富山北部・水橋が21世紀枠地区候補に。連合チーム初の甲子園が見えた?
「たとえば過去、富山からの選出例がない21世紀枠でのセンバツ出場もありうる……? 甲子園史上初の連合チーム、個人的にも見てみたい」
今月上旬発行の雑誌『ホームラン』への寄稿を、こう締めくくった。その連合チームが、富山北部・水橋である。秋の富山県大会に4強入りし、北信越大会では初戦負けながら、優勝する敦賀気比(福井)に善戦。雑誌発売時点では富山県の推薦校だった富山北部・水橋が11日、北信越地区の21世紀枠候補となったのだ。選出されるのは、9地区の候補校のうち3校。昨年、史上初めて9校の候補に名を連ねた高専の選出はならなかったが、今年も史上初めての連合チームの甲子園出場に、夢が広がる。
もともと富山北部は、1969年の春夏に甲子園に出場し、夏は富山勢では2番目になる2勝をあげて旋風を起こしている。その後は低迷し、2020年春に新生・富山北部として開校。正確にいえば連合チームは、旧富山北部の2年生2人、新富山北部の1年生13人、そして水橋の2年生2人という構成だ。水橋は83年、県内初の体育コースを設置して創立し、サッカーなどが全国大会で実績を残してきたが、県立校の再編で20年度から富山北部と統合。つまり、いまの2年生が最後の学年ということになる。
運だけではなし得ないミラクル
秋季大会には新旧富山北部単体でも出場が可能だったが、水橋には部員が2人しかいない。近年の成績では、19年夏に県4強がある水橋が上ながら、自動的に統合相手との連合で大会に出たわけだ。そのチームが、県ベスト4と躍進したのである。新生・富山北部も体育コースを受け継いだが、籍を置くのは13人の1年生のうち6人、そして水橋の1人だけ。つまり、新生県立校がスポーツで結果を残してアピールしようと、しゃかりきに有望な選手を集めるのとはちょっと事情が違うようだ。なにしろ、名門・富山商出身の富山北部・笹野祐輔監督はこういう。
「ホント、力がないですから。あるのは運だけです。秋の大会中は毎試合、グラウンドへの車中で"コールドは避けたいね"と部長と話していたくらいです」
転機になったのは、未来富山との県大会準々決勝か。2点リードされた9回にホームランで1点を追加され、0対3となったところで笹野監督は「正直、あきらめた」。ところが、である。その裏は打線の中軸・石崎幹卓のヒットから5連打と死球で同点とすると、さらに押し出し四球でミラクルなサヨナラ勝ちを収めるのである。これで富山北部・水橋は4強入り。県勢の連合チームとしては初めて、北信越にコマを進めた。帰りの車中で笹野監督と部長は、「また勝った。意味、わかんねえ」と首を傾げていたという。
なにしろ、笹野監督が赴任した19年春以降の富山北部は3学年で部員わずか14人、18年の戦績は春夏秋と初戦負けで、19年にしても夏と秋は初戦敗退だったのだ。「練習は1日2時間程度。試合も、やる前からあきらめムードでした」(笹野監督)。だが19年秋の新チームから、練習時間と素振りの量を増やすと、練習試合でも、健闘が目立つようになった。もともと「成功体験が少なく、ひとつの失敗ですぐに下を向く」(笹野監督)選手が多かったが、練習試合で手応えを得ると徐々に前向きに。すると、ユニフォームを一新した20年夏の独自大会は2勝。2回戦からという組み合わせにも恵まれてのベスト8入りは、02年以来、なんと18年ぶりのことだった。
「独自大会の2勝は3年生の力ですが、野球はなにが起きるかわからない。やればできるという自信がつきました」とは清水周道主将で、それが未来富山戦のミラクルなど、新チームにも生きているわけだ。
そして、21世紀枠の候補に。ただし、「もしこのまま甲子園に行かせてもらったとしたら、大変なことになる」とは笹野監督。この冬に鍛え直すつもりだ。果たして、連合チーム初の甲子園はなるのか……21年1月29日、センバツ選考会が楽しみになってきた。