Yahoo!ニュース

日本のスマホシェア「グーグル」が2位? 背景を考える

山口健太ITジャーナリスト
Pixel 7とPixel 7 Pro(筆者撮影)

日本のスマホ市場において、グーグルのシェアが2023年第1四半期(1〜3月期)に2位に躍進したとの調査が話題になっています。

なぜ日本でグーグルのスマホが売れているのか、背景を考察してみます。

Pixelのシェア 日本で2位に浮上?

Androidスマホは複数のメーカーが販売していますが、その中でもグーグルが直接手がけるスマホが「Pixel(ピクセル)」シリーズです。

香港の調査会社Counterpointによれば、グーグルは2023年1〜3月期に日本のスマホ市場の出荷台数で9%のシェアを占め、アップルに次いで2位になったといいます。

また、グーグルの中での日本のシェアは34%と史上最高に達しており、米国を抜いて世界で最も大きいシェアを日本が占めているとしています。

なかなか印象的な数字ですが、これは本当なのでしょうか。ほかの調査では、異なる結果が出ているものがあります。

日本のスマホ出荷台数を定期的に発表しているIDC Japanによる調査では、2023年1〜3月期の上位5社にグーグルの名前は入っておらず、5位のサムスン(6.0%)よりもシェアは低いと考えられます。

追記:

IDC Japanに確認したところ、グーグルは下のグラフにおける「Others」の中に含まれているとのことです。

グーグルが上位に入っていない調査も(IDC Japanのプレスリリースより)
グーグルが上位に入っていない調査も(IDC Japanのプレスリリースより)

また、Counterpointの調査ではシャープのシェアが昨年の8%から6%に下がったとしているものの、IDC Japanの調査では9.8%から13.0%に伸びており、国内2位はシャープとなっています。

こうした市場調査では調査の対象や方法によって結果が大きく変わってくる場合があることから、数字を読み解く際には注意が必要といえそうです。

日本経済新聞はBCNの調査に基づいて、5月の国内シェアはグーグルが2位だったと報じています。こちらは家電量販店やネットショップの販売データであることから、携帯キャリアの販売チャネルとはやや異なる結果になっている可能性があります。

追記:

Counterpointに問い合わせたところ、「当社はオープン・チャネルの情報源からデータを収集しているが、キャリア向けの出荷台数について他のソースからもデータを収集している」との回答がありました。

このことから、Counterpointの調査はBCNの調査に近い結果になっているのではないかと筆者は考えています。

一方、MM総研による2022年度通期(2022年4月〜2023年3月)の調査ではグーグルが6位となっており、前年度に6位だった京セラと入れ替わっていることから、グーグルが伸びている可能性は高いといえます。

こちらは2022年度通期の調査。グーグルは6位に浮上した(MM総研のプレスリリースより)
こちらは2022年度通期の調査。グーグルは6位に浮上した(MM総研のプレスリリースより)

それではなぜ、グーグルのPixelシリーズは日本で出荷台数を伸ばしているのでしょうか。Counterpointの調査では、キャリアとのパートナーシップが非常に大きな影響を及ぼしていることを指摘しています。

日本では、高価格帯スマホの大半はキャリアを通して販売されています。Pixelシリーズは値引きや端末購入プログラムの対象となることが多く、割安に購入できる機会が多いことが背景にあると考えられます。

特にソフトバンクは、かつてはiPhoneのイメージが強かったものの、最近ではAndroidの機種を充実させており、Pixel 6 Proを日本のキャリアとして独占販売するなど、Pixelシリーズの国内展開に大きく貢献してきた印象があります。

その結果、Pixelシリーズには「日本びいき」と感じるところがあります。2021年の「Pixel 5a(5G)」では、半導体不足などの影響から展開地域が絞り込まれ、米国以外では日本だけの発売となり注目されました。

また、日本ではおサイフケータイなどに使われるICチップ「FeliCa」の需要があることから、Pixelシリーズは日本向けに専用モデルを用意しています。このあたりもキャリアの大きな影響力を感じるところです。

Pixel 7aにもFeliCaを搭載した日本向けモデルが用意された(グーグルのWebサイトより)
Pixel 7aにもFeliCaを搭載した日本向けモデルが用意された(グーグルのWebサイトより)

2023年の「Pixel 7a」はソフトバンクとKDDIに加えて4年ぶりとなるNTTドコモが採用し、大手3キャリアから選べるようになったことで、Pixelシリーズの売れ行きにさらに弾みがつく可能性があるとCounterpointは指摘しています。

世界のスマホ市場におけるグーグルの存在感はどうでしょうか。これも調査会社によって数字はまちまちですが、2023年1〜3月期の出荷台数はおおむね200〜400万台という規模感で、Counterpointの調査で世界第5位のvivo(2120万台)とは大きな開きがあるとみられます。

一方、グーグルが突出しているのは「成長率」です。世界のスマホ市場は縮小傾向にあり、Counterpointによる調査では、2023年1〜3月期にアップルを除く上位メーカーの出荷台数が軒並み15〜20%ほど落ち込んでいます。

これに対してグーグルは前年同期比で「67%」と大幅な成長を遂げていることから、Pixelシリーズは世界のスマホ市場において、いま最も伸びているブランドの1つといえそうです。

使い勝手やアップデートに安心感も

国内での人気ぶりとしては、2022年末に発表されたケータイ Watchによる読者投票では、高コスパで話題となった「Pixel 6a」が1位に、また上位3機種をPixelシリーズが占める結果になっています。

PixelシリーズにはグーグルのAI技術を用いたPixel特有の機能も搭載されているとはいえ、全体的にAndroidの標準的な使い勝手が実現されていることが好評を得ています。

また、Androidスマホでは機種によってOSのアップデートの対応にも大きな違いがありますが、Pixelシリーズでは発売から約3年間(セキュリティのアップデートは約5年間)保証されていることも安心感につながっているようです。

グーグルのサービスは「撤退」が話題になることも多いのは気になるところですが、Pixelシリーズは1日に何度も見るほど広告動画を流していたり、折りたたみスマホタブレットにもラインナップを広げていたりと、デバイス事業にはやる気が感じられます。

スマホ市場全体ではファーウェイが米中対立で停滞していることがPixelには追い風となっており、さらに日本では国産スマホの撤退も続いていることから、iPhoneに対抗するブランドとして面白い存在になりそうです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

山口健太の最近の記事