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株価はまだ上がる。4万円は通過点。しかし、景気が悪いのになぜ上がるのか、そのあまりに単純な理由とは?

山田順作家、ジャーナリスト
もはや4万円台は目前。(写真:つのだよしお/アフロ)

■株価の上昇と景気の実感に違和感が

 2月9日、日経平均は一時3万7000円を超え、終値で3万6897円とバブル後最高値を2日連続で更新した。このまま行くと史上最高値を付け、4万円超えも間違いないという雰囲気である。いや、間違いないというより、このままでは、4万円は通過点だろう。

 これは4万ドル目前のNYダウも同じだ。

 しかし、この株価の上昇が景気の実感とは違うと感じている人は多いのではないだろうか。景気がよくないのに、株価だけが上がっている。そう感じている人が大多数だと思われる

 いったい、なぜこんなことが起こっているのか? 

 それを説明する前に、とりあえず日本経済の現状を見ておきたい。

■GDPではドイツに抜かれ、実質賃金はマイナス

 まずは、GDPである。2023年の数値はまだ確定していないが、予測値では実質GDP成長率は+1.5%とプラスである。また、政府発表の今年の成長率予測は+1.3%である。

 しかし、プラス成長とはいえ、2022年まではコロナ禍だったので、1%台ではむしろマイナスである。しかも、名目GDPでは、IMFの見通しでドイツに抜かれ4位に転落してしまった。

 さらに1人当たりの名目GDPで見ると、日本は3万4064ドルでなんとOECD加盟38カ国中21位。G7では最下位である。

 2月6日に厚労省から去年の実質賃金の発表があったが、それによると、前年比で2.5%減。名目では1.2%増えているものの物価上昇に追いついていない。そして、今年も春闘次第とはいえ、下がるのは確実だ。

 つまり、いまの日本はスタグフレーション下にあり、なぜ、こんな貧乏国で株価だけが上昇するか、メディアも専門家も明確に答えていない。

■経済指数をチェックしてもほとんど無意味

 一般的に株価は、景気や経済成長に連動して、上がったり下がったりするものと思われている。景気がよくて経済が成長していれば、企業業績も上がり、株価も上がるとされている。

 しかし、そんなことはもはやウソだと言うほかない。

 結論から言ってしまうと、景気がいい、経済がいいから株価が上がるわけではない。株価と実体経済とは、現在の金融資本主義においては連動しない。

 メディアや専門家が取り上げる経済成長率、景気動向指数、失業率、消費者物価などという「経済指数」をいくらチェックしても、ほとんど意味がない。

 また、PER、PBR、ROEなどを、こまめに見ていくことも、それほど意味がない。個別銘柄は別だが、平均株価はそんなことでは動かない。

■上がるという「期待値」によってさらに上昇

 株価が上がるのは、身もふたもない言い方だが、「買いたい人間が売りたい人間より多いから」のひと言に尽きる。現在、買いたい人間のほうが多く、金融緩和によるカネあまりが続いているので、今後も上がっていく。

 では、買いたい人間が多いということはどういうことだろうか? それは、「もっと上がる」と思っている人間が多いということである。つまり、「期待が膨らんでいる=期待値が高い」ということで、「期待値」こそが、株価が上がる最大の要因と言える。つまり、バブルである。

 私は、これまで、バブル崩壊を警告する記事を多く書いてきたが、その記事が崩壊の局面をピタリと当てた試しはない。いつ金融バブルが崩壊するか? そんなことは予測できない。だから、みんなが買っているときは、株価は上がる。

■日経平均を上げているのはほぼ4銘柄だけ

 株価の上昇で、一部メディアは日本経済が好調、景気がよくなったという報道をしている。これは、株価が実体経済を反映するという、すでに化石化した古い見方である。

 日本株の上昇は、NY株の上昇に引っ張られている、中国人が上海株から乗り換えている、新NISAで買い手が増えている----などと言われているが、それらは間違っていないとしても、日本企業全体が好調なわけではない。日本で好調なのは、一部の大企業だけだ。

 現在、上昇しているのは、全体の3割ほどの銘柄だけで、ほとんどが大企業である。日経平均の場合、その指数を構成する225銘柄のうち、実際には上位の22銘柄で半分のウエイトを占める。そのなかでも、ユニクロとソフトバンク、ファナック、東京エレクトロンの4銘柄が上がり続けていて、これが株価全体を牽引している。

 つまり、日本の株価には、実体経済の景気を左右する大多数の中小企業が含まれていない。

■バブル期とは市場状況も構成銘柄もまったく違う

 日経平均がバブル期の高値を超えたとしても、あの当時のような好景気はやって来ない。なぜなら、当時の日経平均といまの日経平均はほとんど別物だからだ。

 日経平均の構成銘柄のうち、バブル期と比べて3分の2以上が入れ替わっている。

 かつて、銘柄の入れ替えは、倒産企業が出たり、合従連衡で企業が消滅したりした場合に限定されていた。それが、1991年からはルールが変更され、流動性が低い銘柄を新興の成長銘柄と入れ替え、市場の新陳代謝を図るようになった。

