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24連勝のチームに「新人王候補」も加入 超B2級・群馬の資金力だけではない強み

大島和人スポーツライター
好調・群馬の立役者マイケル・パーカー 写真=B.LEAGUE

B1のエース級外国籍選手が集結

どんなにいい材料を集めても、美味しい料理になるとは限らない。食材の癖がぶつかって、持ち味を消し合う場合さえある。開幕前に群馬クレインサンダーズの補強を見たとき、人材を「料理」する平岡富士貴ヘッドコーチ(HC)はきっと大変だな……と少し同情したことを思い出す。

群馬は2019年6月に大手ハウスメーカー「オープンハウス」が経営を支える体制となり、2020-21シーズンはB1昇格に向けた覚悟が感じられる圧倒的な補強を行った。外国出身選手は4名を新たに迎え入れたが全員B1経験者。ブライアン・クウェリとジャスティン・キーナンは昨季に1試合平均で約20得点を記録していたエース級のインサイドプレイヤーだった。

トレイ・ジョーンズは出場試合こそ少なかったが、1オン1の破壊力とシュート力を持つウイングプレイヤー。2018-19シーズンは強豪の千葉ジェッツでプレーしていた。今季は外国籍選手のベンチ入りの枠が2から3に広がったため、この強力トリオのなかから常に2人をコートに送り出せる。

そして「ラスボス」がパワーフォワード(PF)のマイケル・パーカーだ。彼は2007-08シーズンから日本でプレーしていて、日本国籍も取得済み。B1初年度からは千葉ジェッツでプレーし、富樫勇樹とともにチームの躍進へ貢献してきた勝者のメンタリティの持ち主だ。B1最高レベルの帰化選手がB2に来るのだから、それは圧倒的なアドバンテージとなる。

日本人も4名獲得したが、すべて直近のシーズンはB1でプレーしていた選手。少なくとも「足し算」をすれば、B2最強となる陣容だろう。

厳しい戦いもあった24連勝

ただ勝って当然という周りの目線は、おそらく彼らの負担にもなる。また新型コロナ問題の影響で外国籍選手の入国が遅れた影響とはいえ、10月上旬の越谷アルファーズ戦は2試合とも完敗だった。

しかし群馬は開幕5試合目から、連勝街道を突き進んでいる。従来の連勝記録は秋田ノーザンハピネッツが2017-18シーズンのB2で記録した「22」で、24連勝はB1を含めて史上最多だ。

難しい展開も少なからずあったが、チームはそれを乗り越えてきた。11月15日の香川ファイブアローズ戦は82-81と1点差で、11月22日の茨城ロボッツ戦と12月9日の福島ファイヤーボンズ戦はオーバータイム(延長)までもつれている。そして12月12日の仙台89ERS戦は17点ビハインドをひっくり返す逆転勝利だった。そのような展開から、チームが勝負強くなった様子も見て取れる。

第4クォーターで攻守のビッグプレーを見せるのが、マイケル・パーカーだ。彼はとにかく「欲しいとき」にリバウンドと得点を取ってくれる。勝負どころの読み、反応はBリーグでも唯一無二と言っていい。

12月12日の仙台戦後に、平岡HCはマイケル・パーカーについてこう述べていた。

「私がコーチをやってきた中でも、勝負どころ、終盤の集中力をあれだけ発揮できる選手はなかなかいなかった。彼は制限せずにやってもらっています」

日本人選手と外国出身選手の連携は?

日本人選手もステップアップできている。1月3日の西宮ストークス戦で16得点を挙げたのが、ポイントガード(PG)の笠井康平だ。

笠井は尽誠学園高で渡邊雄太とともにウインターカップ準優勝を経験し、青山学院大では主将も任された実力者。昨季は名古屋ダイヤモンドドルフィンズでプレーしていた。今までは守備や手堅いゲームコントロールで強みを発揮する一方で、得点を積極的に狙うタイプではなかった。しかしトレイ・ジョーンズとのバランスを追求する中で、発想を切り替えたという。

笠井は言う。

「最初はトレイにいいところでボールを持たせてあげようと考えていました。でもトレイはPGの役割もできるので、2ガードみたいな感覚でやり始めた」

トレイがインサイドへ切れ込んだときに、DFが中に絞れば外は空く。外からのシュートが外れても、199センチのトレイがリバウンドを競っている。それならば笠井が狙いに行くのは合理的だ。

