銀座から徒歩10分 - 観光拠点として充実する「築地」場外
・観光客目線で歩いてみる
ここ一年ほど、ニュースや新聞で「築地」の名前を聞かない日が無いほどと言っていいだろう。しかし、実際に「築地市場」移転問題に関わっている人たちには失礼であるが、全国のほとんどの人にとっては、「築地」だろうが「豊洲」だろうがあまり関係のないことではないだろうか。
そもそも「築地」とは、どういうところなのだろうか。政治的なことなどは、少し横に置いて、全くの観光客目線で歩いてみよう。
・銀座から徒歩10分
銀座シックスのオープンなどが話題になっている銀座地区。平日、休日に関わらず、多くの買い物客や観光客で溢れている。この銀座から、晴海通りを海側に進むと、新装なった歌舞伎座の前に出る。この辺りには、群馬県や岩手県のアンテナショップが並んでいる。
築地市場は、JR有楽町駅から約1.5キロ、徒歩でも20分、和光のある銀座四丁目の交差点から約10分ほどの距離だ。思いの外、近い。
・曜日に関係なく多くの観光客であふれる
20年ほど前までは、歌舞伎座を越した辺りからは、オフィスや集合住宅が中心で、土日の人通りは少なかった。しかし、今では、曜日に関係なく銀座から人の流れが途絶えることがない。
首都高速を越し、銀座松竹スクエアのビルの辺りから、寿司屋が目立ち始める。さらに進み、築地本願寺のインド風の建物が目に入るようになると、寿司屋だけではなく、海産物店などが並び、買い物客が多くなる。食器や調理道具など、本来は飲食店向けの商品の商店も、最近では一般客向けに店先をおしゃれにしている。
・場内と場外
「築地市場」と一般的に言われているが、プロが売買を行う「場内」と、一般の買い物客が買える「場外」に分かれている。
かつて日本橋にあった魚市場と京橋にあった青物市場を集約移転し、1935年(昭和10年)に開場したのが「場内」。正式名称を東京都中央卸売市場築地市場だ。インターネットで情報が流れるようになった2005年頃から、外国人の観光客が急増。一時はトラブルにも発展したが、ブームに歩調を合わて、「場内」の寿司店など飲食店目当ての観光客が内外から集まるようになった。
一方、「場外」は、銀座寄りに立地し、「場内」の周辺に自然発生的に水産物商などが集積してきたもの。こちらも、当初はやはり飲食店や鮮魚商などプロを相手に仲卸業として商売をしてきた。しかし、昭和時代の終わる1980年代後半から1990年頃になると流通形態が変化し、一般消費者に小売りも行う店が増えてきた。年末の買い物客の混雑を伝えるニュース番組や、グルメ番組で取り上げられるのは、この「場外」が多い。
・外国人観光客に大人気
東京都が行った「平成27年度 国別外国人旅行者行動特性調査」によると、築地を訪問した外国人観光客が全体の16.6%で、半分近くが訪問している「新宿・大久保」「浅草」「銀座」「秋葉原」「渋谷」などに比較すると少ないものの、「池袋」、「六本木・赤坂」などに次ぐ観光地となっている。
築地を実際に訪問した外国人観光客数は調査されていないが、平成27年に東京都を訪れた外国人旅行者は約1,189万人でありその16.6%と単純計算すれば、約200万人が訪れていることになる。実際には、この数字以上のものだと考えられる。銀座から築地に向かって歩けば、その観光客数の多さには驚かされ、そのことを確信するだろう。
・人であふれる「場外」
以前から築地は市場に近いということで、寿司屋など飲食店が並ぶ地域だった。しかし、現在の築地市場場外は、立派な観光地である。路地奥には、寿司店や魚介類の即売、土産物店などが軒を連ねている。古びた店の雰囲気も、観光客には人気の一つだ。
場内は、あくまで卸売市場で日曜、祝日は閉業であるが、場外は土日祝日も営業しているのも便利だ。
・観光拠点として充実する「築地」場外
「場外の店の多くは、観光客需要に依存してきている。」場外で海産物を扱う店主はそう話す。都内の飲食店経営者も、「豊洲は銀座からではバスや地下鉄などに乗らないと行けない。移転しないことを決めている場外で間に合うのであれば、豊洲まで足を延ばすことはなくなるだろう。」と言う。
築地市場から豊洲市場への移転が行われても、一部の業務用の仕入れに対応する仲卸業は築地に残留する。2016年11月にオープンした「築地魚河岸」は、仲卸業を中心とした小売り店約60軒が入店する生鮮市場であり、朝5時から9時までは業務用仕入れに対応、それ以降、午後3時までは一般客に対応する東京都中央区が設置した施設だ。
