今月19日朝、TOKYOMX「堀潤モーニングFLAG 」に自民党の石破茂元幹事長が出演、裏金や派閥など「政治と金」の問題について、過去に取りまとめた「ある文書」を改革の中心に据えるべきだと提案した。
その文書は、34年前に自民党が策定した「政治改革大綱 」。
いま、日本の政治は大きな岐路に立たされている。リクルート疑惑をきっかけに、国民の政治に対する不信感は頂点に達し、我が国議会政治史上類を見ない深刻な事態を迎えている
という書き出しで始まる。
この大綱では既に総裁をはじめとする主要党役員や閣僚の派閥離脱、パーティーの自粛、公正、公開のためのルールづくり、政党への資金の集中、政党法の制定などを提言している。
政治家自らの「倫理観なき振る舞い」にも批判の目を向け、改革への決意を打ち出したものだった。
石破元幹事長はリクルート事件発覚の翌年、平成元年1月に後藤田正晴委員長を筆頭に開かれた「自民党政治改革委員会」初会合を皮切りに、自身を含む全所属議員参加の討議や当選一回生が集い連日侃々諤々の議論を戦わせていた当時の様子を振り返った。
TOKYOMX「堀潤モーニングFLAG:激論サミット」より
この30年あまり、自民党は何をやってきたのか。永田町の政治家たちはなぜ改革できなかったのか。まさに、失われた平成の30年に時期は重なる。いまこそ、あらためて多くの議員が、有権者が目を通すべき文書だ。
一部を引用しながら、読み解いてみたい。
目次1
目次2 目次を一読するだけでも、今、私たちが必要としている政治改革そのものであることが見て取れる。
第一 政治改革の考え方 〔現状認識} 〔改革の方向〕 〔改革への決意〕 第二 政治改革の内容 1政治倫理の確立 2政治資金をめぐるあたらしい秩序 (1)節減・公正・公開のあたらしいルールの確立 (2)「出」の抑制 (3)「入」の改革 (4)公開性の徹底 3選挙制度の抜本改革 (1)衆議院の改革 (2)参議院の改革 4国会の活性化 (1)審議の充実とわかりやすい国会運営 (2)多数決原理の尊重 (3)能率的な国会運営の実現 5党改革の断行 (1)派閥の弊害除去と解消への決意 (2)近代的国民政党への脱皮 6地方分権の確立 第三政治改革の手順と推進体制 (1)政治改革の手順 (2)推進体制
番組中、目次を読み上げると石破元幹事長は「それまでの自民党では考えられなかったような画期的な内容だった。しかし、結局、選挙制度改革の議論が中心になってしまい、政治資金の改革が十分できなかった」と振り返った。
政治改革の考え方は、悪い意味で「色褪せない」 第一章は、政治改革の考え方を整理するところから始まる。「リクルート事件」という固有名詞を除けば、現在の認識とほぼ一致する。
いま、日本の政治はおおきな岐路に立たされている。リクルー卜疑惑をきっかけに、国民の政治にたいする不信感は頂点に達し、わが国議会政治史上、例をみない深刻な事態をむかえている。 なかでも、とくにきびしい批判がわが党に集中している。わが党は立党以来、政治の安定におおきく寄与し、国民の願いにこたえる政策を着実に実行して、今日の豊かな経済社会を築きあげてきた。 さらにいま、わが国は自由主義と議会制民主主義を国家の基本理念として、社会、文化、経済の各分野にわたるあたらしい飛躍をはかり、国際社会の平和と繁栄にいっそう貢献すべきだいじなときをむかえている。 この重大な時期に、国民は各種選挙においてわが党にたいしきびしい審判を下している。選挙にしめされた結果は、もとよりわが党への批判のあらわれと、謙虚に受けとめなければならない。 しかしわれわれは、戦後営々として築いてきた体制の変更を国民が望んでいるとはおもわない。 われわれは自信をもって自由と民主主義の現体制を堅持する。 いまこそ事態を深刻かつ率直に認識し、国民感覚とのずれをふかく反省し、さまざまな批判にこたえ、「政治は国民のもの」と宣言した立党の原点にかえり、党の再生をなしとげて国民の信頼回復をはたさなければならない。そしてこのことが、引き続いてわが国のあかるい未来をひらいていく唯一の道であることを信ずる。