笠井が使うだけでなく、使われる側になる場面を増やしていい。11月末の山形ワイヴァンズ戦後に、二人の間でそのようなコミュニケーションがあったという。かくして笠井に積極性、怖さが出てきた。

笠井康平選手 写真=B.LEAGUE
笠井康平選手 写真=B.LEAGUE

守備からの速攻も強みに

笠井は高い位置でタイトなプレスをかけられるディフェンダーだが、そこから守備の連動も生まれている。

「自分がアグレッシブに行ったことに対して付き合ってくれる。あれだけのメンツが揃っていてもDFから流れを作れる」(笠井)

特にマイケル・パーカーはスティールの名手で、3日の西宮戦では5スティールを記録した。笠井がプレッシャーをかけて相手のハンドリングが乱れたところをパーカーが狙う。笠井はそうして「守備のアシスト役」になっている。群馬は大型選手が多い中でも攻撃が重くならず、リバウンドやスティールからの速攻を強みにできている。

注目の大学生2名が加入

そんなチームにさらなる補強がある。1月1日、5日と楽しみな新人選手の加入が発表された。

1日に発表された新加入選手が杉本天昇選手だ。2017年には八村塁(ワシントン・ウィザーズ)やシェーファーアヴィ幸樹(シーホース三河)らとともにFIBA U19W杯に出場し、主力としてプレーした。日本大学2年次はインカレの得点王も獲得している、186センチ・86キロのシューティングガード(SG)だ。

杉本は小酒部泰暉(神奈川大→アルバルク東京)や西田優大(東海大→新潟アルビレックスBB)らとともに、大学4年生の中では「目玉」の一人だった。2021-22シーズンのB1昇格という前提はあるが、Bリーグの有力な新人王候補だろう。

平岡HCは土浦日大高、日本大の後輩に当たる杉本をこう評する。

「抜群にボディバランスがいいし、得点を取る嗅覚はさすが」

チームの取締役で、GMとして平岡HCとともに獲得へ尽力した吉田真太郎氏はこう説明する。

「彼自身が群馬に興味をもっていました。PGの菅原暉と交渉している中で、天昇が群馬でやりたいとなった。他のチームからも(オファーは)来ていたみたいですけれど、二人で群馬という話になりました。暉と天昇は高校の同期ですごく仲良しなんです」

菅原暉は強豪・筑波大のキャプテンだったPGで、インカレの優勝も経験している。彼の加入も5日に発表された。笠井やベテラン小淵雅はいるものの、群馬にとっておそらくこのポジションは補強ポイントだった。

「選ばれる」チームになっている群馬

中央大バスケットボール部で五十嵐圭、柏木真介の後輩に当たる吉田GMはこう述べる。

「群馬は大学生から結構人気があるんだと感じています。未来はどういうチームになるかビジョンを示すことで、選手たちがやる気になってくれている。パーカーも最初話したとき、我々が目指すところにしっかり共感してくれた。『千葉では島田さん(島田慎二・現Bリーグチェアマン)のビジョンを聞いて実現した。群馬でもそれを実現します』と言ってくれた」

杉本自身は群馬を選んだ理由についてこう語っていた。

「大学の監督も両親も、自分が行きたいチームを最優先にしてくれた。どこのチームよりも魅力を感じて、自分の意思で群馬入りを決めました。早いファストブレイクからの攻撃、プレースタイルも自分に合っていると思っています」

日大から加入した杉本天昇選手:筆者撮影
日大から加入した杉本天昇選手:筆者撮影

気になる人件費は?

アスリートはどんな競技だろうと夢が持てるチームに惹かれる。群馬は日本のバスケ界で、そんな存在になっているのだろう。「ここなら自分を活かせる」「チームと一緒に成長していける」というイメージは報酬と同じか、それ以上に重要だ。

気になるトップチーム人件費もB2最多にはなりそうだが「皆さんが思っているよりはずっと少ない」(吉田GM)とのこと。2019-20シーズンのB2最多だった広島ドラゴンフライズの3.9億円を大きく下回る2億円台で落ち着きそうだ。(※正式な額は2021年末にリーグから発表される)

勝負の神様は気まぐれで「人材の集まったチームが順当に結果を出す」ストーリーは意外と実現しない。突出したチームは得てして受け身になりやすく、追われる身の不利もある。しかし群馬は厳しい展開を乗り越え、課題も克服し、逞しいチームへと脱皮しつつある。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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