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若手男優の「タバコ・ショック」難聴や咽頭がん高リスク

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 芸能ゴシップは古今東西に共通のネタだが、最近、若手俳優の焼鳥屋デートが報じられ、その際に一人の人気男優がタバコを手にしていたと話題になっている。ネット上では焼鳥屋デートではなく、彼が喫煙者だったことにショックを受けている人も多い。タバコやニコチンは、年齢が若くても難聴や咽頭がんなどのリスクを高めるからだ。

タバコでがんになる

 タバコやアルコールは口や鼻から入って呼吸器や消化器へいたる。喫煙や飲酒が、主な通り道の臓器の病気に関係しているのではないかという研究は古くから行われてきた。

 喫煙や飲酒と咽頭がんの関係について1984〜1985年に米国で行われた症例対照研究(病気にかかったある集団を対象にその原因を観察調査する研究、※1)によれば、喫煙量(2箱以上/1日)と飲酒量(血中アルコール濃度0.08g/dL以上、適正量の2倍以上)が多い人はタバコを吸わない人や飲酒量が適正な人に比べ、咽頭がんのリスクが35倍以上になる可能性があったという。

 同じ症例対照研究では、禁煙するとこのリスクが急激に低下することがわかっている。10年以上の禁煙でほぼタバコを吸わない人と同じ程度にまで低くなるようだ。喫煙と飲酒は相乗効果があることもわかっており、酒の席でタバコを吸うとリスクはかなり高くなる。

肺や聴覚の機能をダウンさせる

 タバコは、年齢が若くても呼吸器などに悪影響を及ぼす。1974〜1989年に米国の10〜18歳の男女について、喫煙と肺機能(努力肺活量、FVC)とその成長度合いを調べた研究(※2)によれば、タバコによって気道が狭められ、肺の機能の発達が遅れることがわかった。

 喫煙により若い世代でも口腔がんを引き起こす危険性が高くなり(※3)、声の質にも影響を与えるようだ。レバノンの男性90人をタバコを吸わない群30人、喫煙群30人、水タバコ喫煙群30人に分け、文章を読んでもらった研究(※4)によれば、喫煙群で声の周波数が低くなっていて、喫煙者は声がよく出ないという訴えをしていたという。

 タバコを吸うと聴力にも影響が出る。日本の国立国際医療研究センターや協力企業などの研究者が、20〜64歳の男女勤労者5万195人を対象にして喫煙状況と聴力を調べた最近の研究(※5)によれば、喫煙量が多いほど聴力が低下する傾向があり、タバコを吸わない人と比べ、1日21本以上の喫煙者で特に高音域の聴力低下のリスクが60%高くなることがわかった。

 喫煙による聴力低下も禁煙すれば元に戻る。この研究によれば、5年以上の禁煙でほぼタバコを吸わない人と同じ程度にまで戻るようだ。

 タバコにはニコチンが含まれているが、ニコチンによる影響で内耳にある音を感じ取る蝸牛という器官が機能不全を起こすことで聴力低下が起きているのではないかと研究者はいう。アイコス(IQOS)などの加熱式タバコにも紙巻きタバコと同程度のニコチンが入っているので、同じようなリスクがあるというわけだ。

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J-ECOH(職域多施設研究)スタディによる喫煙本数と聴力低下。1〜10本の量でも聴力が低下することがわかる。ニコチンの影響と考えれば、加熱式タバコにもリスクがある。Via:国立研究開発法人国立国際医療研究センター:臨床研究センターのリリース(2018/07/20アクセス)

 妊娠中の喫煙や出生後の受動喫煙でも子に聴力低下が起きることもわかっているが(※6)、タバコが声や聴覚に悪影響を与えることは明白だ。冒頭の若手男優もバンド活動をしているらしいが、ファンが案じるのもよくわかる。

 エンターテインメント産業による喫煙広告アナウンスの訴求効果は大きい(※7)。JT(日本たばこ産業)のCMに起用されている男優でもあり、この際きっぱり禁煙宣言をすれば、ファンを含めた若い世代に向けてのアピールは絶大なのにと残念だ。

※1:William J. Blot, et al., "Smoking and Drinking in Relation to Oral and Pharyngeal Cancer." Cancer Research, Vol.48, Issue11, 1988

※2:Diane R. Gold, et al., "Effects of Cigarette Smoking on Lung Function in Adolescent Boys and Girls." The New England Journal of Medicine, Vol.335, No.13, 931-937, 1996

※3:Carrie D. Llewellyn, et al., "An analysis of risk factors for oral cancer in young people: a case-control study." Oral Oncology, Vol.40, Issue3, 304-313, 2004

※4:Marie Reine Ayoub, et al., "The Effect of Smoking on the Fundamental Frequency of the Speaking Voice." Journal of Voice, doi.org/10.1016/j.jvoice.2018.04.001, 2018

※5:Huanhuan Hu, et al., "Smoking, Smoking Cessation, and the Risk of Hearing Loss: Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study." Nicotine & Tobacco Research, doi.org/10.1093/ntr/nty026, 2018

※6:Calistus Wilunda, et al., "Exposure to tobacco smoke prenatally and during infancy and risk of hearing impairment among children in Japan: A retrospective cohort study." Paediatric and Perinatal Epidemiology, doi.org/10.1111/ppe.12477, 2018

※7:James D. Sargent, et al., "Exposure to Movie Smoking: Its Relation to Smoking Initiation Among US Adolescents." Pediatrics, Vol.116, Issue5, 2005

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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