【ACLプレビュー】3日に準決勝で鹿島と対戦! 韓国・スーウォン「どんなに苦しくとも、日本には勝つ」
週末のリーグ戦も終え、次は10月3日(水曜日)のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)モードへ。Jリーグから唯一勝ち進む鹿島アントラーズがホームゲームを戦う。
アジアチャンピオンズリーグ2018 ノックアウトステージ ラウンド4
鹿島アントラーズ(前年Jリーグ2位) vs. スーウォン・サムスン・ブルーウィングス(同Kリーグ3位) @カシマスタジアム 19:00キックオフ
ぜひとも、日本から唯一準決勝(東アジアブロックの”決勝”)に進出する鹿島アントラーズにリスペクトとご注目を。
相手は韓国のスーウォン・サムスン。韓国勢として大会通算12回目の優勝を狙う(日本勢は過去6回優勝)。試合に先立ち、対戦チームの情報から試合のポイントを探る。あちらのストーリーもかなり強烈だ。
「国内最強」のチョンブクに劇的勝利で鹿島戦へ
現在、Kリーグ4位のスーウォン。今週末の試合では3位のウルサンとホームで2-2のドローに終わった。一時は0-2とリードされたが、終盤のゴールで辛くも追いついた。リーグ戦直近5試合の結果は4分1敗だ。
キャプテンのMFヨム・ギフンは試合後、地元メディアにこう語った。
「どんなに苦しくとも、日本には勝つ」
今年のACLではグループリーグでも対戦した鹿島とスーウォン。その時との一番大きな違いは攻撃的MFサリッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)の存在だ。7月にチームに加入。現役代表選手は直近の国際Aマッチ(ヨーロッパネーションズリーグ)でゴールを決めた。3-4-2-1の守備ラインはややミスが目立つものの、攻撃はFWダミヤノビッチ(元モンテネグロ代表)にめがけクロスを上げる攻撃はダイナミック。2列めのレフティーのMFヨム・ギフンはほとんどカットインせず、外から前線に合わせるスタイルだ。
そんなチームがリーグ戦で苦しむ背景には、ACLでの戦いの影響が少なからずあるだろう。
8月29日と9月19日に国内で「一強」とされるチョンブク・ヒョンデと同国対決。準決勝に駒を進めた。その戦いぶりは「激闘」に相応しいものだった。
第1ラウンドをアウェーで3-0の完勝で終えた。終盤の75分、82分にベテランの長身FWダミヤノビッチが決めた。さらにアディショナルタイムの途中交代のFWハン・ウィゴンがダメ押し。「国内1強」と言われるチョンブク相手に、押されながらも耐え抜き、終盤にゴールを重ねた。してやったりの勝利だった。
迎えた9月19日の第2ラウンド。ここでドラマが待っていた。
なんと、今度はホームで0-3の完敗を喫したのだ。2点先制を許した後、71分に相手の197センチFWキム・シヌクに力技で負け2試合合計で同スコアに。延長線まで戦い抜いたがスコアは動かなかった。
この試合で、終盤から気を吐いたのがGKのシン・ファヨンだった。延長戦突入直前の後半アディッショナルタイムに相手アドリアーノのPKをストップ。大逆転負けの最大のピンチを救った。
さらにPK戦では最初の相手1番手のキックをストップ。さらに3番手がキックをミスし、4-2の大勝利の立役者となった。「GOAL.com 」の韓国版は「彼の劇場だった」と試合を報じた。
相手とすれば「そこまで苦労して同国対戦を勝ち抜いたのに、ここで日本勢に負けるの?」というストーリーがある。
準々決勝チョンブク戦直前の「大事件」
話はこれにとどまらない。8月29日の準々決勝初戦の前、チームを揺るがす大事件が起きた。
ソ・ジョンウォン前監督の辞任。