謙虚に受け止めるべきだとしたその志は、その後一体どのように昇華されたのか。
続く「改革の方向性と決意」を読むと、岸田総理の言う「新しい枠組み」など全く必要がないと思えるほど、過去の議論が未達であることがよくわかる。
〔改革の方向〕 われわれは、時代の変化に即応して行財政改革、税制改革など一連の制度改革を断行してきたが、かねてより、その土台をなす政治のあり方もまた見直すべきであると考えてきた。 とくに今回の疑惑は、われわれにたいし健全な議会制民主主義、政党政治の再構築をあらためてつよく決意させた。 いま、国民の政治不信、および自民党批判の中心にあるものは、 ①政治家個々人の倫理性の欠如 ②多額の政治資金とその不透明さ ③不合理な議員定数および選挙制度 ④わかりにくく非能率的な国会審議⑤派閥偏重など硬直した党運営などである。なかでも、政治と金の問題は政治不信の最大の元凶である。 これまでわれわれは、政治倫理は第一義的には、個人の自覚によるべきであるとの信念から、自らをきびしく律する姿勢の徹底をはかってきたが、多額の政治資金の調達をしいられる政治のしくみ、とくに選挙制度のまえには自己規制だけでは十分でないことを痛感した。 したがってわれわれは、諸問題のおおくが現行中選挙区制度の弊害に起因しているとの観点から、これを抜本的に見直すこととする。 さらに、公私の峻別や節度ある政治資金とその透明性を制度的に裏付けることなどによって政治倫理の向上を期し、国会運営、党運営においても十分に国民の負託にこたえられる政治環境をととのえることを目的に、政治制度全般の改革をはかる。 〔改革への決意〕 われわれは、国会開設百年にあたる明年十一月までを目途に、抜本的改革のための法律を成立させ、来たるべき二十一世紀にむけて、活力にみちた政治制度を築いていく。 このためわれわれは、党に改革実現の母体となる政治改革推進本部を設置し、国会に第三者機関をもうけ、政府の選挙制度審議会とあわせて、党内外の英知を結集した万全の推進体制をしき、全力をあげて改革の実現にとりくむ。 もとより、永年続いた制度の改革はけっしてやさしくはない。 しかし、国民の政治にたいする信頼を回復するためには、いまこそ自らの出血と犠牲を覚悟して、国民に政治家の良心と責任感をしめすときである。
「今こそ自らの出血と犠牲を覚悟して国民に政治家の良心と責任感を示すとき」という文章から伝わる熱意とは裏腹に、結局、改革には至らなかったことを有権者も含めしっかり受け止めなくてはならない。
第二章からは具体的な改革案について書かれているので目を通してみたい。特に現在も設置されている「政治倫理審査会」の改正強化を目指した改革案について注目して読んでみてほしい。
第二 政治改革の内容 1政治倫理の確立 国民の信託によって国政をまかされる政治家は、国民全体の代表としての立場をつねに自覚し、かりそめにも国民の信頼にもとることのないようつとめなければならない。 かつてわれわれは、衆参両院において「政治倫理綱領」を定めたが、政治家が保つべき政治姿勢の指針はまさにここに言いつくされている。したがってわれわれは、政治倫理綱領の遵守を政治家としての資格の第一義とし、自らにきびしくこれを課す決意をあらたにする。 (1)行為規範、政治倫理審査会の改正強化 政治倫理綱領とともに、両院の議決で定められている行為規範は、議員の院内および院外における行為にたいする規範をしめしたものである。これに違反し、政治的道義的に責任がみとめられるか否かについて審査するために、衆参両院に政治倫理審査会を設置した。 行為規範は、第一条において、議員の職務について政治倫理綱領の精神にのっとり、廉潔の保持と公正をもとめているが、その徹底をはかるため、条項をあらたにくわえ、内容を充実する。 行為規範違反者にたいする政治倫理審査会は、その機能が事実上停止状態にある。 審査会が十分に機能を発揮し、国会における自浄能力をたかめるために、委員数の再検討、審査要件の弾力化、公開条件の緩和をおこなう。