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ハリウッドのストライキ:組合が例外で撮影を許すことに俳優たちから疑問の声

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
パラマウント・スタジオの前でデモ行進をする俳優と脚本家(筆者撮影)

 5月にストライキを始めた脚本家たちに加え、今月半ばからは俳優たちもストライキを開始。そのせいでハリウッドでは映画やテレビの撮影が完全にストップした。と思いきや、実際にはそうではない。ストライキ開始後まもなく、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のトップは、「真のインディーズ作品」にはケースバイケースで撮影を許可すると発表し、現在までに100本以上の作品が例外扱いを認められているのだ。

 ストライキの相手は、ディズニー、ワーナー、パラマウント、ユニバーサル、ソニーら大手スタジオやNetflix、Amazon、Appleなど大手配信会社を代表する全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)であり、そこに関係がないのなら良いというのが、その理屈。しかし、許可を得た作品の中には、Apple TV+が配信するドラマ「Teheran」、米国は決まっていないが海外はパラマウントが権利を持つドラマ「The Gray House」、ワーナー傘下のニューライン・シネマが配給する映画「The Watchers」なども入っているのである。許可された作品の出演者には、アン・ハサウェイ、グレン・クローズ、ポール・ラッドなど有名俳優も含まれる。

 SAG-AFTRAによれば、許可が出た理由はそれぞれで複雑とのこと。当然ながら、これはストライキをする俳優たちを混乱させている。たとえ正真正銘のインディーズ作品だったにしても、それらの作品を最終的にNetflixやAmazonが買うという可能性は十分にあり、つまりは彼らの将来の作品を作ってあげていることになる。しかも許可を得る作品は毎日のように増えていくばかりなのだ。ソーシャルメディアには「このペースで増えていったら、デモ行進をする俳優はいなくなるのでは」、「ストライキはみんなでやらないと意味がない」などといったコメントが寄せられている。

 最も率直に反対意見を表明したのは、コメディエンヌで女優、脚本家のサラ・シルバーマンだ。現地時間先週木曜日、シルバーマンはインスタグラムに投稿した映画で、「今、すごくむかついている」「このストライキは、(AMPTPの会社に対して)『映画スターはもうあなたたちのために映画を作ってくれませんよ』と言うものなのに、彼らは映画を作っているのよ。どういうこと?」と怒りを表明した。自分もインディーズ作品から出演をオファーされたが断ったという彼女はまた、最近では友達にもインディーズ映画の仕事を受ける人が出てきたとも不満を漏らす。このせいでストライキがもたらす脅威が弱まり、ストライキが長引いてしまうとも恐れる彼女は、「最終的に配信が買うであろうインディーズ映画に出ている映画スターに怒っているのか、インディーズのための例外を作るSAGに怒っているのかわからないけど、どっちにしてもこれは何なの、と思うのよ」ともぶちまけた。

デモに参加するサラ・シルバーマン
デモに参加するサラ・シルバーマン写真:REX/アフロ

 この投稿を見たSAG-AFTRAの交渉リーダーはシルバーマンとミーティングを持ち、彼らの考えを直接説明した。彼らによれば、例外扱いを認められた作品はすべて、今回の労働条件交渉でSAG-AFTRAがAMPTPに出した要望を全部受け入れたとのこと。また、完成作を売る相手にも、これらの要望に従ってもらうようにするという条件になっているという。AMPTPは、SAG-AFTRAが出した要望を「非現実的」「法外」と見ているが、こうやって受け入れてくれる例を増やしていくことで、決して非現実的ではないのだと証明していくのが狙いだそうだ。

 そのミーティングの後に投稿した動画で、シルバーマンは少し落ち着いていた。しかし、まだ納得できない様子を隠さず、許可された作品の中には真のインディーズもあるが、抜け穴を利用したようなものもあると指摘。ストライキが終わった時にはそれらの作品がAMPTPのために用意されているというのは、すべてを犠牲にしているほかの人たちにしたら良い気持ちがしないと述べた。それでも、最後は、仲間内で責め合うのではなく、怒りの矛先はAMPTPに向けるべきなのだと、結託を訴えて締めくくっている。

「製作が続けば痛手は少なく、ストライキが長引く」

 この投稿に対しては、「サラ・シルバーマンは校長室に呼ばれて大人しくなったのか」、「最初の投稿の意見が正しかった」、「あなたがジャンヌ・ダルクだとは言わないにしろ、何か持っていると思っていたのに」など、トーンダウンした彼女にがっかりしたことを示すコメントが寄せられた。また、これら例外のインディーズ作品を買った配信会社にはSAG-AFTRAの要望に従う義務がそもそもないと、合意の効力を疑うコメントも見られる。脚本家のブーツ・ライリーも、このような形で製作が続いていけばAMPTPの痛手は少なく、ストライキが長引くだけだと、例外を認めることの間違いを指摘するコメントをシルバーマンの投稿に書き込んだ。「すでに102本の作品に許可が出ていて、ストライキが終わるまでにさらに多くの作品の撮影が許されるとあれば、たいしたスローダウンにはならない」という彼は、「そんな状況でなぜAMPTPが折れると思うのか」と疑問を投げかける。

 事実、今月12日にSAG-AFTRAとAMPTPの新たな契約についての話し合いの期限が切れ、14日にストライキが始まって以来、両者は一度も交渉の場を持っていない。SAG-AFTRAは、「向こうが話したいと言ってきたら今夜にでも応じる」と言っているが、AMPTPがそう言ってこないということは、それだけ強気だということだろう。俳優たちが宣伝活動をできないため、スタジオはいくつかの映画の公開を延期するなど不都合を被ってはいるが、まだ切羽詰まってはいないようだ。そこへ来てこのようにインディーズ作品の製作が続いているとあれば、なおさらではないか。話し合いが持たれなければ、ストライキは終わらない。何を持ってすれば、両者を再びテーブルに着かせることができるのか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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