これはまさに遠征直前に起きた。荷物をまとめ、さあソウル首都圏のスーウォンからアウェーの地へ出発、という段になって、ソ前監督は遠征に同行しない意思を示したのだ。クラブ側は当然、「このゲームまで指揮を」と留意したがソは首を縦には振らなった。
かつてこのチームでプレーした鄭大世(現清水エスパルス)も「本当にお世話になった人」という。選手の兄貴分として慕われた監督だった。シーズン中に3連敗を喫していたものの、直近のゲームで上位のキョンナム相手に勝利。ACLもカップ戦でも勝ち残っていたが、辞任の引き金となったのが「ファンの厳しい非難」だった。連敗中に迎えたキョンナム戦ではコーチングスタッフを揶揄するボードがスタンドで掲げられた。また「朝鮮日報」はSNS上で家族へも及んだ非難、フロントとのコミュニケーション不足を報じた。
96年に設立されたスーウォンの伝統の一つが「簡単に監督を替えない」ことだ。22年の歴史でソがわずか4人目の監督だ。まさにクラブ史上に残る大事件と言えた。ソはイ・ビョングン監督代行に最後に作戦を伝え、チームを去ったという。この「劇薬」の効果もあってか、アウェーでKリーグ最強といわれるチョンブクに完勝したのだった。
「日本相手だと気持ちがより強く出る」「鹿島と共通の部分も」
キャプテンのヨム・ギフンは今週末のリーグ戦後、現地メディアに対しこう続けた。
「率直なところ、ソ監督の辞任後は自分が一番苦しかったと思う。後輩たちに口では『それでもやらないと』と言ったものの、自分自身は自らをコントロールしがたかった。それほどに監督を頼る部分が大きかった。今も完ぺきではないが、それでもかなりメンタルは持ち返してきた」
さらに2010年からチームに在籍する古株は、鹿島戦へかける思いを口にしている。
「ACLでの4強は7年ぶり。リーグも重要だし、国内カップ戦も重要だがACLがより切実だ。苦しいけれど、勝たないと。クラブのほうも一日早く日本に出発し、現地で休む日程を組んでくれた」
日本との対戦、という意味での覚悟も強い。
「自信はある。日本のチームが相手だと気持ちがより強く出る。自分だけではなく、チーム全体がそうだ。その気持ちを信じてみたい。自分自身もこの試合に対して特別な思いがある。過去を見ても、日本でのアウェーゲームでの結果がいい。いい印象を抱いて望めば、それが結果につながる。負けて帰ってくるとは考えず、勝って帰ると考えて韓国を経とうと思う」
ただし、3日の試合は簡単ではないだろうとも想像する。
「鹿島の選手たちも同じように勝つことを考えている。相手もリーグ、国内カップ戦、ACLを並行して戦う。対戦しがいのある相手だと思う」
スーウォンは1996年にSAMSUNGのチームとしてリーグ加盟した新進クラブ(設立は前年12月)。それでもすでにリーグ優勝4回、ACL優勝2回の歴史を有する。筆者が05年に取材した際にはフロント関係者が「母体企業の社是『品質第一主義』を基にクラブも成長した」と言い切っていた。SAMSUNGの豊富な資金力をバックに質のいい選手を獲得。リーグ加盟3年目の98年に早くも国内リーグ1部を制した。2000年代、一時クラブは広告代理店の仕掛けもあり、1試合あたりの観客動員が4万人を超えたこともあった。
しかし近年は、チーム名に「SAMSUNG」の名は残るものの、経営母体がグループ内の大手広告代理店「第一(チェイル)企画」へと移った。かつてのような豊富な資金で選手を獲得する姿は影をひそめ、下部組織から有能な選手を育てる方針へと変わった。現エースのダミヤノビッチももともとは国内最大のライバルのFCソウルの象徴だった選手。昨季限りで契約切れしたタイミングで獲得し、大きな論争を呼んだ。
クラブの転換期に手にした、ACLベスト4進出。この機会は逃せない。相手はかなりの思いで鹿島にぶつかってくる。3日の対戦では、激しい戦いが繰り広げられそうだ。両チームは3日の対戦の後、24日にスーウォンでも対戦し、2戦合計の結果で決勝進出を争う。