日本テニスを憂える伊達公子さん ゼネラルプロデューサーの思い、そして50歳の心境(独占インタビュー)
元プロテニスプレーヤーの伊達公子さんが、生涯契約を締結しているヨネックス株式会社と取り組んでいる、15歳以下の日本女子ジュニア選手を対象とした育成プロジェクト「伊達公子×ヨネックスプロジェクト」。2019年1月にプロジェクトは発足したが、第7回のジュニアキャンプ(11月21~22日、東京・スポル品川大井町インドアテニスコート)が開催された。
現在の日本女子テニスでは、テニス4大メジャーであるグランドスラムで3回優勝した大坂なおみ(WTAランキング3位)が実力的に突出しているが、若手を含めたその他の日本女子選手が、世界のトップ10レベルで活躍できそうな気配はなかなか感じられない。この厳しい現状と日本女子テニスの将来を危惧した伊達さんが、このジュニアプロジェクトを始動させたのだった。
このジュニアプロジェクトでは、2019年6月から2021年2月までの約2年間で、2日間のジュニアキャンプが合計8回組まれている。
テニスにおける10代前半は、基本技術に手を入れることのできるギリギリの年代と言われることが多く、コーチによっては基本技術を改良するのはもう遅いと言う人もいる。それぐらい非常にデリケートな年代であり、テニスの成長には大事な時期でもある。だからこそ、伊達さんの指導には、常に試行錯誤がつきまとう。
「もちろん簡単ではないですし、特に、このプロジェクトがそんなに回数が多いわけではないので。本当に短時間の中で、選手に与える影響力を踏まえ、(ジュニア選手のホーム)コーチとの懇談や連携によって(情報を)共有していくことで、克服というか理解を深める中で取り組んできた。
それぞれ(ジュニア選手に)ホームコートがあって、ホームコーチがいるので、(技術的アドバイスを)言うことの難しさはあったんですけど、このプロジェクトだからこそできること、言えることがある。みんなそれぞれに世界で戦ったり世界を見たりしてきたコーチ陣の集まりなので、ホームコーチたちが普段見聞きしていることと、私たちが見えていることとは当然違いはある。私たちは、世界を目指すために必要なこと、つまり、今ジュニアの中で勝つことだけを見ているわけではない。そこを(ホームコーチにも)理解してもらう。たとえ今できなくても、世界に行った時にどうなるかという“絵”が見えている私たちなので、(テニスの技術で)直すべきことは伝えます。コーチとの連携、フォローアップによって、クリアにしていける方向になっていると私たちは思っています」
テニスの基本技術修正の難しさを、元プロテニスプレーヤーでヨネックス契約プロである、石井弥起さんは、伊達さんと一緒にジュニア選手を指導しながら痛感している。
「方向性は、伊達さんと確認していますが、そこ(基本技術の修正)が一番難しいところだと思います。(キャンプで)2日間みっちりできるといっても、(キャンプは)1年では8日だけですから、(各ジュニア選手の)自分のホームコートでの時間が大事なんだよと常に言っています。ホームコーチとの連携が大事になってくるし、フォームや技術を変えるとなったら、ホームコーチとそれこそ方向性がずれないように気をつけます。誰がどう見ても変えた方がいい時は、言います。
伊達さんから、スライスとネットプレーは必要になってくるよ、というのがベースにあります。なので、どのジュニア選手にも練習させています。絶対に必要になるよという伊達さんのメッセージです」(石井さん)
伊達さんとヨネックスのジュニアプロジェクトに加えて、日本テニス協会(JTA)とJTAオフィシャルスポンサーになった大正製薬株式会社の協力のもと、2020年に国際テニス連盟(ITF)公認のジュニア大会が新設された。
「リポビタン国際ジュニア supported by伊達公子×ヨネックスプロジェクト」(12月2~6日、予選:11月30日~12月1日、愛媛県松山市・愛媛県総合運動公園)は、日本で8番目のITF公認ジュニア大会となる。
このITFジュニア松山大会(ITFジュニアカテゴリー・グレード5)で、伊達さんは、初めてゼネラルプロデューサーを務めることになる。日本国内で多い砂入り人工芝コートではなく、世界標準のハードコートでのジュニア国際大会を、世界を目指す日本ジュニア選手に戦わせることにまず意義があると伊達さんは力説する。