また、審査の対象にあらたに資産公開法に関する事項をくわえる。 政治倫理審査会は、国会議員の自浄能力を発揮する場である。したがって国会議員の倫理問題については、政治倫理審査会において審査することとし、国会議員に証人として証言をもとめることができるよう所要の改正をおこない、他の国会審議に影響をあたえないようにする。 なお、常任委員会・特別委員会における国政調査権と国会議員の証人喚問のあり方についての検討をすすめる。 さらに、政治倫理綱領にうたわれている「政治倫理に反する事実があるとの疑惑をもたれた場合は自らその疑惑の解明と責任をあきらかにする」との条項にのっとり、今後、疑惑をもたれた議員に政治倫理審査会において、自発的な解明の機会の道をひらくための改正をおこなう。
政治倫理審査会は、衆議院・参議院および地方議会などに設置される組織で「政倫審」と呼ばれこれまでも様々な政治汚職に関連して開催されてきた。
委員の3分の1以上の申し立てにより、出席委員の過半数による議決を経て審査が行われる一方で、不当な疑惑を受けたとして議員本人が申し出た場合も審査が行われる。
過去の政倫審を振り返ると、本人の申し出により、1996年9月の加藤紘一議員共和汚職事件、1998年9月の山崎拓議員泉井事件、2001年2月の額賀福志郎KSD事件、2002年7月の田中眞紀子議員、公設秘書給与流用疑惑、橋本龍太郎元総理が問われた2004年11月の日歯連闇献金事件などもあった。いずれも本人の申し出により開催された。 2009年7月の鳩山由紀夫議員個人献金偽装問題で審査を議決したものの、本人が出席に応じず流会となった。
結局、政治改革大綱に謳われているような、政治倫理審査会の改正強化というものは十分に行われず、弁明するための場として活用されるのにとどまっている。
大綱ではそのほか、
②パーティの自粛とあらたな規制 わが党はすでに「パーティ開催の自粛に関する申し合わせ」をおこない、本年一月からパーティの節度ある開催運営につとめているが、今後、閣僚、派閥などによる開催の自粛をさらに徹底するとともに、開催にあたっての官公庁の介在の排除、同一の者による一定金額をこえるパーティ券購入の禁止、一定金額をこえるパーティの政治団体主催の義務づけなどの立法措置を講ずる。
さらに、透明性についても提言。
(4)公開性の徹底 当面、寄附についての公開基準を見直し、パーティ収支の明確化、政治家の関係政治団体の公表、政治団体の資産公開などの措置を講ずるとともに、中長期的にはさらに「ガラス張りの政治」実現にむけて、政治資金をあつかう政治団体の数の制限などもふくめ、政治資金の公開性を徹底する。
この大綱以降も、資金集めパーティーが以前として当たり前のように開催され、抜け道も塞がれることなく活用されてきた。 政治家への寄付は年間5万円超で実名などを政治資金収支報告書に記載する義務があるが、パーティーでは20万円以下の購入者はその必要がない。企業団体献金の抜け道として活用されてきた。今回もそれが課題としてあげられている。
一体、この30年以上、政治家たちには何を続けてきたのだろうか。もう、すべきことは様々な議論の積み上げでここにまとまっていた。 自民党はこの大綱に書かれた内容をまずはしっかりと実行に移すところから始めていただきたい。
TOKYOMX「堀潤モーニングFLAG 激論サミット」より
番組では後半、石破元幹事長から、選挙制度改革についての議論に関してこんなエピソードも披露された。中選挙区制度から小選挙区制度への改革を求める石破氏らに対し、中選挙区論者の小泉純一郎議員から「小選挙区を導入すれば、首相官邸と党本部の言うことしか聞かないつまらない議員ばかりになる」と言われたという。石破氏らが反論すると小泉氏はニヤリと笑い「キミたちはまだ政治家という人間を知らないね」と返されたということだった。
「政治改革大綱」の過程で議論され、実行された、小選挙区制の課題は令和の今、まさにそこにある。皮肉な話である。