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国会議員公設秘書と地方議会議員の兼業、何が問題なのか

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
国会議員公設秘書と地方議会議員の兼業が問題に(写真:つのだよしお/アフロ)

 国会議員公設秘書と地方議会議員の兼職が相次いで発覚し、政治とカネの問題の一つとして報道で取り上げられるようになりました。日本維新の会の議員で発覚した問題ですが、自民党の議員や立憲民主党の議員でも相次いで判明したことから、各党が対応を迫られています。

 給与の二重取りとの指摘もあり、政治とカネの問題とカテゴライズされているこの問題ですが、それ以外にも多くの問題があります。国会議員公設秘書と地方議会議員の兼業、何が問題なのか考えていきたいと思います。

国会議員秘書と地方議員の兼職は、法律上禁止する規定がない

地方自治法に兼職について定めがある
地方自治法に兼職について定めがある写真:イメージマート

 特別職国家公務員である国会議員公設秘書と特別職地方公務員である地方議会議員とは、法律上兼職を禁止する規定がありません。 地方自治法では、地方議員は、国会議員や他の地方公共団体の議会議員や地方公共団体の職員と兼職は禁止されています(地方自治法92条)。一方、国会議員秘書との兼職については規定がないため、現行法では国会議員秘書と地方議員の兼職そのものは、現時点で合法といえます。

国会議員秘書と地方議会議員の仕事の実情

 法律上兼職を禁止していないからといって、実際に兼職が可能なものなのでしょうか。国会議員秘書と地方議会議員の具体的な仕事をみていきたいと思います。

 国会議員秘書には、公設秘書と私設秘書とが存在します。公設秘書とは、国会議員が公費で雇うことができる秘書で、政策担当秘書、公設第一秘書、公設第二秘書の3名を雇うことができます。この秘書の給与は所属する院から直接秘書に支払われることとなっています。公設秘書の雇用は義務ではありませんが、国会議員からすれば私費ではなく公費で雇用できることから、多くの事務所が公設秘書を雇用しています。事務所によって秘書の扱いは異なりますが、一般的には政策担当秘書が永田町の議員会館を担当し、公設第一秘書、公設第二秘書が永田町と地元を分担することが多いように思います。3名の秘書では不足する場合には、議員が私費で秘書を更に雇うこともでき、その秘書のことを私設秘書といいます。私設秘書は議員との契約との間で給与を決め、議員が私費で給与を支払うため、公務員ではありません。一般的には、政策担当秘書>公設第一秘書>公設第二秘書>私設秘書のような序列関係にあります。

 さて、この政策担当秘書、公設第一秘書、公設第二秘書は、特別職国家公務員ですから、労働時間などに関する定めが法律上はありません。国会は会期中であっても原則平日しか議会は開かれませんが、土日も地元の会合や催事に参加したりすることもあります。そうすると、これらの秘書も土日に働くことも多くありますし、というよりは週5出勤(土日休み)の公設秘書は実情としてかなり少ないのでは無いのでしょうか。また議員会館勤めの秘書も、議員より前に議員会館に出勤していることが多く、朝7時台から会館に詰めている秘書も多く、また夜も18時や19時、場合によっては深夜帯まで詰めていることが多くみられます。以上のことから、公設議員秘書はそれなりにハードワークであると言えるでしょう。

 では地方議会議員はどうでしょうか。地方議会議員は、本会議などの議会開会日は地方議会に出席することとなります。本会議の日数は議会によってまちまちですが、「市議会の活動に関する実態調査結果(全国市議会議長会)」では全市平均で年間21.5日との調査があります。またこれとは別に地方議員は委員会に所属しますが、会期内外の委員会開催や視察などといった委員会の活動日数は同調査によれば全市平均で常任委員会で年間12.6日、特別委員会で年間5.9日とのことです。議員の所属する委員会の数にもよりますが、相応の日数は議会に拘束されることがわかります。

 ただ、地方議会議員の仕事は会議に出席するだけではありません。地方自治体の議会議員として、広報広聴の活動を行ったり、議会での発言内容の作成や調整、会合への出席なども多くあります。ベテラン議員になってくれば、議会をどのように運営するかといった議会運営委員の仕事などもあり、副議長や議長になれば儀礼的な会合出席も数多く存在します。このような仕事のなかには、必ずしも平日だけではなく休日や早朝・深夜にわたるものも一定存在します。従って、地方議員の仕事は、フルタイムで働く会社員ほどの時間拘束は受けないにしても、現実的には相応の時間拘束が発生しているといえます。

 したがって、この2つの仕事を兼職するということは、職務専念の観点から、また時間的拘束からも「常識的に考えて難しい」ことであり、兼職が事実上不可能と言われる理由でもあります。