 その結果、毎年のように入れ替えが起こり、かつては入っていなかった東京エレクトロンやファナックといったハイテク株が多く採用されるようになった。つまり、バブル後の最高値更新といっても、過去とは比較できず、日経平均の連続性はすでに失われている。

 しかも、いまの株式市場は「官製相場」である。日本企業の株を多く持っているのは、日銀とGPIF(年金)であり、この両者を合わせた公的マネーは、東証1部の4分の1にあたる474社で筆頭株主となっている。

 それにこの両者は株を売らない。したがって、市場は買い手のほうが多いから、株価は上がるしかない。

■「実物取引」と「金融取引」の二つの市場がある

 こう考えてみるといい。

 いまの市場には、二つの市場があると-----。一つは「実物取引市場」。ここは、需要と供給に基づく経済原則によって、モノやサービスの価格が決まる。もう一つは「金融取引市場」で、ここで取引される株や債券などの金融商品は、経済原則に左右されない。

 金融取引市場にいる投資家やトレーダーは、需要と供給に基づいて金融商品を取引しているわけではない。単に上がると思うから買うのだ。もちろん、この逆もある。

 もう一つ、これまでの金融緩和でおカネがあまっているので、買うということもある。日銀のマネタリーベースは異次元緩和により増え続け、2013年12月に193.5兆円だったのが、2023年12月には665.5兆円となっている。なんと、10年間で約3.4倍だ。

 さらに、株価は時価だから、上がればさらに買える。また、取引しなくとも、持っているだけで利益が出る。その利益は、実体経済の利益とは別物だ。

■バブル崩壊を政府が救済の繰り返し

 このように、金融市場は実体経済からどんどん乖離し、バブルは膨らんでいく。だから、風船が破裂するように、やがて崩壊する。しかし、これまで起こったバブルの崩壊は、政府が公的資金を注入してすべて救済してきた。

 最近では、2001年のドットコム・バブル、2008年のリーマン・ショック、そして2020年のコロナ・ショックと、ほぼ10年ごとに、崩壊したバブルはみな公的資金で救済されてきた。

 コロナ禍が始まった2020年3月16日、NYダウは、前営業日比で2997ドル安という過去最大の下げ幅を記録した。市場は総悲観となり、その後も下げ続け、とうとう2万ドルを割り込んで1万8591ドルまで下落した。これは、2月12日につけたそれまでの過去最高値2万9551ドルから1万ドル以上の下げで、下落率も36%を超えていた。

 日経平均も同じだ。コロナ禍が顕在化した2月後半から、連日下げ続けた。そうして3月19日、一時的に1万6358円を記録した。

 ところが、NY株も日本株も、この後、大反発して今日に至っている。その理由はあまりにも単純。政府が大規模な金融緩和を行い、マネーをばらまいたからだ。

■FRBは昨年も金融バブル崩壊を先送り

 バブル崩壊による暴落が起これば、政府と中央銀行が助けてくれる。これが何度も繰り返されてきたのだから、投資家は学習する。株を買うことはリスクがないも同然だと。

 いくら下がってもまた上がり、上値を更新する。そういうメカニズムが、政府によってつくられているのだ。

 たとえば、アメリカでは2022年から利上げが始まり、緩和(QE)から引き締め(QT)に転じたことで、市場に出回るおカネ、マネタリーベースは縮小した。だから、株価は下がってもいい。

 しかし、昨年3月にシリコンバレー銀行が突然破綻し、続いてシグネチャー銀行が破綻したとき、FRBはなにをしたか?

 FRBは時限措置として「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)」(FRBが金融機関を対象に米国債や住宅ローン担保証券を担保として最長1年の融資をする仕組み)というのを実施し、1度減らしたマネタリーベースを拡大させたのである。

 日本はといえば、いまだに空前の緩和を続けている。続けているというより、アベノミクスにより続けざるをえない状況に追い込まれてしまった。ここで緩和から引き締めに転じたら、なにが起こるかは明白だ。

■バブルの成否より崩壊の防止を議論せよ

 現在の株高による金融バブルは、いずれ崩壊する。問題は、その引き金となるのがなにかだ。アメリカの場合、3月でFRBの銀行救済措置「BTFP」が期限を迎えるが、これが引き金になるかもしれないと言われている。

 しかし、今年は大統領選挙の年だから、なにがなんでも崩壊を食い止めるという見方が強い。

 一方の日本のバブルは、もし崩壊局面になった場合、これ以上の緩和ができないので、どうなるのか予測ができない。

 もはや、次のバブルをつくり出せる力は残っていないと思われる。

 現在、いまの株高が「バブルかバブルでないか」という議論があるが、これほどバカバカしいことはない。そんなことは明白なのであり、議論すべきは、次のバブル崩壊をどうやって防ぐかだ。一般国民の負担をこれ以上増やすことなく、バブル崩壊を防ぐ。そんな名案が、はたしてあるのだろうか?

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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