【田代英治×倉重公太朗】「プロサラリーマン」最終回(これからの社会を生きていくために大切なこと)
倉重: あとは若い人に向けてという最後のテーマに移っていきたいと思いますけれども、やっぱり非常に時代の在り方というのは変わっているし、働き方も多様化しているという象徴として、今日は田代先生にお越しいただいているわけですけれども。逆に今の学生さんであったりとか、入社して間もない人、あるいは最初の配属で、なぜか人事部になっちゃって何なんだ、俺と思っている人もいると思うんで、そういう人にちょっと向けたメッセージなんていうのをお願いしたいんですけれども。
田代:若い人に言いたいこととしては、やはり、これは私がSHRM(アメリカの人材マネジメント協会)2014年の年次大会の基調講演で聞いた話なんですけれども、これからの人材は、IQ(知的能力)よりもEQ(エモーショナルな、感情能力)のほうが大事になっていく。それから、さらに進んで、EQだけではなくてPQとCQというのが大事なんだということです。
倉重:PQとCQは何ですか。
田代:PQとCQというのは、PQというのはpassionという情熱、Cはcuriosityという好奇心です。情熱と好奇心を持った若い人が、これから世の中で活躍していくだろうと。
というのは、IQが高い人というのは、もう今はテクノロジーが進化していって、知識的なものというのは、何でも検索したら出てきますよね。そういうのは、もう機械が教えてくれるわけだから、人間がやるべきことというのは、やっぱり情熱を持って、好奇心を持って、世の中を動かしていく人、こういう人がこれからは必要なんだというふうに言っていました。まさに、今後の人財の在り方として、もうそのものずばりだなというふうに感じました。
ですから、これからの若い人に対しては、いろいろな物事に関心を持って、情熱を持って突き進んでいくというのが、まず大事じゃないかなと思います。
倉重:もし学生時代、あるいは入社してすぐに、そういった情熱と好奇心を持って、この
仕事は面白いなというふうに巡り合えた人というのは、これはすごくラッキーですね。
田代:はい。
倉重:ただ一方で、そういう人は多分、少ないんじゃないかと思っていて、やりたいことが分かりません、見つからない、あるいは、何をしたいのか分からない、こういう方も結構いると思うんですけれども、そういう人に対してはどうですか。
田代:私もそうでしたけれども、最初からこの仕事をやりたいというふうには、なかなか思えないケースも多いと思うんですが、そこで腐らずにとにかくやってみると、与えられた仕事、自分の仕事を、興味を持てないかもしれないかもしれないけれども、とにかくやってみて、その中で、工夫をしながら改善を試みる。そんな中で、面白みが出てくることもあると思うので、最初自分が希望していない仕事であっても、取りあえず1年ぐらいはやってみて、そこで何かを得てもらって、進んでいただければと思います。
そこに行き着く前にギブアップ、つまり、もう諦めて、やる気を失ったりとか、転職してしまったりとか、それはあまりにももったいないので、そこそこ成果が出るまでやってみたらどうかなとは思います。
仕事は、ただ言われたことを右から左にやるんだと全然面白くないので、自分なりに何か工夫をして付加価値を付けてやる。単純作業でも、考え方次第ではそうじゃないこともできると思うので、そこは諦めずにやってみてはどうかなと思っています。
私自身も、営業とか人事とかに、全然向いているとは思っていなかったです。配属されて1年ぐらいでもう辞めようかなぐらいなことも、結構ありましたけれども、もう少し辛抱してやっていると、また違うステージに上がれる。辛抱というのは、ずっと我慢して何も新しいことをやらないというわけじゃなくて、いろいろチャレンジしながらその部署で働くということです。その中で見つかることもあると多々あると思います。
倉重:やっぱり人事に最初に配属になったとき、田代さん自身も「お先真っ暗」というふうに思ったのに、今はもうずっと人事の世界を生業としているということで、やっぱり最初になんか「嫌だな」とか、「なんでこんなこと」とか思ったものが、実は天職の場合もあるわけですよね。
田代:あります。
