・「対韓輸出規制強化の理由として北朝鮮を引っ張り出してきた」

 ・「露骨に北朝鮮と関連付けようとしている。日本が北朝鮮を持ち出したのは、輸出規制が経済報復ではなく、安保次元という詭弁を裏付けようとする意図があるようだ」

 ・「日本の主張通り韓国が戦略物資を北朝鮮に不法輸出していたならばただ事ではない。日本よりも韓国の安全を一層脅かすからだ。しかし、日本は具体的な証拠を提示していない。安倍(首相)が言及した『不適切な事案』がなんなのか、韓国のどの企業がいつ、どのように北朝鮮に搬出したというのか」

 ・「韓国の国際的信用度に直結する問題だ。日本の言う通りならば、韓国は米国など国際社会の制裁を受けなければならないが、選挙が近いからと言ってむやみに騒ぎ立てる問題ではない」

 ・「日本は隣国に対する経済報復を合理化しようとフェイクニュースまで動員する国になり下がった」と噛みついていた。

 安倍首相の「不適切な事案」については萩生田光一・自民党幹事長代行が5日、民放の番組に出演して「(化学物質の)行き先が分からないような事案が見つかっている。軍事転用可能な物品(高純度フッ化水素、エッチングガス)が北朝鮮に渡っている懸念があるのでこうしたことに対して(安保上の)措置を取るのは当然だ」と述べていた。

 なお、「朝鮮日報」だけでなく、「毎日経済」も「SBSテレビ」など他のメディアも一斉に安倍首相の発言を「詭弁」、あるいは「第二弾の報復」を正当化することにあると報道していたが、韓国内の「抗日」は徐々に「オールコリア」になりつつある。

 当の北朝鮮も昨日から日本の輸出規制措置に反発して韓国内で不買運動が起きていることを伝えているが、日本が韓国への規制措置を正当化するため北朝鮮をダシに使ったことから反発は避けられそうにもない。

 安倍首相は「次は私の番だ」と金正恩委員長に無条件対話を呼び掛けているが、「あつかましい」と拒絶反応を示していた北朝鮮が「安倍発言」で態度をさらに硬化させれば、日朝首脳会談も、拉致問題の解決もさらに遠のくことになるだろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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