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【速報】ファーガソン前マンU監督が自伝で明かしたすべて

木村正人在英国際ジャーナリスト

2冊目の自伝出版

記者会見に臨むファーガソン前監督(筆者撮影)
記者会見に臨むファーガソン前監督(筆者撮影)

国内リーグ優勝13回、UEFAチャンピオンズリーグ制覇2回を含む生涯49タイトルの記録を残して、引退したイングランド・プレミアリーグ、マンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン前監督(72)が2冊目の自伝を出版することになり、22日、ロンドン市内で記者会見した。

ファーガソンは、イングランド初の国内リーグ、FAカップ、UEFAチャンピオンズリーグの三冠を果たした1999年に1冊目の自伝「マネジング・マイ・ライフ」を出版している。

2冊目のタイトルは「アレックス・ファーガソン」。記者会見に先駆けて、この日午前10時半(日本時間午後6時半)から自伝が公開されたので、駆け足でざっと目を通した。解禁は午後2時(同10時)。自ら獲得した香川真司選手への記述は3カ所で、「彼はサッカー頭脳に優れている」と指摘。記者会見では「香川は良い選手だ。チームで果たす役割はある」と期待感を示した。

ファーガソン前マンU監督の自伝(筆者撮影)
ファーガソン前マンU監督の自伝(筆者撮影)

ライバルだったアーセナルのベンゲル監督は21日、歯に衣着せぬファーガソン節が自伝で炸裂するのを恐れて「何か悪いことが起きないか心配」と指摘していたが、確執が伝えられてきた選手や監督との関係、更衣室で起きたドラマを筆者が予想していた以上に赤裸々に語っている。

自伝は10万部が出版される予定で、インターネット書籍販売のアマゾンには予約が殺到、すでにベストセラー・ランキングで2位に入る人気になっている。お世辞抜きでサッカー・ファン必読の書になるのは間違いない。

ファーガソンの生き様は、ベルリンの壁崩壊後、急激に変化した現代サッカーそのものだからだ。選手との確執もサッカーをめぐる世代間の差や時代の変化、そして、何よりファーガソンの強烈な個性に起因している。

ファーガソンの自伝を事前に読み込む英国のジャーナリスト(同)
ファーガソンの自伝を事前に読み込む英国のジャーナリスト(同)

筆者が個人的に関心を持っている選手3人との確執を自伝から紹介しよう。

ベッカム

2003年にはファーガソンがマンU更衣室で蹴り上げたサッカーシューズがデビッド・ベッカムのまぶたに当たる事件が起きた。この事件について、ファーガソンはこう告白している。

ベッカムがマンUに加わったのは1991年7月。16歳だったベッカムについて、ファーガソンは「彼は私にとって息子以上の存在だった」と回想している。

しかし、ベッカムがスパイシーガールズのビクトリアと知り合ったことで、「彼はサッカー選手であることよりも有名になることを選んだ」と悔いている。親子以上だった2人の関係が決裂したのは、やはりシューズ蹴り上げ事件だ。

ボールを必死で追いかけなかったベッカムをファーガソンは注意した。しかし、ベッカムは受けつけなかった。激高したファーガソンが蹴りあげたシューズがベッカムのまぶたを直撃した。立ち上がったベッカムを周りの選手が抑えなければどうなっていたかわからない。

翌日の話し合いでもベッカムは試合中の非を認めなかった。若かりし頃、練習場でエリック・カントナ相手に正確なクロスを上げ続けたベッカムのひたむきさはもう感じられなかった。ベッカムはファーガソンより偉くなったと勘違いしてしまったのだ。ベッカムがマンUを去るのは確実になった。

ロナウド

意外だったのは現在レアル・マドリーでプレーするクリスティアーノ・ロナウドとの関係だ。ファーガソンは「ロナウドは私が監督した中で最も才能に恵まれた選手だ」と賞賛を惜しまない。

ファーガソンはロナウドのあふれる才能に「何年、マンUでプレーしてくれるかが気がかりだった」と打ち明ける。5年と覚悟していただけに、6年目もプレーしてくれたことは大きなボーナスだったと謙虚に語っている。

292試合で118ゴールを決め、UEFAチャンピオンズリーグ1回、イングランド・プレミアリーグ3回、FAカップ1回、リーグカップ2回の優勝に貢献した。ファーガソンは「レアル・マドリーのようなビッグクラブから8000万ポンド(約127億円)のオファーがあれば、だれがロナウドを引き止めることができようか」と吐露している。

ルーニー

ファーガソンが今、胸を痛めているのがルーニーの存在だろう。ファーガソンはルーニーが90分間プレーできない選手だとみなしている。若手選手と練習させたとき、ルーニーは若い選手より速く走れなくなっていた。

