ありそうでなかった、テレビ局×レコード会社によるアーティスト育成ライヴが注目「刺激から熱が生まれる」
TBSと<Sony Music Records>とがタッグを組み、次代の音楽シーンを担う新しいアーティストを発掘、育成するためのライヴイベント『Voice JAM』
TBSとソニー・ミュージックエンタテインメントのレーベル、<Sony Music Records>とがタッグを組み、次代の音楽シーンを担う新しいアーティストを発掘、育成するためのライヴイベント『Voice JAM』が、いよいよ8月3日、渋谷duo MUSIC EXCHANGEで開催される。テレビ局とレコード会社が合同で、こういう主旨のイベントを行うこと自体が非常に珍しい。そこには、音楽にとことんこだわりを持ち、音楽シーンをもっと盛り上げたいという思いが人一倍強い2人の“プロデューサー”が存在する。
一人はTBSで、“今最も純粋な音楽番組”『Sound Inn“S”』(BS-TBS)や、『クリスマスの約束』『輝く!日本レコード大賞』などを手掛ける服部英司氏、そして<Sony Music Records>でLittele Glee Monster(以下リトグリ)他を手掛ける、灰野一平プロデューサーだ。二人にこのイベントが実現することになった経緯と狙いを聞かせてもらった。
『VoiceJAM』は、元々灰野氏が中心となって行ってきた、リトグリや今回も出演する當山みれい、J☆Dee’Zなど若手アーティストの“修行”でもあった、生バンドによるセッションライヴ『After School Swag』が前身だ。この“場”を設けたのは、レコード会社のプロデューサとして、数多くのアーティストと関わり、どこかに感じていた“不安”が大きくなってきたことがきっかけだった。
「きちんと“歌える”J-POPアーティストを育てなければ、このシーンを目指す人がいなくなる」
「僕達レコード会社も、近年は予算的な問題で、こういうライヴイベントをやろう思うと、どうしてもカラオケになってしまいます。でもカラオケが悪いというわけではなくて、最近の若いアーティストの歌を聴いていると、歌がグルーヴを出さなければいけない、という自覚さえないのでは?と思ってしまいます。よくできたトラックに乗せて歌っていれば、成立するかもしれない、でも生バンドって、歌い手自身がしっかりリズムを出して、雰囲気を作って、バンドもノセながら歌わないと成立しないし、聴き手には伝わりません。そういうことをわかってカラオケで歌っている人と、そうではない人とでは、全然違います。海外の一流のアーティストはそれができています。でも現状では、そういうアーティストを育てようと思っても、なかなか機会も場もないので、危機感を感じていました。それで、最初は當山みれいとリトグリを中心に、レーベル内だけではなく、他社さんも含めて、歌を頑張っている女性シンガーを集めてライヴをやろうと思い、始めました。コストがかかりますが、新人たちばかりなので集客にも苦労して、なんとか細々と続けてきました。やはりエンターテイメント性だけでなく、音楽的な要素もしっかりあるJ-POPアーティストを育てなければ、音楽をマジメにやっている人が、このシーンを目指してくれなくなると思いました」(灰野氏)。
「より実験的で挑戦的なイベントだからこそ、熱が生まれる。人は熱がないものは観てくれないし、聴いてくれない」
昨年末リトグリが、服部氏がプロデューサーを務める番組『Sound Inn“S”』に出演した。この番組は最高のミュージシャンと最高のアレンジャー陣が揃い、アーティストとオリジナルアレンジで一夜限りのセッションを繰り広げるという、非常に音楽的にクオリティが高い、贅沢な番組だ。現に、本間昭光のアレンジで歌った「明日へ」が、3月に発売されたリトグリのシングル「ギュッと/CLOSE TO YOU」に収録されている。この収録の時、灰野氏が服部氏に1月に行われる『After~』を是非観に来て欲しいと強く誘ったという。
「灰野さんからお誘いいただき、今年の1月5日に初めて『After School Swag Vol.6』を観させていただきました。ライヴハウスで複数の若手アーティストが、同じステージで同じバンドで歌うというコンセプトに、どこか甲子園的な熱さを感じて、刺激を受けました。普段僕らは、完成されたアーティストと仕事をする機会が多いので、とにかく新鮮でした。僕が数年前にやっていた「Sing!Sing!Sing!」というオーディション番組をやっていた時、こういう緊張感のある空間から、才能ある人たちが世の中に出ていく様を、どうやったらテレビで観せることができるのかをすごく考えました。番組は終わってしまいましたが、『After~』を観て久々にその時のことを思い出しました。「Sing!~」はヒリヒリした感じが楽しかったのですが、それに近いものを感じて。同時に、自分が演出、プロデュースしたらどうなるんだろうという思いが頭をよぎり、本音を言うと、観ていてやりたくなりました」(服部氏)。「とにかく生演奏とアレンジにこだわりがある服部さんに来ていただいたのは、もちろん若手アーティストの歌を聴いて欲しかったのですが、若手ミュージシャンを集めて、こういうことをやっているということを観て欲しかったんです」(灰野氏)。「確かにあの時、灰野さんの心意気というか、考えていることを観させてもらった気がしました。より実験的だし、より挑戦的だし、どうやったら熱が生まれるのかということが、どの制作工程においても大切だと思っています。人は熱がないものは観ないし、聴いてくれません」(服部氏)。
