Yahoo!ニュース

韓国でメディアの評価が分かれた文大統領の「対日発言」 「親文」と「反文」では真逆の評価

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「光復節」の記念式典で慶祝辞を述べる文在寅大統領(青瓦台提供)

 昨日(15日)の文在寅大統領の「光復節」(解放記念日)での演説は任期最後の「光復節演説」だっただけに何かと注目されていたが、あっと驚くような画期的な提案もなく、一言で言えば、期待外れだった。

 大方の予想が空振りに終わった理由は、注目されていた日本との関係で関係悪化の原因となった元慰安婦や元徴用工問題の打開策を打ち出さず、また北朝鮮との関係でもネックとなっている米韓合同軍事演習について一言も触れず、どれもこれも抽象的な表現に留めたからである。

 北朝鮮との関係はさておき、日本に関する発言について韓国のメディアは一体、どう受け止め、評価したのか、各紙の社説、それも「親文」紙と「反文」紙を色分けしてその内容をみてみる。

 まず取り上げるのは政府寄りとみられている「ハンギョレ」「京郷新聞」「ソウル新聞」の3紙である。

 「ハンギョレ」(「『対話の門』強調した文大統領 『加害責任』無視した菅総理」)

 「文大統領の任期中最後となる光復節の祝辞には日本に向けた新たな提案はなかったが、対話を通じた関係改善のメッセージは明らかに込められていた。(中略)文大統領が日本に新たな提案をしなかったのは強制動員や日本軍『慰安婦』被害の問題、輸出規制などを巡る複雑に絡んだ韓日関係の膠着状態を任期中に解決することは事実上難しいと判断したものによるようだ。(中略)菅義偉総理は終戦76年全国戦没者追悼式で、安倍晋三前総理と同様に日本の責任については全く言及しなかった。広島と長崎への原爆投下など日本の被害事実のみを強調し、朝鮮半島の植民地支配や周辺国への侵略など加害の歴史については歴代総理が言及してきた『深い反省』や『哀悼の意』が完全に消えた。(中略)米中葛藤など国際秩序が急変している状況での韓国と日本の協力はいつにもまして切実である。しかし、日本の政治指導者らが引き続き反省を拒否し、退行的な態度に固執するならば日本はこれ以上、未来志向的な韓日関係を語る資格はない」

 「京郷新聞」(「北に『共存』、日本に『対話』を言及した文大統領の光復節慶祝辞」)

 「大統領は韓日関係との関連で過去史(元慰安婦や元徴用工問題)を『ツートラック』でアプローチするとの立場を再確認しながら『両国は分業と協力で経済成長を成し遂げた』と関係改善の必要性に言及していた。強制徴用や慰安婦被害者問題など先鋭な懸案については具体的に言及せず、対話の扉を開いていると言った点が注目される。就任後5度の光復節慶祝辞の中で最も融和的だった。しかし、日本はこの日もÅ級戦犯が合祀されている靖国神社に菅総理が玉串料を納め、閣僚らも靖国神社を参拝するなど納得できない挙動を見せた。手を合わせてこそ音は出る。日本に省察と反省を再度求める」

 「ソウル新聞」(「北と日本 文大統領の『対話の門』への応答を期待する」)

 「文大統領は関心を集めていた対日問題について具体的に新たな提案を示さなかったが、対話の意志を再三明らかにしていた。(中略)これまでの光復節慶祝辞に比べればこの日の演説は対話の可能性にウェイトを置いた融和的なメッセージを発進したことになる。(中略)韓国と日本は先月の東京五輪開幕直前まで文大統領の開幕式出席と首脳会談の開催を論議したが、合意に至らず、駐韓日本大使館総括公使の妄言波紋も加わって両国の関係は悪化した。五輪を契機とした反転外交は無為に終わったが、韓日両政府は関係改善に向けた対話の努力を止めてはならない。両首脳が早期に不信と誤解を解き、前向きな姿勢で対話のテーブルに着くことを望む」

