「ワイロを見逃してほしいならワイロをよこせ」北朝鮮の学校は崩壊寸前
北朝鮮の金正恩総書記は2021年1月の朝鮮労働党第8回大会の結語で、反社会主義的・非社会主義的傾向(風紀の乱れや違法行為)や権力乱用、不正・腐敗などと同様に、「税金外の負担」を強いる行為は犯罪に当たるとの認識を示した。
税金外の負担とは、権力機関が法的裏付けのない金品を住民から徴収することを指すが、あまりの負担の大きさに国民の不満も強い。取り締まりは行われているが、根絶はほぼ不可能な状態だ。
平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)市内の小中学校では、この「税金外の負担」の有無を含めた、抜き打ち検査が行われていると現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
情報筋によると、検査実施のきっかけとなったのは、出席率の低さだ。
「ただでさえ懐事情が苦しいのに、頻繁に強いられる税金外の負担のせいで、保護者たちは子どもを登校させたくても、その経済的余裕がない」(情報筋)
北朝鮮の学校は、児童・生徒に古紙や古ゴム、くず鉄、木の実、動物の皮など様々な物品の供出を強いている。また、あらゆる名目で金銭を徴収する。
一例を挙げると、新義州市内のある小学校は、新学期を前にして、教室、学校全体の整備、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)への慰問品、地方建設など様々な名目で金銭を徴収した。その額は合計すると、子ども1人当たり数十万北朝鮮ウォンに達する。
このような金品が調達できずに、登校できない子どもが少なからず存在する。
(参考記事:女子大生40人が犠牲…北朝鮮幹部「鬼畜行為」で見せしめ)
これは新義州だけに限った話ではない。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)では、金品の要求が1カ月で70万北朝鮮ウォン(約1万2600円)を超えていると、現地の情報筋が伝えている。
国営企業の一般的な月給は3万北朝鮮ウォン(約540円)から5万北朝鮮ウォン(約900円)だ。その数年分に及ぶ金額を要求されるばかりか、頻繁に勤労動員まで命じられる。それなのに、教育内容は質が低い。そのため、子どもを登校させず、家庭教師を雇って自宅で勉強させる保護者も多い。学校の出席率が半分に満たないとの報告もある。
検査官は、事前通告なしに学校を訪れ、出席率を調べ、一部の児童、生徒を呼び出して、税金外の負担をいくら要求され、いくら払ったかなどを聞き出す。
教師は、検査官がやって来ると、児童、生徒に向かって検査官に見えないところで、口で手を隠す動作をする。「何も言うな」と合図を送っているのだ。
そもそも、金品の供出要求は教師個人が出すわけではなく、国の命令に従って学校が教師に強いているものだ。しかし、新義州市教育部は、「教師が私腹を肥やすために税金外の負担を強いている」として抜き打ち検査を行っており、教師の間で不満が高まっている。
ただ、教師とて全くクリーンというわけではない。大幅な引き上げが行われたとはいえ、月給だけでは生活が成り立たないため、保護者に「お願い」、つまりワイロを要求するのだ。子どもを人質に取られた保護者は、泣く泣くお願いを聞き入れるという流れだ。
検査官も「手ぶら」で帰ることはない。検査が終わると、教師にタバコや現金を要求するのだ。教師は、その費用を保護者に「お願い」の形で転嫁する。
「検査官も不正行為を行っている。今回の抜き打ち検査は一体何を誰のためにやっているのか問いただしたい」(教師)
学校のみならず、国営企業や国の機関でも、末端の教師や職員は、上司から金品の上納を求められる。その上司も、さらに上の人間から上納を求められているのだ。また、何らかの権限を持った人は、それを利用してワイロを受け取る。書類一枚出してもらうのにも、ワイロが必要といった具合だ。
上から下までワイロ、上納金、税金外の負担など様々な形で金品を要求されるのが北朝鮮の現状だ。元帥様(金正恩氏)は、そんな現状を打破したいようだが、これではまず無理だろう。