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日本国籍取得のライアン・ロシター「今はブレックスのことだけにフォーカスしている」

青木崇Basketball Writer
オールラウンドな能力を持つビッグマンとして活躍を続けているロシター(写真:田村翔/アフロスポーツ)

「すごく光栄に思っているし、大きな意味がある。日本に来てから7年が経過した。多くの友人ができたし、ブレックスは家族のようなものだ。ここでの生活をエンジョイしているし、これからも楽しみにしている」

 これは、12月6日の官報で日本国籍取得が明らかになったライアン・ロシターが、7日の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦で32点、16リバウンドを記録し、逆転勝利の原動力となった後に残した帰化に関する最初のコメントだ。続けてどのタイミングで? と問われると、「考え出したのは恐らく昨年だったかな。ここで過ごす時間は常に楽しんできた。言語をすごく勉強してきたわけじゃなかったし、トシ(加藤敏章マネジャー)の通訳なしに話せるということでもなかった。でも、真剣に帰化を考え出してからは、毎日カタカナと漢字を書き、話す練習もしてきた。少しずつ現実味を増し、幸運にも国籍を取得することができた」と話した。

 その後も続いた帰化に関連した質問に対し、ロシターは次のように語っている。

選手としてのキャリアだけでなく、日本は人生を楽しめる場所

●帰化しようと思ったきっかけ

「さっきも言ったけど、ここで1年の大半を過ごしているし、ブレックスと日本の文化をエンジョイしている。オフの日や遠征時に練習がオプションになった時、自分は年齢を重ねてきたこともあって休むようにしている。そして、東京や北海道といった違った都市にいるときは外出してエンジョイすることができている。人生を楽しもうとしているし、そのためにハードワークをしてきた。バスケットボール選手として生計を立てるうえでよくないと思える仕事、日本よりも悪い場所だってある。日本の人たちはとてもナイスで、私もエンジョイできているから、いい決断だよ」

●家族の反応

「みんなが支持してくれたよ。知っていると思うけど、兄(スティーブ:ゴールデンステイト・ウォリアーズのスーパースター、ステフィン・カリーはデイビッドソン大学のチームメイト)とはとても仲がいい。昨年来日したけど、日本がいかに素晴らしいところか、ブレックスのファン、文化といったことなどにすごく感動していた。彼はまた来日する予定だから、日本についてもっといろいろ案内するのを楽しみにしている。両親もハッピーな思いをしているから、いい経験でしかない」

●帰化してまだ1日、日本人になったと思えた瞬間は?

「前半のパフォーマンスが悪かったから、国籍取得で自分のパフォーマンスは日本に奪われてしまったのかと思ってしまった。日本人としての初日、後半でカムバックできて勝てたことをうれしく思っている」

●チームメイトからどんな声をかけられたのか?

「喜んでくれた。昨日の練習前にわかったんだけど、みんなエキサイトしていたね。彼らはバスの中で映画鑑賞している間に自分が勉強しているのをいつも見ていたし、トレーニングの合間にひらがなや漢字を書いたり、5歳の子が聞くような質問をしていた。だから、みんなが喜んでくれたし、これから何年も一緒にいることになるだろう」

●他のチームの帰化選手とプロセスについての話をしたのか?

「少しだけ。深刻な話はなかった。話の多くはブレックスだったね」

日本代表よりも今はブレックス

●日本代表について

「何もわかっていないし、何も聞いていないのは明白だと言うべきだろう。ただ、アジア予選やワールドカップで彼らがプレーしているのを見ることは楽しかった。彼らのプレースタイルを気に入っているし、自分にフィットすると思える。でも、今はブレックスのことにフォーカスしている。まだまだ長くて厳しいシーズンが残っているし、成し遂げたいゴールがたくさんある。だから、今の自分はブレックスのこと、レベルアップを毎日継続することしか頭にない」

●帰化選手になることで、ランドルフがプレーする機会を得られることについて

「彼は練習で本当にハードワークを続けていると思う。ジェフが故障した際に数試合プレーしたけど、これからはよりベンチ陣を強くすることになるだろう。今日の試合みたいにジェフがちょっとしたケガに見舞われて後半出られないと、自分や(竹内)公輔、ハシ(橋本晃佑)の3人でその出場時間にプレーすることとなるけど、これからはもう一人ビッグマンがいることになるし、ベンチからフレッシュな状態で出てくることができる。日本での60試合は本当に長いから、どのように生かすかを把握するかが大事。(試合で)ダメージを受けることになるから、自分の体をしっかりケアしなければならないし、他の選手を休ませられることにもなるのはプラスだ」

●東京五輪が帰化する理由だったのか?

「さっきも言ったけど、だれとも話をしていない。国籍取得する理由の一つではあったから、そうなればすごく光栄だ。彼らとコートをシェアし、相手として長い間戦った選手たちと友人になれるわけだから、すごく大きな意味を持つことになるし、楽しいこともたくさんあるだろう。でも、今はブレックスのことにフォーカスしている」

●名前に漢字を当てはめることについて

「考えたことはなかった。今の名前、ライアン・フランシス・ロシターのままだ。ツイッターを見て思ったのは、多くのファンが私のミドルネームがフランシスであることを知って驚いている点。多くの人が興味を持ってくれたので、今のままで変えるつもりはない」

代表帰化枠での競争は歓迎のファジーカス

 ロシターが帰化したことによって、ファンやメディアの興味が東京五輪での代表入りに向かうのは自然な流れだろう。しかし、昨年帰化して日本代表のワールドカップ出場権獲得に大きく貢献したニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)の存在を忘れてはならない。ファジーカスはジャパンタイムズの記事の中で、「中国でのワールドカップ出場と五輪の出場権獲得で、自分がすごく大きな役割を果たしたと感じている。だから、(五輪で)プレーしないのは不公平だと思えるし、私がやり遂げた仕事を見ていないようなものだ」とコメントした。とはいえ、五輪代表メンバーに入るための競争は歓迎している。その理由は、ファジーカスがこの競争に勝てるという自信を持っているからだ。

 一方、ロシターが日本代表のことよりも「ブレックスにフォーカスしている」と何度か強調したのは、千葉ジェッツとのセミファイナル第1戦でケガをして不本意な形で昨シーズンを終えた悔しさを糧に、今シーズンこそB1を制覇したいという強い思いを示すもの。少し視点を変えれば、話題だけが先行する事態の回避、Bリーグの盛り上がりに水を差したくないといったことも頭の中にあったという気がしている。これまで数多く取材とその合間に雑談した経験をベースに言わせてもらえば、ロシターにはこのような考えを持てる賢さがあると思えるのだ。

 代表の帰化枠に関しては、2月下旬に行われるFIBAアジアカップ2021の予選に向けた準備開始まで待ったほうが賢明だろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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