 論調はほとんど同じである。文大統領は関係改善のため最善を尽くしているのに実らないのは、日本側に責任があるという点で一致していた。

 では、文政権に批判的な保守紙は何をどう書いているのか? 「中央日報」と「東亜日報」それに「朝鮮日報」の3大保守紙の社説を取り上げてみる。

 「中央日報」(「対決の代わりに協力を強調した8.15慶祝辞」)

 「文大統領は最近まで協力よりも対決的な姿勢を取ってきた。大統領就任の年の2017年の光復節慶祝辞では『韓日関係の足枷は日本政府の歴史認識にある』と述べた。強制徴用判決と日本の輸出規制報復で韓日関係が激化した2019年の光復節では『二度と日本には負けない』と述べ、韓日軍事情報保護協定(GSOMIA)破棄のカードを取り出していた。文大統領の対日認識は過去史問題を軸に日本を強く追い込むことだった。しかし、過去4年間の強硬一辺倒の対日政策の成果は皆無と言っても過言ではない。過去史問題に関する日本の態度変化を圧迫したが、得たものはゼロだった。返ってきたのは、首脳会談すらできない冷却化した関係悪化だけだ。両国国民の相互認識も極度に悪化した。結果を見れば、過去4年間の対日政策は目標に定めた成果を手にできない失敗作であった。文大統領の8.15慶祝辞が単なる外交修辞でなく、過去4年間の経験への厳しい評価を受け入れたものであるならば、後は実践と行動で示すことだ」

 「東亜日報」(「文は空虚な解決法、菅は後ずさり・・・関係改善の手を下したのか」)

 「文在寅大統領は昨日、光復76周年慶祝辞で日本軍慰安婦や強制徴用問題の言及もなく、『歴史問題は国際社会の不変的な価値と基準に合った行動と実践で解決する』と語っていた。日本に向けては『対話の門は常に開いている』と述べていた。菅総理は全国戦没者追悼式で侵略責任には触れず、昨年安倍前総理が主張していた『積極的な平和主義』を繰り返していた。両国首脳の今年の8月15日のメッセージは全く改善の糸口を見い出せないでいる両国関係の現住所を叙述に表している。文大統領には韓日関係改善のための具体的な構想も提案もなく、菅総理にはむしろ退行的右傾化の色濃く漂う。(中略)文大統領には今回が任期最後の光復節慶祝辞だけに修交以来最悪の韓日関係の転換点となる提案を期待していた。2017年の就任以来、日本に対して過去史反省を促す強硬な主張をしていた文大統領だったが、昨年からはそのトーンを落とし、対話を通じた関係回復にウェイトを置いていた。今回も文大統領は日本に融和のメッセージを発進したが、具体性のない基本的な主張は虚しく聞こえだけだ」

 「朝鮮日報」の社説(「『大韓民国は反民族親日』と扱き下ろした金元雄を幇助 文も同じ考えか)は文大統領の演説ではなく、光復節記念式で金元雄光復会会長が李承晩政権、朴正煕政権、全斗煥政権、朴槿恵政権を「親日的」又は「反民族的」政権と規定し、「国民は親日に根差したこれら歴代政権を倒してきた」と述べたことを問題視し、文大統領の対日姿勢を次のように批判していた。

 「この政権は過去4年間、反日を叫んできた。ところが、今回の光復節で文大統領は『韓日間の対話の門は開いている』と未来、協力を強調していた。そのような大統領が大韓民国の正当性を否定する金氏の反日発言を黙認している。文大統領の真心はどこにあるのか」

(参考資料:「史上最悪」の日韓関係修復のためのソウル大日本研究所の韓国政府への「10の提言」)

 日韓関係の悪化は文大統領のこれまでの対日姿勢に原因があると言う点で3紙は共通しており、文大統領が今回、日本に対話を呼びかけても両国の関係改善は文政権下では今後も期待できないと暗に指摘しているようでもある。

(参考資料:元徴用工問題は解決できるのか? 不変不動の文在寅大統領の「対日発言」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事