倉重:まず、それはある程度のところまでやってみないと分かんないですね。
田代:そうです。ある程度までやって、そこまで本当にやったのかと、それはありますね。
倉重:あとはやっぱり、当然、今のこの不確実な世の中ですから、何がしたいと言っても本当にやってみないとその仕事に向いているかどうかも分かんなくて当たり前ですよね。
田代:分かりません。それは。
倉重:そうすると、まず何個か、今目の前にある仕事を一生懸命やってみろよと。
田代:そうですね。
倉重:それで、どこにグッとくるかを判断したらいいじゃないかということですよね。
田代:そうです。だから、いろいろやりたいこととか、イメージとしては、イメージとしては、持っているのかもしれないけれども、そのイメージどおりかどうかも分からないし、何事もまずはもうやってみるしかないですね。
倉重:あとは、愛され、信頼される人間になれとおっしゃっていますけれども。
田代:そうですね。仕事をするうえで信頼が一番大事だと思うんです。で、人から愛されるということですかね。それは、新入社員の頃に先輩からよく言われていました。
じゃあ、どうやったら愛されるんですかということなんですけれども、当たり前のことを当たり前にやることだと思っていて、例えば、朝は早く来るとか、遅刻をせずにちゃんと来るとか、もう本当に自分から大きな声であいさつをするとか。
倉重:もうあいさつからですね。
田代:あいさつから。で、約束はちゃんと守るとか、本当にもうどれも当たり前の話なんですけれども、そういうことをちゃんとやっていると、やはりあいつは信頼できるなと評価されていくと思います。
それから、人が嫌がること、人が嫌がる仕事もやるとかね。
倉重:やっぱりこれは外資系の人事部長の方も言っていましたけれども、魔法の言葉、「それ、やっときましょうか」が重要ですと。どこの会社でも「誰がやるのかよく分からない仕事」みたいなのがたくさんあるので、「それ、やっときましょうか」というふうに周りの人に言い続けてやっていると、かなり社内での信頼を得られますねと言っていました。
田代:そうです、そういう感じですね。それは非常に共感します。仕事だけじゃなく、例えば飲み会の幹事とか、何でもいいと思うんです。
倉重:そういう細かいことからでいいんです。それを積み重ねながら信頼を得ていくということですね。
田代:そうですね。だから、人が動くのを待って、若いのになんか任せっきりにしていて、後ろから付いてくるみたいなのは、やっぱり良くないと思うんですよね。そういう人が時々いますけれども。
倉重:信頼されるわけがないだろうと。
田代:はい。汗をかくということですね。
倉重:あとはもう一つ、人間関係構築力が大事だと、おっしゃっていますけれども。
田代:そうですね。これは独立するときにも思いましたけれども。ただ、単にスキルがあるだけだと、それは必要条件ではありますけれども、十分条件じゃなくて、それプラス、やはり人間関係をどう築き上げていくかという力も重要です。そちらのほうがむしろ大事で、ただスキルがあるだけだったら、もうそれはただ勉強ができる人というぐらいのことでしかないと思います。やっぱり人間関係をどう組み立てていって、人との関係性をうまくつくっていって、人と一緒に仕事をするというんですか、コラボレーション力がないと、今後はますます一人の力では仕事ができない時代になっていくので、駄目じゃないですかね。
倉重:そう。要はコミュニケーション力ですよね。
田代:はい、コミュニケーション力ですね。
倉重:それはどうやって鍛えたらいいんですか?若い人では「コミュ力がない」などといって悩んでいる人もいます。
田代:それは場数を踏むということじゃないですか。いろいろな人と会って、さっきの話にまた戻りますけれども、アウェーの人たちと接するということです。そうすると、いろいろな人がいるんで、そこでいろいろな会話をして、その話すだけじゃなくて、聞くということが大事だと思っていいます。相手が言っていることをよく聞いて、理解を示す、共感するというのは大事だと思っています。
倉重:それでまさに、私はいつもお勧めしているんですけれども、トーストマスターズクラブというNPOがあって、スピーチとかリーダーシップを学ぶところなんですけれども、スピーチの練習をするだけじゃなくて、人のスピーチを聞いて、それを講評してあげるという、評価してあげるという役割もあるので、それをどちらもやらなきゃいけないんですよ。
