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飛行機で他人から「席を代わって」と言われたら?米アニメの1シーンが論議を呼ぶ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
再び注目を集めている「Family Guy」の1シーン(Fox)

 現地時間26日(日)まで、アメリカは感謝祭の4連休だった。家族が集まり、七面鳥の丸焼きをはじめとするディナーを楽しむこの祝日の前後は、飛行機が最も混む時でもある。

 人がたくさん乗っていれば、それだけトラブルも起こりやすい。そのせいもあってか、アメリカで「Family Guy」の昔の1シーンが急にまたソーシャルメディアに浮上し、論議を呼んでいる。

「Family Guy」は、コメディ映画「テッド」を監督し、テッドの声も務めたセス・マクファーレンが企画、製作総指揮、声の出演をする長寿アニメ番組。つい最近は、メーガン妃とハリー王子のパロディを出してきて、大ウケしたばかりだ。

 機内を舞台にしたそのシーンで、主要キャラクターのひとりストゥーイーは、座席ベルトを閉めて席に座っている。そこに子供を抱いた女性が近づいてきて、夫の横に座りたいから席を代わってくれないかと言ってくる。「フライトの予約をした時、3人並んで座れる席が空いていなかったので」と彼女は続けるが、ストゥーイーは「あなたの計画不足は緊急事態には当たりません。(ご主人とは)パリ到着時に会えますから。自分の席に戻って」と拒否をする。

ある女性の体験談が大きな共感を呼んだ

 このシーンは10年以上前に放映された回のものだが、皮肉にも、実にタイムリーだ。今年、アメリカでは、同じ体験をした女性のTikTok動画が話題を集めたばかりなのである。

 タミー・ネルソンという名のその女性がデルタ航空のフライトに乗り込むと、自分の席に、すでに女性が座っていた。その女性の横には15歳前後と思われる少年、11歳前後と思われる少女がいる。ネルソンが丁寧に「ここは私の席なのですが」と指摘すると、「このふたりは私の子供で、隣に座りたいので、あなたは私の席に座ってもらえますか」との答が返ってきた。ネルソンは「良いですよ。ただし窓側の席であれば」と条件付きで快諾したが、その女性の席は真ん中。

 仕事が忙しく、前の晩にほとんど睡眠時間を取れなかったというネルソンは、さすがに真ん中の席は辛いと、席の交換を断った。だが、当てつけなのか、その後も女性はしょっちゅう息子と娘に「大丈夫?」と声をかけてきたが、子供たちは逆に面倒くさそうに「平気だってば」と答えていたと、ネルソンはいう。

 この動画には多数のコメントが多数寄せられ、全国放送のテレビにも取り上げられた。動画自体に対する、あるいはテレビの映像に対するコメントのほとんどは、「席の交換を断ったことについて言い訳は不要」「彼女の対応は正しい」など、ネルソンに共感するものだ。そんな中だけに、再び浮上したこの「Family Guy」のシーンについても、「『あなたの計画不足は緊急事態には当たりません』とは最高のせりふだ」「よくやってくれた。席を代われと言われるのには飽き飽き。追加料金を払うか家に帰れ」などというコメントが多数見られた。

 筆者自身も過去に同じ体験をしているだけに、ネルソンと「Family Guy」には大きく共感できた。数年前、前の飛行機がやや遅れたせいで、ギリギリに乗り継ぎ便に搭乗すると、筆者が指定していた通路側の席に、ある女性が座っていた。その女性もネルソンが遭遇した女性と同じく子供と乗っていて、隣に座りたいからと、自分の席ではないと知りつつ勝手に筆者の席に座っていたのだ。通路側の席であれば代わってあげたかったが、その女性の席は真ん中。まるで同じ状況である。真ん中の席に代わるのは辛いので、筆者の場合はフライト・アテンダントに相談して状況に対応してもらった。

交換をお願いするなら同じかもっと良い席をオファーするのが鉄則

 それでも、まるで意地悪をしたような、嫌な後味が残るものだ。だからこそ、人は、ネルソンと「Family Guy」のキャラクターを支持するのである。これが、窓側あるいは通路側の席に座っている人が、真ん中の席にいる人に対して「代わってくれないか」というのなら、事情は全然違う。窓側、通路側の席を指定したのには当然意味があるわけで、その席を予約できるのは普段からよくそのエアラインを利用しているエリート会員だったり、あるいは追加料金を払っている人だったりする。アメリカの国内線は、近年ますます、エリート会員以外の一般乗客がこれらのちょっと良い席を望む場合、追加料金を取るようになっている。それを払わなかった人が、子供をだしにしてそれを必要とされる席に座ろうとしたなら、「虫が良い」ととらえられてもしかたがない。

 そう思われることのないように、ソーシャルメディアには、アドバイスの書き込みもいくつか見られる。ひとつは、ストゥーイーが言うように、早めに予約をして、望む席を確保することだ。また、窓側や通路側が良いならば、追加料金を払うのをいとわないこと。それでも離れ離れになってしまったら、搭乗する前、チェックインの係員やゲートの係員になんとかならないか相談すること。それでも他の乗客に直接交渉しなければならないなら、その人が座っているのと少なくとも同等、あるいはより良い席をオファーすることだ。

 感謝祭は終わったが、アメリカでは来月もクリスマス、ニューイヤーがある。日本も年末年始で、エアラインの繁忙期だ。ただでさえストレスのたまる空の旅をできるだけ心地良く過ごせるように、このシーンをぜひ心に留めておきたい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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