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北朝鮮の「逃亡者」が集う、違法賭博のアングラ世界

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
故金日成氏が描かれた紙幣でパイプをつくり覚醒剤を吸引する様子(デイリーN)

北朝鮮当局は近年、人口減少に伴う労働力不足を補うため、農村や炭鉱などに“自ら望んで”向かうことを強いる「嘆願事業」を進めている。

国営の朝鮮中央通信は今月5日、平安南道(ピョンアンナムド)の若者150人が、「困難で骨の折れる部門で働きたい」と願い出て、道内の炭鉱などに向かったと報じている。だが、今年1月の1カ月間で、全国の6000人が「嘆願」したのと比べると、規模が小さくなり、記事によっては人数を明らかにしていないものもある。おそらく公開できるほど人が集まらなかったのだろう。

このような「嘆願事業」が若者の間で、激しく不人気であることに違いはない。北朝鮮の戸籍制度の関係上、一度、都会から離れて農村や炭鉱に移住すると、原則として戻ることはできない。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、嘆願事業で炭鉱、農村、建設現場などに送り込まれた多くの若者が逃げ出していると伝えた。

道内の東林(トンリム)郡では今年6月、農村に行かされた若者Aさんが逃げ出し、賭場で捕まり連れ戻される事件が起きた。

彼は兵役で軍に入隊したが、健康状態が悪く鑑定除隊(依病除隊、病気によって軍を辞めること)した。しかし地元の青年同盟は、Aさんの健康状態を考慮せず、農村への嘆願者リストに彼の名前を載せた。彼は何度もリストから外してくれるように頼み込んだが、結局は受け入れられず、農村に強制的に徴発された。

そして、そこでの生活に耐えられず、今年5月に脱走した。彼が向かったのは賭場だった。賭場を転々として暮らしていたが、結局捕まり、連れ戻されてしまった。

いっさいのギャンブルが違法である北朝鮮の「賭場」の実態について、情報筋は詳らかにしていない。非常に興味深いが、情報はほとんどない。北朝鮮にも「ヤクザ」に似た人々がいるとされるので、そうした世界もあるのだろう。

(参考記事:【実録 北朝鮮ヤクザの世界】28歳で頂点に立った伝説の男

平安南道の价川(ケチョン)市ではこんな事件が起きた。

元は軍人だったBさんは、建築資材の横流しで摘発され、生活除隊(不名誉除隊)の処分を受け、自宅に戻った。地元当局は、厄介払いと言わんばかりに、彼の名前を嘆願者リストに載せた。

炭鉱に行かされたBさんだったが、普段から「なんで俺がこんな目に遭うんだ」と不平不満を述べ、まともに出勤せず、ギャンブルにハマっていった。結局、農村から逃げ出し各地の賭場を転々としていたが、結局は捕まってしまった。

Bさんは両親にこんなことを話していたという。

「自分を発散できるのはギャンブル以外にない。賭場には、自分と同じような立場で、話の通じる連中がいたからとても心が楽だった」

厳しい社会生活、嘆願で送られた先でのつらい労働に耐えられず、社会からドロップアウトしてしまった若者。このまま農村や炭鉱の村で腐っていくのだろうか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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