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新型コロナウイルスに負けるな!玄界灘を越えて野球ファンの心はひとつ。韓国からやって来た熱い応援団

阿佐智ベースボールジャーナリスト
韓国からひいき球団を応援に毎年日本にやってくる斗山ベアーズ応援団

 巷は新型コロナウイルス騒動でパニックになっている。人の移動が国境をやすやすと越えて行われる現在、人類始まって以来の感染症もまた海を越える。今のところ、感染の広がりを食い止めるため、その感染を媒介する他ならぬ人の移動や集まりが世界中で自粛、制限され、スポーツもまたその波に飲まれている。

 プロ野球も現在、オープン戦が無観客で行われているが、2月中は沖縄、宮崎の各球場には多くのファンが球春の到来を感じるべく足を運んでいた。例年2月末に行われる日韓のプロ野球チームが集う「球春みやざきベースボールゲームズ」は、木戸銭なしでプロの試合を観ることができるファン垂涎のイベントなのだが、これも途中から無観客試合となってしまった。昨今悪化する日韓関係の中にあっても、韓国からは昨年の韓国チャンピオン・斗山ベアーズがこれに参加していた。SOKKENスタジアムでの初戦、対オリックス戦のスタンドには、数は決して多くないものの、斗山に熱い声援を送る一団の姿があった。リーダーとなってスタンドでひときわ大きな声で応援を先導しているのはキムさん(仮名)だった。

 日本語ペラペラの彼は、日本のプロ野球にも造詣が深く、これまで数度公式戦を観に来日したこともあるという。

 韓国でも日本と同じように選手に個別の応援歌があるようで、キムさんは場内いっぱいに響く声でそれを歌っている。それがまた実にいい声なのだ。音楽関係の仕事をしているかと思ったが、そうでもなく、現在はサラリーマンをしながら応援をライフワークとしているそうだ。

 今回はこの試合と続いて始まるベアーズの宮崎キャンプを見るために男性4人でソウルからやってきたという。その内ひとりはアメリカ人。ニューヨーク生まれで、福岡で英語の先生をやったのち、韓国に渡ったという。もともとメッツのファンだが、日本で独特の応援文化に触れ、韓国ではまってしまったという。日本ではホークスの試合を見ていたが、今ではすっかりベアーズフリークだ。

オリックスとの練習試合のスタンドに設置された横断幕
オリックスとの練習試合のスタンドに設置された横断幕

 斗山ベアーズは40年近く前の韓国リーグ創設時(当時はOBベアーズ)からの名門球団で、国外キャンプも他球団に先駆けて実施、今年は1次キャンプをオーストラリアで行い、2次キャンプのため宮崎にやってきた。このタイミングで例年、日本球団との練習試合がくまれるのだが、キムさんは過去にもこの「球春みやざきベースボールゲームズ」を観戦しに来たことがあり、その雰囲気が気に入って今回も仲間を連れてやってきたという。

「さすがにオーストラリアには行けませんから。飛行機代が高いからね。レベルの高い日本のチームとの対戦は斗山にとってもいい経験になるし、見ている私たちも面白いですから。去年のプレミア12を見てもわかるように、韓国の野球はアメリカンスタイルで細かい野球ができていません。これではオリンピックも勝てませんからしっかりここで吸収してもらいたいですね」

 過去には年間100試合超を観戦したこともあるというからさすがに目が肥えている。

コロナ渦が九州に上陸する前、日韓プロ球団による練習試合には多くの人が足を運んでいた
コロナ渦が九州に上陸する前、日韓プロ球団による練習試合には多くの人が足を運んでいた

 それにしてもシーズン100試合も観戦って。一体仕事はどうしているんだろう?

 現在は働いているキムさんだが、大学卒業後、なかなか職にありつけず、当時は、いわゆるフリーターをしながら生活のほとんどすべてをベアーズに捧げていたという。首都ソウル都市圏に半数の5球団が集中し、国土の端から端まで日帰りで戻って来れるという韓国だが、それでもビジターゲームを含め大半の試合に足を運ぶというのはよほどの熱意がないとできない。「応援団」と言ってもキムさんの属しているのは私設応援団。韓国野球と言えば、美人チアと団長が内野席で応援をリードするスタイルが有名だが、こちらは球団が専門職を雇って結成される「公認応援団」で、キムさんたちは気の合う仲間とともにグループを結成し、毎試合「公設応援団」に合わせてベアーズナインに声援を送っている。ビジターゲームで「公認応援団」が行けない場合などには、その試合では仕切りを任されることもあるという。

 と言っても、球団から便宜を図ってもらうことはほとんどない。ビッグゲームでメンバーが勢ぞろいするときなどに団体チケットを早めに手配してもらえるくらいだ。

「応援だからと言って、サービスしてもらうのはおかしいでしょう。だって好きでやっているんですから」

というキムさんの姿勢には応援団としての矜持を感じる。仕事をもった現在でも、ホームゲームはほぼすべて足を運ぶという。今回は、その応援の肩慣らしを兼ねて、またチームの仕上がり具合を見るため宮崎を再訪したようだ。

「今韓日関係が悪く、LCCがなくなったのでお金がかかりましたよ。人々の間には何もないのにね。宮崎の人はみんなよくしてくれますよ。政治家がバカなんですよ」

 このキムさんの意見には全く賛成だ。私も昨年韓国に取材に行ったが、現地の人は球場の外でも実に親切に接してくれた。

 ということで今回はキムさん。ソウルから福岡に入り、レンタカーで宮崎入りしたという。お宿は1泊2000円のゲストハウス。節約旅行をしながらベアーズに声援を送っていた。

スポーツを通じた国境を越えたファンによる交流ができるようになるのはいつになるだろうか
スポーツを通じた国境を越えたファンによる交流ができるようになるのはいつになるだろうか

 彼に話を聞いた2月末時点ではまだ新型コロナは韓国では深刻化しておらず、むしろ日本の方で騒動になり始めていた。当時、新型コロナは例のクルーズ船が一番の問題で、あとは東日本で少しずつ感染者が増えてきたという状況だった。キムさんたちは、それについても調べた上で、九州は問題ないと判断し、宮崎までやってきたという。

 あれから約半月。日韓両国とも新型コロナは深刻化し、日本でキャンプを張る韓国球団は、国内でのオープン戦中止を受けて一旦は日本でのキャンプ延長の方向に向かったものの、3月に入って急遽、キャンプ打ち上げを前倒しし、帰国することになった。両国双方で入国制限をかける方向に動き出したからだ。そして、両国とも開幕も延期となり、先行きの見えない中、とまどう選手、ファンをよそに、その入国制限を巡っても、政治上の争いが起こっている。

 止まない雨はない。新型コロナ騒動が収まり、再び玄界灘を挟んだ野球ファンの交流が復活することを今は切に願うばかりだ。

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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