なので、そういうのをやると、まさにコミュニケーション、相手の話を聞いて、どうフィードバックするのかという技術も学べるんで、これはもし第3、サード・プレイス的にどこに行ったらいいか分かんない人というのは全国にありますから、トーストマスターズクラブで検索して、私は行ったらいいんじゃないかなと思っています。
田代:いいですね。
倉重:私も2年間ぐらいやっていたんです。
田代:そうですね。非常に大事ですよね。発信力も大事ですよね。伝えたからいいだろうじゃなくて、ちゃんと伝わることが大事なんで、一方的に伝えるんじゃなくて相手にちゃんと響くようなメッセージを発信することです。
倉重:それはやっぱり聞いてみないと分かんないですよね。
田代:そうですね。
倉重:仕事でそういう訓練を積めりゃいいんだけれども、なかなかそういう機会はないよ、そんなにコミュニケーションなんて多くない仕事ですという方もいらっしゃるので、トーストマスターズは1カ月1,000円でそういうのができますから。
田代:1,000円ですか、それは安いですね。
倉重:NPOだから安いです。
ということでそろそろお時間になりましたけれども、最後に今日のまとめということで、言いたいことをおっしゃっていただければと思います。
田代:そうですね。この私の今の働き方というのは、おまえだからできたんじゃないか。おまえの前職の会社だからできたんじゃないかという、あまり再現性がないという指摘を受けたりするんですけれども、「本当にそうなんだろうか?」と思います。最初から無理だとか、働くほうも、会社のほうも、思っているところがあるんじゃないかなと。
もう一度、原点に立ち戻って考えてみると、メリットも結構あるわけで、辞めた人間を業務委託としてその社外人事部長として抱えるというメリットは結構ある。今までお話ししてきたとおり、そういうところもあるわけなので、もうちょっと柔軟に考えてもらって業務委託という選択肢が広がっていって、会社も個人もハッピーになるような事例が一つでも増えたらすごくいいなというふうに思っています。どんどん機会があれば、発信していきたいなというふうには思っています。
倉重:確かに田代さんの場合は、他に続く人がなかなかいないんじゃないかと、そういうご指摘があるかもしれないけれども、ただそれは、田代さんが20年早かったと思うんです。時代がようやく今、追い付いてきたんだという話だと思いますんで、多分これから増えてくるんじゃないのかなと考えています。
田代:そうですね。特に大企業のケース、重厚長大型の会社の人たちも、どんどん続いてほしいです。ITベンチャーのような会社だったら、結構あるかもしれないけれども。
倉重:新しい会社ではあるかもしれないですね。
田代:はい、あるかもしれないけれども、古い会社で古い考えのところだと、なかなかないかもしれないので。
倉重:やっぱり「0か100か」じゃなくて、別に「100パーセントコミットしない社員は許さん」じゃなく、もう20ずつぐらい、いろいろな会社にコミットするという働き方があってもいいじゃないかということですね。
田代:そうです。まさに今は副業の時代ですから、副業は、私は複数の複のほうがいいなと思っていて。
倉重:やっぱりサブとかメインとかじゃないですよね。
田代:はい。そういう業務もいろいろな意味があるじゃないですか。だから、「副業は何ですか」と聞かれたときに、例えば、ネットオークションは副業なんですか。株のデイトレーダーはどうなのかとか。ITが進化し、ますます境目がない時代にあって雇用がどうだとか、雇用契約がどうだとか、退職したらけしからんとか、そういう話じゃないと思います。ぜひ私の事例も参考にしていただいて、新たな事例がどんどん増えていくとうれしいなと思います。
倉重:会社にとっても、労働者一人一人にとっても、そういった考え方、多様な選択肢があるということが大事だということですかね。
田代:はい。
倉重:ということで、今日はこれぐらいにしたいと思います。どうもありがとうございました。
田代:どうもありがとうございました。