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長野からパリパラ選考への思い温める。日本パラ水泳、国内最後の公式レース

佐々木延江国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表
200m個人メドレーでの由井真緒里(上武大学) 写真提供:日本パラ水泳連盟

 11月12日〜13日、第39回日本パラ水泳選手権大会(WPS公認)が長野運動公園総合運動場総合市民プール、通称 「アクアウィング」で開催。地区大会、通信記録会で標準記録をクリアした障害(身体、知的、聴覚)のある346名がエントリー。5つの日本記録が更新、2022年度優秀選手が表彰された。

2022年度優秀選手の表彰が1日目に行われた。今年度は世界選手権優勝者、アジア記録樹立者、通信記録会優秀選手、ブロック対抗リレー優勝チームに贈られた 写真提供・日本パラ水泳連盟
2022年度優秀選手の表彰が1日目に行われた。今年度は世界選手権優勝者、アジア記録樹立者、通信記録会優秀選手、ブロック対抗リレー優勝チームに贈られた 写真提供・日本パラ水泳連盟

 昨年の東京パラリンピック後も新型コロナウイルス感染症の影響が残るこの1年は大会数が少なかったなかで、若手選手たちが8月のマデイラ(ポルトガル)での世界選手権、強化合宿、9月のジャパンパラリンピックと継続した成長を見せた。

 今大会では由井真緒里(上武大学)が2つの日本記録を更新するなど、5つの日本記録が樹立された。

由井真緒里が成田真由美の日本記録を更新

 由井は、200m個人メドレー(S5)、200m自由形(S5)で2つの日本記録を更新。2日目の200m自由形では先輩の成田真由美の記録を塗り替えることになった。試合の前後や遠征のみならずプライベートでも成田と交わすやりとりに育まれた由井にとって「母を超える」一歩となった。

南井瑛翔が50mバタフライでアジア記録樹立

50mバタフライ(S10)でアジア記録を更新した南井瑛翔(近畿大学) 写真・日本パラ水泳連盟
50mバタフライ(S10)でアジア記録を更新した南井瑛翔(近畿大学) 写真・日本パラ水泳連盟

 由井と同じく8月に世界選手権に出場、9月のジャパンパラでも好調の南井瑛翔(近畿大学)は、今大会50mバタフライ(S10)でアジア記録、大会記録を更新した。

 アジア記録はすでに今年7月の非公認大会で突破していたため「自己ベストではなかったが、良いタイムでアジア記録を更新できた」と振り返った。

高いレベルで競うS8、窪田・荻原の対決のゆくえは

 S8クラスで競い合う荻原虎太郎(セントラルスポーツ)と窪田幸太(NTTファイナンス)は、100m背泳ぎの新たな泳法での新記録はなかったが、荻原が公式戦初の200m自由形(S8)で日本新記録を樹立した。

200m自由形(S8)で日本記録を更新した荻原虎太郎(セントラルスポーツ) 写真提供・日本パラ水泳連盟
200m自由形(S8)で日本記録を更新した荻原虎太郎(セントラルスポーツ) 写真提供・日本パラ水泳連盟

窪田幸太(NTTファイナンス)の100m背泳ぎ(S8)  写真・日本パラ水泳連盟
窪田幸太(NTTファイナンス)の100m背泳ぎ(S8)  写真・日本パラ水泳連盟

木村敬一と富田宇宙の全盲100mバタフライ対決

 東京パラで日本に多くのパラスポーツ・ファンをもたらした全盲のライバル対決、100mバタフライ(S11)は、東京パラ以来の競り合いが見られた。

今回は富田宇宙(EYジャパン)が木村敬一(東京ガス)を制し優勝した。

100mバタフライ(S11)で木村敬一を制して優勝した富田宇宙(EY ジャパン) 写真・日本パラ水泳連盟
100mバタフライ(S11)で木村敬一を制して優勝した富田宇宙(EY ジャパン) 写真・日本パラ水泳連盟

100mバタフライ(S11)での木村敬一(東京ガス) 写真・日本パラ水泳連盟
100mバタフライ(S11)での木村敬一(東京ガス) 写真・日本パラ水泳連盟

 富田は「前半はこれまでのベストラップでした。(後半への)ターンのあとロスして浮き上がりのスピードののりがいまいちだった。練習が必要な課題です」と前半ではストローク数が減った一方、後半は増えてしまったという泳ぎを振り返った。

 今大会が国内では最後の公式レースで、国外では12月、強化指定選手のうち12名がクイーンズランド選手権(オーストラリア)に参加する予定で日本代表としての強化が続く。

 つぎの大きな節目は毎年日本代表を決めるため3月に開催される静岡での選考会である。来年は世界選手権(マンチェスター)とアジアパラ競技大会(杭州)が予定されパリにつながる選考が始まる。

「個人練習と合宿での全体練習の両方で力をつけていくことが重要」と強化について語る上垣匠監督 写真提供・日本パラ水泳連盟
「個人練習と合宿での全体練習の両方で力をつけていくことが重要」と強化について語る上垣匠監督 写真提供・日本パラ水泳連盟

 上垣匠日本代表監督は「東京パラリンピックまではマンツーマンの練習を重視してきましたが、いまは合宿での集団トレーニングが大事で偏らないことを重視している」と話していた。これからパリパラリンピックへの派遣標準記録が発表され、強化方針も検討されようとしている。

高橋オリバー氏の挑戦 〜ビジネス目線とアスリート目線、両面から〜

 今大会では、S11(=全盲)クラスに新たな挑戦者が現れた。高橋オリバー(東京都・個人)である。高橋は、国際サッカー連盟(FIFA)からスポーツビジネスのキャリアをスタート。ナイキ、コカ・コーラなどスポーツマーケティング分野の達人である。

 2019年に交通事故で突然失明、現在スポーツコンサルタントとして自身を再構築しようとしている。

 1年前、パラスポーツ・アスリートを理解したいと、4歳から始めた水泳に30年のブランクを経て復帰、マスターズ出場を含め今大会で3レースの出場となった。

11月13日、50m自由形(S11)のスタート前の高橋オリバー(東京都) 写真提供・日本パラ水泳連盟
11月13日、50m自由形(S11)のスタート前の高橋オリバー(東京都) 写真提供・日本パラ水泳連盟

「試合なれせず緊張した状況の中で泳いだ。自分もパラリンピックを目指し(これまでのキャリアに)アスリートとしての目線も加わると、パラスポーツの環境を変えるための方向性が見えてくると思います。環境を理解したいと思っているところです」と現在の思いを語ってくれた。

 アスリートとして、ビジネスマンとしての高橋氏の挑戦に注目したい。

(写真提供・日本パラ水泳連盟)

国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表

パラスポーツを伝えるファンのメディア「パラフォト」(国際障害者スポーツ写真連絡協議会)代表。2000年シドニー大会から夏・冬のパラリンピックをNPOメディアのチームで取材。パラアスリートの感性や現地観戦・交流によるインスピレーションでパラスポーツの街づくりが進むことを願っている。

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