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「菅首相は五輪に失敗すれば“世界最低の指導者”になる」 米メディア 東京五輪

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
国威を最重視する菅首相は“世界最低の指導者”になるのか。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 民意に反して、上限1万人という有観客で東京五輪を開催することに踏み切った菅首相。先日は、リスクがある中で五輪開催を目指す理由について「プライドでも、経済でもない。感染対策を講じられるからだ」と反論したが、その言葉には空虚な響きしかなかった。

 いったい、菅首相はどんな考えで、有観客の五輪を開催しようとしているのか? 衆議院総選挙で勝利し、首相を続投するためだろうか?

世論は懸念せず

 米UPI通信がスウェーデンのランド大学「東アジア及び東南アジア研究センター」の主任講師ポール・オーシェ氏の意見記事を紹介しているが、その中で、オーシェ氏が菅首相の頭の中を覗くような試みをしていて興味深いので紹介したい。

 オーシェ氏は、菅首相は五輪反対という国内世論は懸念していないのではないかとみている。その理由として、日本の選挙は非常に投票率が低い上に、特異な選挙システムであるため、自民党は政権維持のために有権者の大多数を勝ち取る必要はなく、65年間中61年間も政権を握ってきた点を指摘している。直近の総選挙でも、自民党に投票したのは有権者の25%だけだったにもかかわらず、自民党が60%も議席を獲得したことを例にあげている。また、野党は五輪開催に反対しているものの、野党勢力は非力で、また分裂している点にも触れている。

 オーシェ氏は指摘する。

「簡単にいうと、世論は重要だが、決定的な要素にはならない」

 菅首相としては、国民の大反発という世論の中で五輪を開催したとしても、選挙をすれば、結局自民党が勝つと高をくくっているのかもしれない。それゆえ、菅首相は有観客での強行開催という強い姿勢に出ているのだろう。言い換えると、それだけ、投票に行かない国民を軽視しているということになりはしないだろうか?

“国家の威信”を最重視

 世論のことが頭にないとしたら、菅首相はなぜ、五輪開催に執念を燃やしているのか? オーシェ氏は国際社会に“国家の威信”を示すためだと指摘している。

「菅氏の見方からすると、国内世論は複雑な計算式の一要素に過ぎない。複雑な計算式は、IOCとの契約遂行義務と、そして、たぶん、最も重要な“国際社会に対する威信”を含んでいるからだ」

 菅首相にとっては、何より、“国家の威信”が最重要だというのだ。

 これまでの五輪も、開催国が国際社会に“国家の威信”を示す意味を持っていたという。例えば、1964年の東京五輪では戦後孤立していた日本が国際社会への復帰を世界に知らしめた。2008年の北京五輪では中国が大きな国力を持ち始めたことを世界に誇示した。2018年の平昌冬季五輪では、北朝鮮と韓国が初めて統一旗を掲げて入場行進し、南北の連帯の重要性を世界に伝えた。そして、2021年の東京五輪では日本が東日本大震災と福島第一原発事故の被災地の復興を世界に示そうとしていることは周知の通りだ。

 特に、オーシェ氏は「地政学的緊張と対抗意識がはらむ地域では、国威は、少なくとも指導者にとっては重要だ」と指摘している。

 地政学的に、日本は中国や韓国、北朝鮮と緊張関係にある。菅首相はこれらの国々に対して“国家の威信”を示す必要性を感じているということか。何より、2022年に北京冬季五輪を開催する中国に対して威信を示したいという思いが強いと思われる。

 「2022年の北京冬季五輪は初の“グリーン・オリンピック”であり、北京は夏季五輪と冬季五輪の両方を開催した唯一の都市になる」とオーシェ氏が述べているように、北京冬季五輪が世界的に注目を浴びる五輪になる可能性は高い。そんな北京冬季五輪が後に控えていることから、菅首相としては東京五輪開催に失敗し、国威を失墜させたくないところだろう。

木製スプーン(最下位賞)が贈られる

 しかし、世論を懸念せず、菅首相が“国家の威信”を示すべく五輪を強行開催したら、どうなるのか?    

 世界中から多数のアスリートや関係者が来日し、未知の変異株が運ばれる可能性もあるため、関係者全員が感染予防策をとったとしても大きな感染リスクがあることは、すでに多くの専門家が指摘している通りだ。

 実際、五輪関係者の間では、開催を前に、早くも感染拡大が始まっている。先日、来日したウガンダ選手団の1人が、入国時の検疫で新型コロナウイルスに感染していることが判明したが、6月23日には、そのウガンダ選手団からまた新たに感染者が1人出たことが判明した。

 オーシェ氏は最後にこんな皮肉を述べて、記事を締めくくっている。

「菅氏は、自身のリーダーシップを賭けて夏季五輪を成功させようとしている。大きな感染拡大が起きることなく五輪を成し遂げれば、それは選挙での自民党の勝利だけではなく、菅氏の続投も助けることになるだろう。五輪が失敗に終われば、菅氏が辞任の時に受け取るのはブロンズメダルではなくたぶん、木製スプーンだろう」

 木製スプーンとはスポーツ競技などのコンペティションにおいて「最下位に贈られる賞」のことである。感染拡大が起き、東京五輪が失敗に終われば、菅首相は「最下位賞」を贈られることになるというのだ。菅首相は世界から見ると日本国の指導者である。つまり、日本国の指導者である菅首相は、“世界最低の指導者”とみなされることになるわけだ。

 “国家の威信”を賭けて東京五輪を開催しようとしている菅首相だが、感染拡大によって賭けに失敗し、国際社会から“世界最低の指導者”というレッテルを貼られて、日本の国威は失墜する。結局、“国家の威信”のために、“国家の威信”が失われることになる。そんな未来予想図が現実のものになるのを避けるには、国民は、最後まで、五輪中止の声を上げ続ける必要があるのではないか。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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