これに先立つ2014年には、北海道、新潟、静岡、高知、長崎の5漁協と事業者が出店する水産物の産直市場と飲食店が入る施設「築地にっぽん漁港市場」が開店している。
このようにすでに「食のテーマパーク」として、着々と準備が進んできている。「仮に場内が豊洲に移っても、築地ブランドは残るのではないかと考える人も多い」と仲卸業の経営者の一人は言う。大阪の黒門市場や京都の錦市場のように、卸売市場が無くとも、飲食店などの仕入れ業と観光客など一般客向けの販売で「市場」として人気を博している事例もある。
・豊洲市場でも観光拠点化が計画されていた
豊洲市場でも観光地化が計画されていた。商業ゾーン、温泉・ホテルゾーンからなる大型観光施設は「千客万来施設」という名称で、2020年(平成32年)の東京五輪・パラリンピックにおける外国人観光客のおもてなしの拠点にする計画だった。
この施設の運営会社は、当初、すしざんまいチェーンを経営する株式会社喜代村と決まっていた。隣接するお台場地区にある「大江戸温泉物語」と東京都の賃貸契約が2016年3月で切れることを前提で、新たな温泉施設を建設するはずだった。しかし、2021年末まで契約が延長されていることが発覚し、喜代村は運営会社から撤退を決めた。
・暗礁に乗り上げつつある豊洲市場の観光施設
その後、新たな運営会社が万葉倶楽部株式会社に決定した。しかし今度は、豊洲市場の安全性の問題から移転が延期となり、2016年9月には「千客万来施設」 設計の一時中止を東京都が要請する事態となった。
さらに 今月7月に入り、万葉倶楽部株式会社が撤退の意向を東京都に伝え、暗礁に乗り上げることが確実となった。こうした事態に「観光施設は市場整備の条件の一つだ」と地元の江東区は不快感を示し、これを受けて、小池東京都知事は7月14日の定例会見で「観光施設の予定通りの整備を望む」との発言を行った。
しかし、小池知事は、6月20日に「築地は守る、豊洲を活かす」として、5年後をめどに築地市場を「食のテーマパーク」機能を有する新たな拠点として再開発すると表明しており、そうなると築地と豊洲の両方に似通った「観光施設」が出来上がってしまうことになる。
・観光地としての築地
多くの外国人観光客にあふれる築地市場場外は、いまや東京の一大観光拠点になっている。路地奥に並んだ飲食店や海産物店には、英語、中国語、韓国語などの表記も多く、家族連れやカップルなどが、それぞれに寿司や和食などを楽しんでいる。
正直なところ、ランチや定食の価格に「お得感」は感じない。それでも、屋台のような店構えで、3千円近い丼物や5千円近い定食を食べる観光客が多い。
表通りに出た有名寿司店と変わらない強気の価格設定に一緒に行った日本人の知人たちは目を丸くしていた。「ここは観光地価格なのだ。」知人の一人が、納得したように発した言葉が正しいだろう。
この「観光地価格」が玉に瑕ではあるが、高級品が並ぶ銀座の通りから、10分ほど歩けば、種々雑多な日本の魚料理や寿司が食べられるエリアがある。特に外国から来た観光客には楽しめるだろう。歌舞伎座やインド風建築の築地本願寺も同じエリアにある。ぐるりと一回りするのは、外国人だけではなく、日本人の観光客でも楽しいものだ。
・オリ&パラの「食のおもてなし」は築地で?
築地市場と豊洲市場の問題は、まだまだ一波乱も二波乱も起きそうである。小池都知事の「5年をめどに築地に戻る」という発言が、新たな問題を起こしつつある。新たな観光資源をと考える江東区側と、築地という観光拠点を守りたい中央区側の対立も鮮明化するだろう。
こうした中で様々な意見があるだろうが、単純に観光客の視点で見れば、築地市場の位置は非常に便利である。ここまで揉めに揉め、計画も遅れている豊洲市場の「千客万来施設事業」は、根本的に計画変更が求められるだろう。仮に小池知事の発案のように築地市場を再開発し、「食のテーマパーク」的なものを開設するのであれば、類似するものを豊洲市場に設置しても勝負は見えている。豊洲には、築地にないものを目指して欲しいところだ。
銀座に隣接する観光エリア「築地」。出張や東京旅行のついでに、ちょっと足を延ばしてみてはどうだろう。実際に「話題の現場」に行ってみるというのは、これまた「光を観る」で、立派な観光だ。政治云々を横に置いて、「観光客」として見に行ってみると、また違った考えになるかも知れない。