「若手アーティスト、アレンジャー、ミュージシャンだけではなく、大御所音楽Pに参加してもらうことで、世代を超えたつながりが生まれ、それが刺激となるはず」
2月から早速具体的な打ち合わせが始まった。「まず灰野さんに、イベント名を変えることを提案しました。イベントの精神は変わらなくても、タイトルを変えることで、生まれ変わることができると思いました。それと番組にするという前提なので、ロゴが必要でした。ロゴってとても大切だと思うので、ステージでもこのロゴを背に歌ってもらいます。このイベントは若い女性ボーカリストがフィーチャーされるので、同じく若いアレンジャー、若いミュージシャンと文字通りジャムすることで、そこに熱が生まれると思いました。なので、急遽若手のアレンジャーも8人募りました。若手だけ、同世代だけでライヴをやるのもそれはそれでいいと思いますが、そこに世代を超えたつながりのようなものがあってもいいなと思い、斎藤ネコさん、島田昌典さん、本間昭光さん、坂本昌之さんら、『Sound~』でお世話になっている、日本を代表するアレンジャーの方にも参加していただきました。そこにさらにゲストを迎えることで、メインはもちろん若いアーティストですが、自分達よりも先を走っている人と同じステージで歌うことで、また別の種類の熱、清々しさが生まれることを期待しています。ライヴは全員でセッションするシーンもありますが、そこにも刺激があるし、大御所の音楽Pがいることで、シンガー、ミュージシャン、アレンジャーが委縮するようではダメだと思います。若手が生み出す情熱に、熟練のエッセンスが足されるのは本当に楽しみです。僕も含めて全員が熱をぶつけ合って、気持ちよく本番を終えて、いい現場だったねと言える瞬間を、1回でも多く重ねていきたい」(服部氏)。「若手アレンジャー同士の戦いでもあります。大御所アレンジャーが監督として存在しているということで、若手ミュージシャンの緊張感もすごく感じるし、リハーサルをやっていても、いつもよりシャキッとしていると感じます(笑)。(斎藤)ネコさんや本間さん、島田さんに自分が書いた譜面を見られると思うと、頑張るしかないですよね。こういう感じを服部さんは想像していたんだなというのがわかりました」(灰野氏)。
『VoiceJAM』は、若手アーティストはもちろん、アレンジャー、ミュージシャン、全員が刺激を受ける場になる。それぞれが自分よりもできる、自分にないものを持っていると、相手に感じた瞬間が、成長への一歩となるはずだ。それぞれが切磋琢磨し、それが音楽シーンの底上げに確実につながるとはずだし、このイベントの意義、噂が広がれば、出たいと切望するシンガー、ミューシャン、アレンジャーも増え、ハイレベルな音楽ファクトリ―のような存在になりそうだ。
「何事も前例を作るという事が必要」
テレビの番組制作をプロダクションが手掛けることがあっても、レコード会社とテレビ局の座組というのは非常に珍しい。画一化している感が否めない音楽番組を、どうにかより個性的なものにしたいと、ある意味原点に返り、生演奏とアレンジにこだわり続ける服部氏と、きちんと“歌える”という、何よりも強い武器を持つアーティストを創りたい灰野氏は、立場は違えど、目指す方向が一致している。「権利関係のこととかを考えると、自由にクリエイティブをしたいと考えた時、レコード会社と組んだ方が、お互いに面白いものが作れるのでは?というところからの発想です。まずこの規模の座組からスタートというのもいいかもしれません」(服部氏)。「リトグリが、『Sound~』で本間さんとセッションしたアレンジを、シングルに収録したのもいい取組みでした。今回も、最終的にはどう落ち着くかわかりませんが、番組としてはTBSさんがオンエアして、僕らはアーティストがそれぞれが歌っている部分をYouTubeで配信するという使用分担で、費用負担をし合い、作りあげることがことができれば、こんなに理にかなっている機会はないと思う」(灰野氏)。「やっぱり何事も前例を作るという事が大切だと思います。誰かが、今回のようなことをやろうと考えた時「『VoiceJAM』スタイルでやろうか」ということになってくれると嬉しいです」(服部氏)。
「思いがけない“いいじゃん”を観に来て欲しい」
8月3日、『VoiceJAM』の記念すべき1回目の出演者は、Anly、City Chord、J☆Dee’Z、當山みれい、やえ、れみふぁ、わたなべちひろの7組と、ゲストには鈴木愛理を迎える。もちろん鈴木も、オリジナル曲をこの日限りのアレンジで歌う。普段のライヴとは違うアレンジで、どう表現してくれるのか楽しみだ。なお鈴木は、翌日4日には『ROCK IN JAPAN FES.2018』のステージに立つ。
「若手の腕利きのミュージシャンとアレンジャーが揃い、その音をバックに才能のあるシンガー達が歌い、大御所のアレンジャーも監督として参加しています。会場にいる方は圧倒的な“熱”を感じてもらえると思うし、思いがけない“いいじゃん”が待っているはずです」(服部氏)。ストリングスやホーンも参加するフルバンドということを考えると、チケット代の¥3,000、学生¥1,500という価格設定は非常に良心的だ。学生を中心に若い人たちに、音楽が本来持つ“熱さ”を是非感じて欲しいライヴイベントだ。