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ひとり旅で失敗しないために……「ソロ温泉」に必要な3つの心構え

高橋一喜温泉ライター/編集者

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温泉が恋しい季節、ソロ温泉(ひとりでの温泉旅)の計画を立てている人もいるだろう。

ソロ温泉の最大の魅力は、忙しない日常や人間関係から距離を置くことで自分だけの時間をつくり、徹底的に心身を休めることにある。

だが、心の底からのんびり過ごすのは、案外難しい。現代社会には何事にもとらわれない「空白の時間」が極端に少ないからだ。何事も慣れないことを実行するのは簡単ではない。

ソロ温泉を満喫するには、徹底的に休むための勇気と覚悟が必要なのである。

ソロ温泉を満喫するには、勇気が必要だ。

ソロ温泉を心から愉しむには、覚悟が必要だ。

ソロ温泉で空白の時間を得るには、知恵が必要だ。

大仰な言い方だと感じるかもしれない。旅が大ごとであった大昔ならともかく、現代社会でのひとり旅に勇気や覚悟が必要だとは思えないだろう。

だが、現代社会において徹底的に心と体を休めるのは簡単ではない。いつも仕事に追われて、休日でさえもリラックスできない。スマホやネットを利用している限り、SNSや人間関係から逃れるのは難しい。暇さえあれば、スマホをいじってしまう人は多いだろう。

近年はテレワークの普及で、仕事とプライベートの境があいまいになり、ますます心が休まらないという人は少なくない。

ドイツ文学者で、温泉に関するエッセイを多数執筆している池内紀氏は、著書『ひとり旅は楽し』(中公新書)の中でこう述べている。

「のんびりするには勇気がいる。知恵がいる。我慢がいる。というのは、いまの世の中の構造が、人をせかし、動かし、引き廻して、お金を使わせるようにできているからだ。だから世の中の仕組みと知恵くらべするようにして、自分の旅をつくらなくてはならない」

本書は2004年の刊行だが、それから20年近く経った今は、その傾向はますます強くなっているのは間違いない。さらに池内氏は「年齢を重ねるほどのんびりするのは難しい」と続ける。

「年とともに、やたらに気がせく。せっかちになる。思えば若いころは、寝すごしたり、スッポかしたり、とんでもない気まぐれを起こしたり、なんとのんびりしていたことだろう!」

私にも心当たりがある。40歳手前になって、旅を愉しむ余裕が失われているように感じたことがあった。

予定していた電車やバスに乗り遅れてイライラし、雨が降るだけでツイていないと気分が沈む。楽しみにしていた温泉が臨時休業のため入れず、絶望的な気分になることもあった。

予定調和にならないのが旅の魅力のひとつでもあるのに、当時は自分の思い通りにならないことにいらだつことが若い頃に比べて増えていた。20代の頃はもっと「まっ、いいか」と流すことができていたように思う。

旅先で心の余裕を失えば、その旅の魅力は半減してしまう。そのことに気づいてからは、意識してせっかちにならないようにしている。

そのための手段のひとつが、ソロ温泉である。

仕事やSNS、人間関係と距離をとり、目の前の温泉に向き合う。いい温泉につかれれば、万事よしとする。そうすることで、非日常にどっぷりつかり、心の余裕を取り戻すことができる。

そうはいっても、仕事やSNS、人間関係といった日常から距離をとるのは簡単ではない。先述したように油断すれば、ついついスマホをいじって、SNSを見てしまう。仕事のメールが気になってしかたなくなる。

だからこそ、徹底的に休むための勇気や覚悟、知恵が必要になる。ソロ温泉の間は、日常から離れて、非日常を満喫すること。温泉に入ってのんびりすることに専念し、勇気と覚悟をもってスマホとも距離を置く。

そうして「空白の時間」を得られれば、忙しない日常に奪われた時間を自分自身の手に取り戻すことができる。それができたとき初めて、「ソロ温泉を満喫した」といえるのではないだろうか。

※この記事は2023年7月31日発売された自著『こだわるから、とらわれない―温泉が教えてくれた心地いい生き方―』(ICE新書 外部リンク)から抜粋・編集した上で掲載しています。

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3900超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)のほか、『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『マツコ&有吉かりそめ天国』『スーパーJチャンネル』『ミヤネ屋』などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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