Yahoo!ニュース

本音トークから垣間見られる選手たちがサイン盗み問題で不満の声を上げ続ける理由

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
選手同士のトーク番組でサイン盗み問題に関して本音を明かしたトレバー・バウアー投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【今なおバッシングが続くサイン盗み問題】

 アストロズのサイン盗み問題がまったく沈静化する気配を見せていない。

 2月13日にアストロズが実施した記者会見の内容があまりにお粗末だったことから、メディアと一般大衆が一緒になって猛批判を繰り広げる事態になっている。

 SNSが一般大衆の重要な発信ツールになった現代社会とも相俟って、今も批判は留まることをしらず、アストロズの選手たちが日常生活を送るのも困難なほど脅迫まがいのバッシングまで受けている状況だ。

 またアストロズとは別に、MLBでは2018年のレッドソックスによるサイン盗み行為についても調査が続いている状態で、今後さらに騒動が拡大していく可能性すらある。

【MLBで起きた初めての現象】

 実は今回のサイン盗み問題で、多くの米メデイアが指摘しているほどの注目すべき現象が起こっているのだ。それは、メディアや一般大衆に加わって、他チームの選手たちもが不満や批判の声を上げているということだ。

 これまでもMLBは、ステロイド問題をはじめとする様々なスキャンダルに見舞われてきた。そうした場面でメディアや一般大衆から猛批判を受けようとも、選手たちが公の場で同調するような発言をすることはなかった。それがMLBの長年にわたる伝統であり文化だと信じられてきた。

 ところが今回のサイン盗み問題に関しては、マイク・トラウト選手のようなMLBを代表するスター選手を含め、多くの選手たちがサイン盗みという行為を批判し、MLBの処分の甘さに不満を表明しているのだ。

 改めて今回の問題が、MLBの歴史を紐解いても相当に深刻なものであることが窺い知れるだろう。

【CC・サバシア氏ら3投手が本音でトーク】

 それではなぜ選手たちは、従来なら御法度ともいえる選手間での批判を公言することになったのだろうか。

 その答えともいえる動画が、YouTube上で公開されている。この動画は『Uninterrupted』が配信しているCC・サバシア氏とライアン・ルオッコ氏がホストのポッドキャスト「R2C2」の1つで、トレバー・バウアー投手とソニー・グレイ投手をゲストに迎えたトーク収録を余すことなく撮影したものだ。

 その中で彼らはアストロズのサイン盗み問題について本音で語り合っているのだが、まさに他チームの選手たちの気持ちを代弁しているものだといっていい。

 全編英語で字幕スーパーもついていない動画ではあるが、とりあえずURLを添付していくので、興味がある読者はチェックして欲しい。サイン盗み問題に関する本音トークは、26分46秒くらいから展開される。

【選手たちは誰も2017年だけでとは考えていない?!】

 ここで彼らのトークのすべてを紹介することはできないが、注目すべき発言を抜粋してみたい。

 「2018年にアストロズと地区シリーズを戦った時、我ら全員が、アストロズが明らかに優位になっているのを感じていた。間違いなく何かが起こっていた。

 あのシリーズはベンチ横にカメラ、携帯電話、ビデオを持ったアストロズのスタッフが陣取っていた。自分はすぐに何かがおかしい、彼らは何かをやっていると感じた」(バウアー投手)

 「2019年シーズンはブルペン待機だったけど、このシーズンも何かやっていると感じていた。ブルペンのモニターを見ていても、やたらにアストロズのスタッフが我々のブルペンを出入りしているのがわかった。それはリーグ優勝決定シリーズでも同様だった」(サバシア氏)

 「2014年か2015年だったと思うけど、あくまでジョークではあったけど、ミニッツメイド(アストロズの本拠地球場)に行く度に、ベンチに設置してあるビデオカメラをタオルで隠していた。遠征する度毎回だった」(グレイ投手)

 「自分も2014年か2015年にミニッツメイドに35~40台のカメラが設置されているのを見て驚かされたことがある。試合中は多い時でもグラウンドでプレーする選手は13人しかいないのに、彼らは40台のカメラで一体何を撮影しているのかと不思議でしかなかった」(バウアー投手)

 この3人の意見こそ、他チームが抱いてきたアストロズに対する感じ方なのだ。

 にもかかわらず、アストロズは記者会見上で2017年しかサイン盗みをやっていないと主張し、MLBの調査でも処分対象になったのは2017年シーズンだけだった。

 これでは選手たちが納得できないのも当然のことだろう。

【サイン盗み問題で結束した選手たち】

 さらにバウアー投手は、選手たちが次々に声を上げている現状を以下のように説明している。

 「ステロイド時代はすべてのチームが関与したことだが、今回は1つのチームが他のすべてのチームを対象にした事件だという点だ。

 自分がやり切れない思いを感じるのは、チームが一丸となってその行為を行っていたということだ。ステロイド時代でもそれを使うか、どうかの選択肢があったように、今回もサイン盗みをするか、しないかの選択肢があったはずだ。そこでチーム全員で選択した結果だということだ。

 今回のように(アストロズに対し)選手たちが一つにまとまったのを今まで見たことがない。自分としては本当に喜ばしいことだと思っている」

 どうやら選手たちの不満は簡単に収まりそうにないようだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事