都道府県知事と国務大臣も兼職可能

 ちなみに今回問題になっている「国会議員秘書と地方議員の兼職」とは異なりますが、実は同じような枠組みで、「都道府県知事と国務大臣の兼職」も、法律上は可能です。

 以前、「現行法上、都道府県知事と国務大臣の兼任は可能であるか否か。」との質問主意書が内閣に提出されたことがあり、この答弁において「国務大臣と都道府県知事の兼任を禁止する明文の規定はない。」と確認されました。

 もっとも、答弁は「しかしながら、内閣の一員として国政を担う国務大臣には全力を尽くして職務に専念することが求められており、都道府県を統轄しこれを代表する知事も同様である。こうした職責の重大さにかんがみ、現に都道府県知事である者を国務大臣に任命することは考えられない。」と続きます。国務大臣が出席する定例閣議が、週2回(火曜、金曜の午前)行われていることを踏まえれば、現実問題として地方公共団体の長である知事が、週2回東京に赴くことや、国会答弁のために国会開会中に国会に参集することが難しいことは、至極当然です。

 このことからも、公職を含めた特別職国家公務員と特別職地方公務員の兼職が法律上禁止されていないということは、禁止するまでも無く法(=立法府)が予期していなかったといわざるをえないレベルのものであり、今回の事案を受けて兼職禁止の法整備の話が出てくることも当然といえます。

国会議員秘書と地方議員の給与の二重取り

給与報酬・賞与の二重取りが問題視されている
給与報酬・賞与の二重取りが問題視されている写真:アフロ

 今回問題になった兼職、その問題の本質として語られるものの一つに、国会議員秘書と地方議員の給与の二重取りがあります。国会議員公設秘書の給与は法律により、勤続年数によって月給約34万円〜53万円(公設第二秘書の場合には約26万円〜39万円)と定められています。

 また、地方議員は議会によって大きく異なりますが、「市議会議員報酬に関する調査結果(全国市議会議長会)」では概ね平均40万円程度となっています。いずれも賞与(ボーナス)が存在することから、仮に国会議員秘書と地方議会議員を通年で兼職した場合、給与報酬と賞与の合計は低く見積もっても年収800万円以上、高く見積もれば年収1500万円は超えると思われます。

 更に、今回報道されたケースではわかりませんが、これらの給与報酬・賞与が当該議員(秘書)から国会議員に還流されていないのか、という疑いも起きます。以前は(国会議員が自ら決めることができない公設秘書の給与について)、国会議員秘書から国会議員に政治献金するスキームで、国会議員による議員秘書給与の中抜きが横行していました。このスキームは違法性を帯びていることから、現在は見られなくなりましたが、多額の給与を受けることになる二重取りでは、中抜きスキームも疑われることになります。

公務員としての倫理的な問題をも孕む

 そして、さらにいえば今回の事案は、それぞれの公務員としての秘密保持や利益相反、双方代理といった問題をも孕みます。

 国会議員の秘書は職務上、様々な秘密を知る立場にあります。例えば国会に提出される前段階の法案や各省庁の機密資料、一般に公開される前の情報などを事前に提供されることも多くあります。これらの情報を国会議員に代わって取り扱う可能性がある秘書が、一方で地方議会議員の立場としてこれらの情報を認識している、ということになり、倫理的な問題が発生します。

 また、国会議員の秘書は、勤め先の国会議員のため働きますが、国会議員は「主権者である国民の信託を受け、全国民を代表して国政の審議に当たる重要な職責を担って」(衆議院HP)います。一方で、地方議会議員は、自らの所属する議会の地方公共団体のために働く側面もあります。そうすると、例えば国と県市が連携するような事業において、国と県市が費用負担割合を決めるような場合においては、一方では国全体のために、一方では県市のために働くということになり、広くみればいずれの立場にとっても利益相反になるという倫理的な問題が発生する可能性があります。

 更に、地方議会の一員として国に要望や陳情を上げるという事案においても、地元選出の国会議員の秘書をしていれば、要望や陳情を出す立場である議員が、一方で要望や陳情を受ける立場の議員秘書でもある、といったことがあり得ます。この場合、事案によっては要望や陳情を出す立場でもあり、受ける立場でもあるという「双方代理」が成立する可能性もあり、やはり倫理的な問題が発生します。

「兼職」問題の向かうべき方向性

 この「兼職」問題は、ここまで述べてきた通り、通常の勤務体系ならほぼ成立しえない「兼職」であり、また秘密保持や利益相反、双方代理といった問題をも孕む可能性があります。法律が予期していなかった事案といえますが、今回のように事案が発覚したことを立法事実として、早期に法律を改正し、国会議員公設秘書と地方議会議員の兼職を禁止することが望ましいでしょう。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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