昨シーズンが終わった際、ルーニーは自分がサブ扱いされていることに不満を述べ、マンUを去る考えをファーガソンとクラブに伝えた。ファーガソンはルーニーの扱いを後継のモイーズ監督に任した。90分間フルに戦えるフィットネスがルーニーの課題だ。

ファーガソンは「ルーニーがオールドトラフォードで偉大なプレーを続けることを望んでいる」と結んでいる。

ピザ事件

04年、マンUが本拠地オールドトラフォードでアーセナルのリーグ戦49試合無敗記録にストップをかけた後、選手用通路でファーガソン監督(当時)にピザが投げつけられる「ピザゲート」事件が起きた。

犯人は当時アーセナルに所属していた主力選手のセスク・ファブレガスだったと他のチームメイトが英ラジオ番組で明かしたが、ファーガソンは今さら、どうこうする考えはないようだ。

ファーガソンは「サッカーは人生とよく似ていて、いがみ合うこともあれば、翌日にはケロッとしていることもある」と述べている。

成功の秘訣

自伝はサッカーと選手への愛情に満ち溢れている。そして、ファーガソンの勝利への信念が貫かれている。妥協が入る余地はない。

「ノー・ナンセンス(ばかげたことを許さない)」を信条にするファーガソンの真髄はそのマネジメント力にある。マンUの規律を守るためには、ベッカム、ルート・ファン・ニステルローイ、ヤープ・スタムらとの軋轢も恐れなかった。

ファーガソンは米名門ハーバード・ビジネス・スクールの大学誌『ビジネス・レビュー』でアニタ・エルバース教授の質問に答える形で、「ファーガソンの成功の秘訣」を披露している。

(1)成功への第1歩は若手の育成だ

ファーガソンがマンUで初めて優勝したのは監督就任4年目のFAカップ。サッカーは結果が求められるスポーツだが、短期的な成功を求めてベテラン選手ばかり集める方法は長続きしない。

若い才能を発掘して育てることがクラブの安定性と一貫性をもたらす。ベッカム、ライアン・ギグス、ポール・スコールズ、グレイ・ネビルは、ファーガソンが丹精を込めて育てた才能だ。

「若い選手に関心を注ぎ、成功のチャンスを与えたら、彼らはどれだけあなたをびっくりさせることか。これは信じられないほど素晴らしいことだ」

(2)チームの世代交代を少しずつ進めろ

チームには30歳以上、23~30歳、それ以下の3つのグループに分けられる。若い選手は成長し、レギュラーになる基準を満たすようになる。

どんなチームでも成功は4年間しか続かないだろう。変化が必要だ。目標は徐々に進化することだ。少しずつベテラン選手の出場機会を減らし、若手選手のそれを増やすことだ。

「2年後を見据えてチームがどうなっているか、自分に問い直さなければならない」

(3)一度あきらめた奴は、次もあきらめる

クラブ、準備、モチベーションを高めるトーク、戦術に関するトークなどすべてのスタンダードを高く維持することが不可欠だ。

ファーガソン監督が練習場に来るのは午前7時。周囲は「彼にできることは私にもできる」と考えるようになり、意識が高くなる。

ファーガソン監督は四六時中、選手たちに「あきらめるな」と言い続けた。一度あきらめた者は次もあきらめる。

人生を通してハード・ワーキングを続けることは才能だ。スーパースターはエゴを持っているが、厳しい練習を自らに課さないとその地位を維持できないことも知っている。

(4)支配者は監督だ

いくつかのクラブは監督をひっきりなしに取り替える。いつしか更衣室の主人は監督ではなく、選手になる。しかし、練習方法、規律、戦術を考えるのは監督なのだ。

選手が主人になったら、マンUはもはやマンUでなくなる。長期的にみれば選手よりもクラブの方が大切だ。チームの輪を乱す者、規律を破る者はどんなに優れた選手であっても取り除くべきだ。

このほか、(5)選手をほめるタイミング、しかるタイミング(6)ハーフタイムに活を入れる(7)練習はコーチに任せて選手の状況をしっかり観察する(8)時代の変化に柔軟に対応することを挙げている。

記者会見でファーガソンは高騰する選手のサラリーに懸念を示した。また、選手の出身地が多様化し、「寛容の教育が重要だ。異なる文化を理解する必要がある」と語った。

頑固オヤジに見えるファーガソンにとって監督業とは時代に応じて変化し、勝利の確率を限りなく高めることだ。「そのために監督はすべてをコントロールしなければならない」と強調した。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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