福岡PayPayドーム、ベルーナドーム…ドーム球場の屋根はどのくらい、税負担を増やしている(後編)
前編では、ドーム球場と屋外型球場の比較で「屋根があること」により、どの程度の固定資産税の格差があるかをベルーナドームをお題に検討しました。
【前編】
https://news.yahoo.co.jp/byline/tomitaken/20220727-00304162
そうなると、もう一つ気になる球場があります。
先日もオールスターで北海道日本ハムファイターズの清宮選手のサヨナラホームランの舞台となって沸いていましたが、秋山・工藤両監督の下で令和2年までの7年間で実に6度も日本一に輝いた強豪・福岡ソフトバンクホークスの本拠地、福岡PayPayドームです。
■屋根が開く場合は、球場全体を建物として扱うのか?
この球場の特徴は、「屋根が開く」という点です。
そもそも「屋根が開く」場合も、球場全体を建物として扱うのでしょうか。
この点について、福岡市役所固定資産税担当に聞いてみたところ、
「外気遮断性があるので、建物として扱う」とのことでした。
そうなると、「外気遮断性があるとは言えないベルーナドームは?」との気もしなくはないのですが、少なくとも福岡市ではその扱いだそうです。
実際に建物の登記簿を見ても、平成5年3月新築・6階建とありますが、1~2階の床面積が40,000平米以上ある(3階22,000平米強、4階16,000平米強、5~6階9,000平米強)ため、球場それ自体の部分も建物として登記されていると判断されました。
逆にいえば、「屋根が閉じられない状況」に改造をすれば屋外型球場として扱い、固定資産税・都市計画税は減少すると思われます。
■では、福岡PayPayドームの屋根はどの程度、固定資産税・都市計画税を増やす?
前編と同様に概算することとし、
(ア)令和3年の「新築建物課税標準価格認定基準表(福岡法務局管内)」によると、鉄筋コンクリート造の野球場が該当すると思われる「劇場・病院」は143,000円/平米
(イ)令和4年1月時点で平成5年新築時より29年経過ですから、総務省の非木造家屋経年減点補正率基準表(鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造の「事務所、住宅、店舗等の『他のカテゴリーに該当しない』」建物)によると0.6431
ですので、下記の通り求められました。
38,859.21平米(便宜的に「ドームの有無」による建物面積の開差をベルーナドーム同様と見なす)×143,000円/平米×0.6431×(固定資産税税率1.4%+都市計画税0.3%)→約6,075万円/年
もちろん、上記は限られた資料による概算のため、実際は各種の税制上の配慮によりもっと少額であったり、あるいは建物が頑丈であるとしてもっと高額であることも考えられます。
また、福岡PayPayドームの場合は屋根を仮に撤去した場合、複数の階層が建物扱いではなくなる可能性も指摘され、その場合は上記の計算結果がより高額になるとも考えられますが、概算段階では上記を一定の指標として、屋根があることによる税金は年間数千万円と考えてよいと思われます。
余談ですが、登記を見るに福岡ダイエーホークス末期は、球場の登記簿にも抵当権などが沢山つけられていたのですが、福岡ソフトバンクホークスになってからはすべて抹消されていました。
福岡ダイエーホークス末期は資金繰りが相当苦しかった様と、近年に日本一を重ねた福岡ソフトバンクホークスの充実ぶりが、登記簿からも感じ取れました。
■ベルーナドームのときと税額が違う理由は?
便宜的に「ドーム化による面積の増減」が同じと見做したのに、ベルーナドームのときよりも「屋根による毎年の税金が高額」と算定されました。
理由は、建物の新築価格の査定額(141,000円/平米と143,000円/平米・・・ここはもともと概算のため実際の額は厳密には一定程度は異なると思われる)の他、2つあります。
1 建物(屋根)の古さが違う…固定資産税・都市計画税は建物が新しいほど高額になります。新築・増築の年が異なるため経年減点補正も異なり、課税額も違う結果となります。
言い換えれば、どちらの球場も、球場が新しかった頃は「屋根があることによる税金」がより高額であったと思われます。
2 福岡PayPayドームは福岡市の市街地、即ち、市街化区域に位置するために固定資産税の他、都市計画税が課せられるのですが、ベルーナドームは市街化調整区域に位置するため都市計画税は課せられないと推察されることも課税額に影響しています。
言いかえれば、立地次第で税率が異なるというのも念頭においてよいでしょう。
とはいえ、「外気遮断性が撤去され、屋根が閉じられない構造」にすれば、数千万円の節約ができる余地がある点には、改めて驚かされます。
もっとも、福岡PayPayドームの場合は色々なアーティストによるドームツアーに使われたりする等、外気遮断性が高いため寒い季節にも野球以外のイベントに使いやすく、その収入がある点も忘れてはならないでしょう。
■最後に
今回の記事はかなり趣味的な建物の税金の記事でしたが、それでも「なんとなくの不動産に課せられる固定資産税や都市計画税のイメージ」はご理解いただけたのではないでしょうか。
ご自宅や勤務先の不動産新築等の際の資金計画の際の税額算定の参考としていただければと思います。
と、同時に、筆者も今年だけでも既に5回、去年は9回、四つの球場でプロ野球観戦をしましたが、多くの方々に「球場にも色々な税負担が課せられている場合がある」ことを頭の片隅にでも入れていただければと思います。
そして、個人的な意見ですが、全てのプロ野球ファンが
「推しのチームのファンである以前に、プロ野球全体のファン」
であることを忘れず、楽しめるとよいですねと提唱したく思います。
※この記事の写真はいずれも令和4年5月13日に筆者撮影です。