経常収支、赤字定着か=日本衰亡の兆候? 「悪い円安」助長も
これまで黒字基調だった日本の経常収支が赤字に転落。当面、赤字が定着する可能性が高まってきた。経常収支は、海外とのモノやサービスの取引、投資などの収益状況を示す。これが赤字になるのは、「日本が世界を相手に稼げない衰亡国になった兆候」(大手邦銀アナリスト)とみなされ、為替市場で「悪い円安」が助長される可能性がある。
これまでは世界を相手に「お金を稼げる」状態を維持
経常収支は昨年12月、3708億円の赤字となった。2020年6月以来、1年半ぶりの赤字転落で、今年1月に赤字幅は約1兆2千億円へと大幅に拡大した。脱コロナに伴う欧米の需要増大で原油が高騰。円安も影響して輸入金額が急増し、貿易赤字が増えたことが主因だ。原油はウクライナ危機で一段高となり、当面、経常収支の赤字拡大かつ定着する公算が大きい。
過去、日本の経常収支は赤字に転落しても、あくまで単月程度の短い期間だった。1996年以降、半期ベースで均してみると(下図参照)、原油高・円安が重なって貿易赤字が膨らんだ2010年代前半を除くと10兆円前後の黒字を維持。世界を相手に「お金を稼げる」状態を維持してきた。ところが、今年は半期、あるいは暦年で赤字となる恐れもある。
原油高・円安で経常収支は半期・暦年で赤字に
前述のウクライナ危機の余波で原油高が続き(下図参照)、為替も円安基調で貿易赤字が拡大しそうなためだ。経常収支の内訳推移をみると、「第一次所得収支」が経常黒字の大半を占める。これは海外子会社からの配当、証券投資の利子収入などだ。貿易赤字の拡大が続くと、第一次所得で稼いだ黒字が食いつぶされ、半期、そして暦年で経常収支は赤字となりかねない。
日本の経常収支が半期、暦年で赤字になることが、外為市場に与える影響は無視できない。日本は不思議なことに、震災で為替が円高に振れる特徴がある。経済が打撃を受けるのに通貨高になるのは、対外債権を潤沢に持つからだ。経済再建で資金が必要なら海外に持つ有価証券を売ればいい、外貨売り・円買いのフローが起きる、だから円高になる、という解釈だ。
あくまで外為市場の「解釈」に過ぎず、実際に大震災で対外債権を売るフローは生じなかったが、為替は「解釈」で動きやすい。要は、日本には稼ぐ力があり、対外債権をたくさん持つ「豊かな国」とのイメージが円買いの背景だ。しかし、経常赤字になると「日本は稼げない国」、「貧しい国になる」など悪い印象が強まり、円売りが誘われやすくなる。
このままでは国民生活が苦しくなる悪循環も
問題は、かつて輸出を増やして貿易黒字に貢献した円安が、近年は大半の国民には生計費圧迫の「悪い円安」になったことだ。経常収支の内訳推移を再度見て欲しいが、2011年から円安になっても特に貿易黒字が顕著に増えるわけではない。むしろ、円安は輸入価格を押し上げ、食料品や電気代、ガソリンなどの値上げを招く。
景気が良くて国民の給料が増えていれば、円安による生計費上昇は負担にならない。残念ながらコロナ禍の下で経済活動はなお抑制され、給料が上がる向きは少ないだろう。経常収支の赤字が続き、日本衰亡論から円安が助長されると、国民生活が苦しくなる悪循環が生じかねない。かつてはデフレ圧力として嫌われた円高だが、今はむしろ円高になった方が好ましいかもしれない。