「これまで日本選手が、砂入り人工芝コートで戦って、やっと世界ランキングを獲得し、グランドスラムの予選に行けるようになって、行ってみたらハードコートでパワーに打ちのめされて、また振り出しに戻るという繰り返しを(自分が現役時代に)見て来た。ジュニアの現状を知らなかった私が、このプロジェクトを機に現状を知って、まずは大会を作らないといけないと思った。(ジュニア選手が)日本にいながら、遠回りをしないような、機会をつくるところまでは来た。今、こういう状況下(新型コロナウィルスのパンデミック)で、(大会エントリーは)日本人中心になると聞いていますけど、こういう機会をより多くのジュニアたちに経験してもらいたい。ただ大会に出場するだけではなく、目的が何なのかという中でプレーを期待したい。ただ大会が一個増えて試合ができるではなく、(ジュニア世界ランキング)ポイントを重ねるための大会なんだというしっかりした意識をもってのプレーをいちばん期待したいかな」
ITFジュニア松山大会では、伊達さんのジュニアプロジェクトで指導を受けて来たジュニア選手4名も参戦する。奥脇莉音(15歳)と永澤亜桜香(14歳)は、自力で本戦ストレートインを果たした。一方、成田百那(14歳)と山上夏季(13歳)には、伊達さんらがキャンプでの練習姿勢や練習マッチでのプレーを考慮して本戦ワイルドカード(大会推薦枠)を与えた。
「とても嬉しいし感謝しかないです。愛媛ではベスト8に入りたいです。テニスのプレーでは、ミス待ちのテニスではなくて、相手を圧倒して勝てるようにしたいです」(成田)
「すごいチャンスを取れて嬉しいです。自分の出せる力を出して、1試合でも多く勝ち進みたいと思います」(山上)
松山大会が始まれば、伊達さんは、ゼネラルプロデューサーとして公平性を保つ立場上、ジュニアプロジェクトの4選手ばかりに肩入れはできないが、彼女たちの成長を約2年間見守ってきただけに期待はやはりある。
「彼女たちが同じもの(テニスの鍛錬)を積み上げていけば、どこかで可能性は広がると信じてここまでやってきている。何より(第7回キャンプの)この2日間を見て、彼女たちが見せてくれたプレーが、本当に最低限の、当たり前のプレーとしてできるようになって、試合でやれるかどうか。もちろん当たり前のようにプレーする難しさも分かっている。愛媛でも(キャンプと)同じように見られれば、たとえ結果がどんなものになろうとも構わない。(目の前の勝利に固執して)テニスを変えて、もし準々決勝まで行っても、それはちょっと違うのかな。勝つだけがすべてではなく、やっぱり内容も重視していかないと先が見えなくなる。将来性を感じられるプレーを見せてほしい」
現在も新型コロナウィルス感染症のパンデミックは続いており、日本ジュニア選手は海外遠征ができなくなり、また多くのジュニア国際大会が中止となって、本来こなすべき国際試合を消化できていない。世界的に未曾有の状況下で、ITFジュニア大会で試合をするのが数カ月ぶりとなる選手ばかりとなる。
「本当に難しいですけど、久々の試合だからこそ、試合数をこなせるいい緊張感を存分に味わってほしい。私は、何よりも試合が練習になると思っているので、そのためには負けられないだろうし、練習をたくさんしたければ、勝つしかない、と。そういう気持ちがモチベーションになってくれたらいいな。ただ単に久しぶりにある大会という気持ちじゃなくて、プラスのモチベーションとして、大会の存在、緊張感の意味をしっかり感じて挑んでほしいなと思いますね」
ジュニアプロジェクトに加えて、ジュニア大会の新設、そして、ゼネラルプロデューサー、新しいことへの挑戦が続いている伊達さんだが、2020年9月に50歳の節目を迎えた。女性に年齢の話をするのが野暮というのは百も承知しているものの、やはり誰にとっても、ひとつの節目ではないだろうか。
「まぁね、50というのは、大きなナンバーではあるんです。やっぱり衰えは感じますけど、まぁ、悪いなりにひざの状態を維持しつつ、少しでもテニスが打てる、だいぶ打てていませんけど、フフフ、打てる時間を引っ張っていられる自分でいたいという思いをもって日々過ごしています。でも、何も基本は変わりませんけどね。気持ちは、まだ30代で、30代後半ぐらいでいますが。先はまだ長いので、健康でいたいなと思います。でも、隠し切れない衰えもあるという事実も受け止め、自覚もしつつ、そことバランスを考えつつ元気にいきたいと思います」
やはり、伊達さんにはテニスコートがよく似合う。選手から、指導する側やゼネラルプロデューサーへと立場は変わったが、彼女が50歳になっても、テニスコートに立つ姿を見られるのは嬉しいことだ。
伊達さんがライフワークの一つとして取り組むジュニアプロジェクトが、彼女がプロデュースした松山のジュニア大会でどんな結果を残すのか。また、松山の大会自体が日本ジュニア選手に何をもたらすのか。伊達さんが憂える日本テニスの発展、そして、未来につながるような試金石が得られることを願いたい。