「3連覇を祈る!」中国人が羽生結弦選手をリスペクトし、熱烈に応援する理由
2月8日、フィギュアスケート男子のショートプログラム(SP)に羽生結弦選手が出場する。10日のフリー(FS)も含め、日本中で大きな期待と注目が集まっているが、羽生選手に注目しているのは中国でも同様だ。
中国での羽生選手の人気はすさまじく、自国選手と同等か、それ以上といってもいい。今回の北京冬季五輪で、中国人にとっても最大の注目選手といえるほどのフィーバーぶりで、メディアも羽生選手の北京入りや練習風景を逐一報道している。
2月7日夜7時ごろ、約187万人のフォロワーを持つ羽生選手の微博(ウェイボー)のページ『羽生結弦 infoStation』に公開された練習動画は、夜9時時点で34万回再生され、約2万2000回の「いいね」がついていた。
羽生選手の試合がある今週は「気になって気になって、仕事が手につかない」「ずっと(4回転半ジャンプの成功と優勝を)祈っている」という若い女性も多い。
なぜ、中国で羽生選手はこれほど人気があるのか。
人間性や、こまやかな気遣いがすごい
中国のサイトで検索すると、「なぜ羽生結弦選手はこれほど中国で“火”(人気がある)なのか」という同様のテーマの記事が見つかった。
そこには、幼い頃にスケートを始めたエピソードや、東日本大震災を乗り越えた経歴に加え、従来いわれている通り、高度な技術力や演技力、優雅さや美しさ、少女漫画に出てくるような整った容姿などが人気の理由である、と書かれていた。
だが、それ以外に、彼らが羽生選手をリスペクトしてやまない明確な理由があった。それは他者に対する細やかな配慮や気遣いのすばらしさだ。
羽生選手のファンだという20代のある中国人女性は語る。
「2014年11月に行われたグランプリシリーズの中国戦で、友人に教えられて、初めて羽生選手の存在を意識しました。スラっと背が高くて、スマートで、すごくかわいい顔立ちだなと思ってファンになったのですが、驚いたのは公式練習のとき。中国の閻涵(えんかん)選手と正面衝突してしまったのです。
場内は騒然となりましたが、私が驚いたのはもっとあと。血を流しながらやっと立ち上がって、リンクを出た羽生選手は、リンクの裏で「閻涵は?」と何度も口に出して、ぶつかった中国人選手の状況を気に掛けていたのです。
そのリンク裏の様子が偶然、生放送で流れたときは、本当に驚きました。自分があれだけ大変な状況で、相手選手を恨むどころか心配するなんて、中国人ならとても考えられないこと。同時に、彼がすばらしいのはスケートだけでなく、その人間性なのだ、ということに気づき、すっかり魅了されてしまったのです」
当時、羽生選手は頭に包帯をしながらも欠場せずに全力を尽くし、2位になったが、女性はそれを見て「あのとき、自分もどんなにつらいことがあってもがんばろう、と決意しました。以来、羽生選手はずっと自分の心の支え、神様みたいな存在になっています。その後、日本にもスケートを見に行ったことがありますし、家に写真集もあります」と目を輝かせる。
中国選手へのリスペクトに、中国人として感謝
中国の微博などSNSを見ていても、この知人女性と同様に、羽生選手のこまやかな気遣いに「感動した」「なんて有礼貌な(礼儀正しい)人なの!」と絶賛する声が大量に書き込まれている。リンクに入る際の“儀式”やルーティーンも「マナーがすばらしい」と話題だ。
しかも、これまで羽生選手は中国人選手との縁も深い。それも、中国人が「私たち(中国人)のこともちゃんと尊重(リスペクト)してくれている」と喜ぶ理由の一つだ。
日本でも何度も報じられているが、2017年にフィンランドで行われた世界選手権のとき、3位になった中国の金博洋選手が国旗を裏返して持っているのに気づき、近づいてその国旗を直すのを手伝ったことは、中国でも大きく報道された。
「大事な国旗の位置に気がついてくれてうれしい」「さりげないけれど、温かい心遣い」「もし逆のことがあったら、中国人は同じことができるだろうか?」などと絶賛された。
同じく中国の金博洋選手が2018年の平昌冬季オリンピックの際にメダルの可能性がなくなると、控室で金選手を抱きしめ「天天(金選手の愛称)、加油!」(がんばって)と中国語で声を掛けたこともあった。このときの様子もテレビ中継され、中国で視聴していた人はその気遣いに感激した。
羽生選手に限らないが、フィギュアスケート選手は外国人コーチに師事することも多く、英語が堪能な選手は多い。
羽生選手もそうだが、金選手が中国人なので、金選手の母国語である中国語で励ましたことに「中国人のこともリスペクトしてくれて、中国人としてお礼をいいたい」「羽生選手には日本人的な利他の心、そして、思いやりがある。羽生選手から日本人のよさが伝わってくる」とファンが増えた。
羽生選手のような行動が取れる中国人は少ない
むろん、羽生選手は、中国人選手に対してだけでなく、他の選手に対しても気遣いを忘れない。
2015年、世界選手権の国別対抗戦で、日本のキャシー・リード選手が引退する際、大勢の選手たちがリンクにいたが、その中から羽生選手がリード選手を中央に引っ張り出し、引退の花道をセッティングしてあげたことも、中国のファンの間で語り草になった、と前述した女性はいう。そのときの動画は今も繰り返し再生されているそうだ。
別の中国人は「まだ20歳そこそこだった羽生選手があそこまでの気遣いができることに恐れ入りました。中国のスポーツ選手で、あのような行動が取れる人は、残念ながらまだ少ないんです。
選手たちは自分の成績のことで精一杯だし、ライバル選手はみんな敵、蹴落とす存在だとみてしまうようなところがあるから……。羽生選手は、競技選手としてだけでなく、人間としての器も大きい。中国人にとってのお手本。だから精一杯応援したい」と褒めちぎっていた。
2月8日と10日の試合、日本人だけではなく、リンクに足を運べない中国人ファンたちも皆、固唾を飲んで羽生選手の試合を見守っている。