任天堂、スーパーマリオランから始まる「まずは無料でプレイ」の挑戦
12月16日(金)、ついに任天堂のマリオシリーズ初となるスマホゲーム『スーパーマリオラン(SUPER MARIO RUN)』の配信が始まりました。
スーパーマリオランは「片手であそぶ、新しいマリオ」をメッセージに、自動で走り続けるマリオをタップでジャンプさせ、コインを集めながらゴールを目指すランゲームです。
「マリオのスマホゲーム」という話題性から多くのニュースサイトで取り上げられており、iPhoneユーザーの方はすでにプレイ済みの人も多いことでしょう。
Appleも異例のプッシュ
そんな世間の注目が集まっている本作の特筆すべき点は、Appleによる異常とも言えるほどの推しっぷりです。
今年のAppleスペシャルイベントで発表されたのを皮切りに、iTunes App Store初となるアプリの配信開始を伝える「通知ボタン」の準備、さらにはApple Store全店舗でのデモゲームプレイ、そしてiTunes App Storeのトップ独占&SNSでの広告配信とまさに至れり尽くせり。
長年スマホゲーム業界の報道に携わってきましたが、Appleからここまでの接待を受けたのは本当に任天堂が初と言える異例のプッシュです。
世間の注目、そしてこのプッシュによりマリオランは全世界で無料ダウンロードランキング1位を獲得するという絶好のスタートを切りました。
海外では成功するも日本は微妙
一方、そんなスタートとは裏腹に売上の方は「絶好」とまでは言い難い状況です。
海外では初日にトップセールスランキングで1位を獲得していますが、お膝元の日本での初日は20位台。その後の2日目は6位、3日目となる今日は4位(記事執筆現在)とジワジワ伸びつつあるものの、1位が取れるかとなるととても厳しい。
なぜならスーパーマリオランは1,200円の買い切り型アプリであり、すでに購入した人が追加で購入できるコンテンツもないため、驚異的なスタートダッシュ後に売上を伸ばせる余地が(今のところは)ないからです。
任天堂から具体的な数字は発表されていないものの、市場調査会社SensorTowerの調べによれば世界ダウンロード数は500万件、初日売上は500万ドル(約5億8,969万円)にのぼるとされています。
Super Mario Run's Massive First Day, By The Numbers
どちらも『ポケモンGO』の初日記録を抜く数字です。しかし、別の市場調査会社SuperDataによれば初動を見たあとの初月売上予測は1,200万ドルから1,500万ドルと低く見積もられました(当初予測は6,000万ドルだったが下方修正された)。
ポケモンGOが今も日々200万ドルを売り上げていることを考えると、この金額では絶好とは言い難いでしょう。
「まずは無料」のフリー・トゥ・スタートへの挑戦
そもそも、なぜマリオランは最初に無料で遊べるようにしながらも実際には1,200円の買い切り型なのでしょうか?
そこには任天堂によるスマホゲーム市場への挑戦があります。
ポケモンGOを始めとする「アイテム課金型」のゲームは、一般的には「フリー・トゥ・プレイ(Free to Play)」と呼ばれています。しかし、任天堂はこの言葉を「ゲームの価値を感じていただき、その価値をなるべく高く維持したい」との思いから良い言葉ではないと考え、「フリー・トゥ・スタート(Free to Start)」と呼ぶようにしています(第75期 定時株主総会 質疑応答より)。
そして、任天堂のこのフリー・トゥ・スタート型ゲームの目指すところは「狭い範囲から徹底してお金をいただく」ものではなく「幅広い方から広く薄くお金を支払っていただく」というものなのです。
もちろん任天堂としても日本市場でのフリー・トゥ・プレイ型ゲームの人気は知っています。しかし、日本以外だと必ずしもそれがうまくいくわけではない。任天堂の調べでは「海外では幅広い層の方々からちょっとずつ払っていただくというモデルで成功されているものが多くなっている」そうです。
あくまでも「幅広い方から広く薄く」。スーパーマリオランの販売方法と価格設定は、ゲーム専用機向けソフトに比べて非常に安価にゲームが売られているスマホゲーム市場への任天堂の挑戦なのです。