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今年のムンクは目が離せない!オスロ空港とムンク美術館で特別展示

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
夏展示の主役『柱時計とベッドの間の自画像』Photo:Munch Museum

『叫び』を描いた画家エドヴァルド・ムンクは、実はノルウェー出身だ。

首都オスロには、ムンクが『叫び』のインスピレーションを受けたという丘もある。

彫刻がいくつも隠れているエーケベルグ公園。ムンクが散歩していたともされるエリア。『叫び』のフレームがイメージされたアートもある Photo: Asaki Abumi
彫刻がいくつも隠れているエーケベルグ公園。ムンクが散歩していたともされるエリア。『叫び』のフレームがイメージされたアートもある Photo: Asaki Abumi

毎年、夏のフィヨルド観光の時期になると、世界中からの旅人がオスロにやってくる。目的は、ムンクだ。

頻繁に展覧会のテーマを変えるムンク美術館にとっては、夏の展示は最も力を入れたいところ。

オスロ中心地からバスや地下鉄ですぐ、ムンク美術館 Photo: Asaki Abumi
オスロ中心地からバスや地下鉄ですぐ、ムンク美術館 Photo: Asaki Abumi

今年の夏展覧会のテーマは、『柱時計とベッドの間の自画像』。

実は、筆者のお気に入りのムンク作品、トップ5に入る2作品が含まれているのが今年の展覧会。

今年、日本からオスロへ旅立つ予定がある方には、ぜひおすすめしたい。

お気に入りというのは、『柱時計とベッドの間の自画像』と『星月夜』だ。

前者の作品には、ピンク・ホワイト・ブラックのベッドカバーが描かれており、この柄のエコバックを以前から愛用中!

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久しぶりに、ムンクの定番の世界にどっぷりと浸る

ムンク美術館と言えば、常識を破り、物議を醸す画期的な挑戦をすることがある。

ここ数年間は、他の大物アーティストとムンクの作品を比較展示するプロジェクトが続いていた。

「これも、ムンク?」という、あまり知られていない絵画や彫刻は、頻繁に登場。

今回の展示では、久しぶりに「観光客がイメージするムンクの世界観」が広がっている。

Photo: Asaki Abumi
Photo: Asaki Abumi

『叫び』がなくとも、ムンクを楽しめる

ノルウェーでは、幼稚園・保育園から義務教育期間中は、社会科見学などで美術館を訪れる。ムンクの絵を真似して描いてみたり、作品について議論することもある。

そのため、ムンク美術館に期待することが、観光客と地元住民では、必ずしも同じとは限らない。

「定番のムンク作品」は、ムンク美術館よりも、オスロにある国立美術館のほうが適していることが多かった。

国立美術館では、『叫び』や『マドンナ』など、定番の作品を固定展示している。

一方、ムンク美術館は、その時の展覧会のテーマに合わないとキュレーターが判断すれば、『叫び』さえも壁から容赦なく取り外してしまう。

今回も、『叫び』はないのだが、ムンクらしいタッチの作品をたくさん鑑賞することができる。

北欧で感じる、愛・希望・絶望・死

オスロ市が所有するムンク美術館、サンフランシスコ近代美術館、ニューヨークにあるメトロポリタン美術館という、3つの美術館による共同展示となる。

『柱時計とベッドの間の自画像』を筆頭に、ムンクらしいタッチの絵と、人間ドラマが凝縮されている。

8日のプレス向け説明会では、チーフであるヤン・オーヴェ・ステイハウグ氏(写真下)が、興奮しながら展示の魅力を熱弁していた。

Photo: Asaki Abumi
Photo: Asaki Abumi

「まるで、絵の中から登場人物たちが出てきそうな迫力。私たちを、がっと掴んでくるような」

「今朝は、『生命のダンス』を見ていて、突然、ふと気付いたんです! まるで、3Dのような深みのある構図なのだと!この絵のディープさを再発見しました」

右奥の絵が『生命のダンス』 Photo:Asaki Abumi
右奥の絵が『生命のダンス』 Photo:Asaki Abumi

「絵の魅力に気づくためには、時には時間をかけて、目を動かしながら、熟考してみたほうがいい」

座って考えるスペース Photo: Asaki Abumi
座って考えるスペース Photo: Asaki Abumi

これまでのムンク美術館にしては、シンプルな館内デザインだ。

空間中央の設置物は、イスやベッドとして、観客は自由に使うことができる。

子どもにとっても楽しそうな空間だ。

Photo: Asaki Abumi
Photo: Asaki Abumi

過ぎ去る時間、過去、後悔、悩み、苦痛、嫉妬、愛、裸、男と女、酒、孤独、闇、病気、死の匂い。

ドロドロとした人間関係と感情が、小さな部屋とベッドの上で繰り広げられる。そのような絵がずらりと並んでいる。

盗難は大丈夫?オスロ空港にムンクのオリジナル絵画

Photo: Avinor
Photo: Avinor

今年の夏のニュースはそれだけではない。

オスロ空港(ガーデモエン空港)のターミナルDでは、ムンクのオリジナル絵画が2点、無料で公開展示されている。

空港と美術館との契約では、今後10年間に渡り、作品を入れ替えながら展示予定。

ムンク美術館といえば、ゆるいセキュリティが原因で、『叫び』と『マドンナ』が盗難にあったことも。

国内外から人々が行き来する場所に展示して、「大丈夫なの?」と思うかもしれない。

空港のセキュリティは厳しいそうで、美術館にあるよりも安心「だと思う」と、美術館側は答えた。

ムンクの聖なる地に、「死ぬための家」?

今回の展覧会でも鑑賞できる『星月夜』。絵の舞台は、ムンクのアトリエがあるアーケリー地区だ。

Photo: Munch Museum
Photo: Munch Museum

ここでは今、ひと騒動が起こっている。

ノルウェー出身の巨匠、ビャルネ・メルゴール氏。以前、物議を醸す展示をムンク美術館としたことで有名だ。

メルゴール氏は、このムンクのアトリエのすぐ近くに、「死ぬための家」という建築物を建てる予定。

しかし、物議を醸すアーティストの計画に対して、近隣住民からは苦情がでている。

文句を言う未来のご近所に対して、メールゴール氏は「負け犬の団体」と言い返すなど、言い争いは悪化するばかり。

ムンクの聖なる地に、メルゴール氏は死の家を建てることができるのだろうか。

今、判断はオスロ市に任されている。

人間ドラマと感情の渦を巻き起こすムンク作品

このように、ムンクが関わる場所には、感情的な人間ドラマがついてきやすい。

それほど、ノルウェーでは、ムンクの影響は大きいのだ。

・・・・・

ふと思った。

『柱時計とベッドの間の自画像』の作品は、そもそも、ノルウェーでは広く知られている作品なのだろうか?

美術館の広報シッレブレッド氏は、「私たち業界関係者の間では、もちろん知られた絵です。しかし、一般のノルウェーの人々の間では、『見たことがある』くらいの認識かもしれません。『叫び』ほど有名ではありませんが、来場者の反応が楽しみです」と答えた。

展覧会は9月9日まで開催予定。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在16年目。ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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