星のカービィは「かちわりメガトンパンチ」で星を割る。いったいどれほどのパンチ力なのか!?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
今年は『星のカービィ』30周年!
カービィはさまざまなゲームでデデデ大王たちと戦って、平和すぎるプププランドの平和を守ってきた。
と思ったら、『かちわりメガトンパンチ』というゲームでは、カービィは自分が住む星を殴りつけて、真っ二つにしている!
しかもこれ、1996年に発売された『星のカービィ スーパーデラックス』に収録されているサブゲーム。
こんなにスケールの大きなゲームが附録扱いとはビックリだ。
でも、科学的にはたいへん興味深い。
どれほどのパンチを見舞うと星にヒビを入れ、カチ割ってしまうことができるのだろうか?
◆ポップスターはどんな星?
そもそも「かちわりメガトンパンチ」というネーミングがすごい。
ネーミングから、甲子園球場の「カチ割り氷」を連想するけど、ここでカチ割るのは氷ではなく、星なのだ。それも、自分たちの住む星・ポップスター。
観客たちは、カービィやワドルディのカチ割り行為にヤンヤの喝采を送っていたが、自分たちの星を割られて、喜んでる場合なのか!?
しかも放たれるのは、メガトンパンチ。
「メガ」とは「100万倍」という意味だから、「かちわりメガトンパンチ」とは、すなわち「星を割る100万tパンチ」である。
これでカチ割られるポップスターとは、どんな星なのか?
ご存じのとおり、この星は☆型。クリスマスツリーのてっぺんに飾る星みたいに、先端が5カ所とんがっている。
星が☆の形をしているのは、まことに当然……なはずはない。
直径300kmを超える星は、生まれたばかりの頃はドロドロに溶けているので、重力によって必ず球形になる。球形をしていないのは、探査機はやぶさが行った小惑星イトカワなど、小さくて重力の弱い星の特徴なのだ。
ゲームでは、ポップスターは地球と同程度の重力が働いているように見えるから、ここでは「質量も密度も地球と同じ」と仮定しよう。
すると、星の中心から5つの先端までの距離は1万3千km、中心から5つの凹みまでは9千km、厚さは6400kmになる(話をシンプルにするため、厚さは均一と考える)。
これは、上から見ると地球より2倍も大きく、横から見ると地球の半分というイビツな形。
こんなに大きな星が球形にならなかったのは、宇宙のナゾというほかありません。
◆星をカチ割るパンチとは!?
カービィやワドルディは、この星にパンチでヒビを入れるわけである。
ゲームでは、パンチが弱ければ右上の凹みがチョビッとヒビ割れるだけ、強ければ右上から左下に向かって大きなヒビが走る。どうも、このかちわりメガトンパンチ大会は、ポップスターの右上の凹みのあたりで行われているようだ。
実際にゲームをやってみると、カービィがブロックにパンチを見舞うや、床に亀裂が走り、それはポップスターの4分の3にも及ぶ巨大なヒビとなった。
表示は「196Mt」。
「Mt」とはメガトンの単位表記だから、つまり196メガトンのパンチを放ったわけである。
さらに何度も挑戦するうちに、おおっ、ついにヒビは右上の凹みから中心を通って、下の凹みまで走った。
これは、ポップスターが二つに割れたということだろう。
ヒビの長さは9千km×2=1万8千kmで、表示は「201Mt」だ! やったー!
などと、つい喜んでしまったが、いま星がパッカリ割れたんだよね。喜んでいいんですかね。
◆大会は中止だっ!
しかし、この201Mtという数値、科学的にはどうなのだろう?
201Mtのパンチを見舞えば、厚さ6400kmの星に長さ1万8千kmのヒビを入れることができるのだろうか。
201Mt=2億10万tだから、確かにすごそうなパンチである。
ただし、メガトンは「重さ」の単位であると同時に「エネルギー」の単位でもあり、どちらの単位かによって威力も違ってくる。
まず、重さの単位だったら?
重さ10kgの荷物を持ち上げるには、10kgの力が必要なように、重さと力は、科学では同じものだ。するとメガトンパンチは「100万tの衝撃力」を持つと考えられる。
史上最強のボクサーと謳われたマイク・タイソンは、パンチの衝撃力が600kgだったというが、201Mtとは、その3億3500万倍。タイソンが3億3500万人いたら、星を貫くヒビを入れられる……かなあ?
では、エネルギーの単位だとしたら?
エネルギーの単位としてのメガトンは「同じ重さのTNT爆薬と同じエネルギーを持つ」という意味で、核兵器の威力を表すのに使われる。
この場合、1Mtは3975兆J(ジュール)であり、201Mtなら80京Jだ。
物体にヒビが入ったとき、ヒビの規模からエネルギーなどを求める公式というものはない。
ただし、地震のマグニチュードと断層の規模には、データの蓄積から得られた公式があるので、それを応用して、厚さ6400kmの星に長さ1万8千kmのヒビを発生させるエネルギーを計算してみると……ぬおっ、マグニチュード14.74!
記録に残る最大の地震は1960年のチリ沖地震で、マグニチュード9.5。マグニチュードという単位は「2上がると、エネルギーは千倍になる」というシステムなので、マグニチュード14.74とは、チリ沖地震の1億6千万倍のエネルギーになる。
まあそうでしょうなあ、星を貫くヒビが入ったんだから。
ということは、ポップスターも、カービィがパンチをぶち込んだ瞬間、マグニチュード14.74の地震に見舞われた可能性が大!
断じてこんな大会などやっている場合ではない。……って、地震源は自分たちだけど。
◆正しくは「ヨタトンパンチ」だ
ポップスターをカチ割ったこのパンチは、いったい何Mtだったのか。
マグニチュード14.74とは、17稊(じょ)9千垓(がい)J=1790000000000000000000000J。エネルギーとしてのメガトンでは「4530億Mt」である。星を貫くヒビを入れた場合、ゲームの画面には、ぜひとも「453000000000Mt」と表記していただきたい。
え? 数字の桁が大きすぎる?
そうでしょうなあ。それは科学的にも気になるところで、もともと「キロ」や「メガ」は、大きな数字を使わなくても済むための「数字の接頭辞」。
せっかく「メガ」を使っているのに、数字が巨大とは本末転倒なのだ。
単位の接頭辞には、「メガ」の千倍を表す「ギガ」、その千倍の「テラ」、その千倍の「ペタ」、その千倍の「エクサ」、その千倍の「ゼタ」、その千倍で最大の「ヨタ」がある。
これらを使った場合は、小数点以上を3桁以内にするのが慣例なので、「453000000000Mt」の場合は「ペタ」を使って、「453Pt(ペタトン)」と表記するのが適切だ。
衝撃力としてのメガトンなら、カービィのパンチが当たった瞬間にブロックが10cm凹んだと仮定して計算すると、1820000000000000000Mtだ。この場合は、「1.82Yt(ヨタトン)」と表記するのが美しい。
こうして、カービィのサブゲーム「かちわりメガトンパンチ」を科学的に正しく表すならば、「かちわりペタトンパンチ」または「かちわりヨタトンパンチ」と称すべきことが明らかになった。
うーん。「メガトンパンチ」よりはるかにすごいパンチなのだが、あんまり強い感じがしませんなあ。