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『水ダウ』&『大脱出』シリーズ・藤井健太郎Pの「笑い」の作り方

田幸和歌子エンタメライター/編集者
画像提供/©DMM TV 藤井健太郎氏

『水曜日のダウンタウン』(TBS系)などの演出・プロデューサーとして知られる藤井健太郎氏のプロデュース番組『大脱出2』が4月24日からDMM TVで独占配信されている。『大脱出』は、芸人たちがそれぞれ置かれた状況から脱出を試みる番組で、シーズン1は、安田大サーカス・クロちゃんが首まで土に埋まった状態で放置されたほか、トム・ブラウンはお菓子の家に、みなみかわとお見送り芸人しんいちは公衆電話のある部屋に、岡野陽一ときしたかの高野は真っ白な部屋に閉じ込められ、それらVTRをバカリズムと小峠が「見届ける」構図になっていた。

と思ったら、2のキービジュアルではやはりクロちゃんが埋まっている……。なぜ再び? シーズン2でチャレンジしたこと、藤井流の「笑い」の作り方、コンプライアンスとの向き合い方などまで藤井健太郎氏に聞いてみた。

画像提供/©DMM TV 
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「もともと埋める予定はなかったんですが、結果、『一応埋めとくか』みたいな(笑)」

――前作では、クロちゃんを首まで埋めることが企画の出発点だったそうですが、2でもやっぱり埋まっています。2をどんなものにしようという思いがあったのでしょうか。

藤井健太郎P(以下 藤井P) 2をどうするか考えたとき、キービジュアルになるような映像的にキャッチーなものはやはり必要だと思っていたので、その点も含めてクロちゃんが置かれている場所の設定から探っていきました。で、もともと埋める予定はなかったんですが、結果、「一応埋めとくか」みたいな(笑)。

――首まで埋めることについて、1で批判はありませんでしたか。

藤井P あまりなかったと思います。本当はあったのかもしれないけど、僕にはあまり届いていないですね。まぁ、テレビではないので、本人に怪我などがなくて心身が無事ならいいだろうというところもありました。それに、ビジュアルのインパクトは強いですけれど、クロちゃんが埋まっている部分って全体からすればそれほど多くを占めていないですし。ただ、そういった映像のインパクトは大事にしたかったので、今回も2話や3話のラストなどはサプライズも含め意識しました。

――あの画が現れたときにはゾワッとしましたが、ビジュアルイメージは藤井さんの頭の中で画として浮かぶんですか。

藤井P いや、わりとロジックですよ。2は1よりも、もう少し制限のある空間を舞台にしようと決めて、そこから個別にどういうシステムがいいか考えていきました。

――メンバーは1から続投の方も多いですが、どのように決めていったのですか。

藤井P シンプルに面白い人ということは大前提ですけれど、まずは部屋ごとに「やること」を決めてから、「この部屋にはこんな人が向いているよな」という当て込み方ですかね。

――さらば青春の光のお二人が物語を転がしていく展開になるのは、予定通りでしたか。

藤井P 今回は謎解き的な要素もわりとあるので、解いていく順番も必然的に決まってくる部分があって、そういう意味では想定通りですね。あの部屋の目線で進んでいくことになるのは分かっていたので、そこに誰を置くかは重要でした。そういう意味ではさらばへの信頼が大きいのかもしれません(笑)。

画像提供/©DMM TV 
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ストーリー性のあるドキュメントバラエティをやりたかった

――展開はある程度順当に進んだのですね。

藤井P 大きくは。でも、細かなところではもちろん想定外もありました。例えば、各部屋に同額のお金を配っていますが、みんなあんなにお金を隠すと思わなかったですし(笑)。でも、とにかく頑張るってこと以外にやりようも少ない中で、お笑い的にも「なんとか面白くしなきゃ」って考えると、その発想に至るのは理解できます(笑)。

――ハラハラするところも汚いところもありつつ、美しさを感じる部分もありました。

藤井P 脱出する過程でチーム感が出てきたりするのは、ワクワクすると思うし、そういうのが1時間のバラエティ番組では作れないグルーヴ感だと思います。あるところではいがみ合うけど、協力し合うこともある、そんなストーリー性のあるドキュメントバラエティは他にあまりないから、配信コンテンツを作るなら、そういったものがやりたいなと思っていました。昔作った3時間特番の『芸人キャノンボール』にも近いところがありますかね。当然、仕組みやパッケージはありつつですけど、その中で自由に動く芸人さんたちの感情が魅力になると良いな、と。長い時間をかけて行うので、ドキュメント要素も強いですし。

画像提供/©DMM TV 
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藤井さん、周りにドSと言われますか?

――『大脱出』シリーズも『水曜日のダウンタウン』(TBS系)も、ゲーム性の高い企画がたくさん登場します。設定や制限の仕方が絶妙だと思う一方で、芸人さんたちからは「頭おかしい」という声もよく出ていますよね。

藤井P ルール決めやそういった匙加減は、わりと得意かもしれないですね。過酷であるというだけじゃなく、出演者はもちろん、視聴者にもサプライズ要素があるものが好きなんだと思います。

――サプライズ的な仕掛けにご自身が慣れてしまったり飽きたり、行き過ぎてしまったりすることはありませんか。

藤井P 飽きてしまう部分もなくはないと思うんですけど、だからこそ新しく自分が楽しめるような仕掛けを考えるようにしています。行き過ぎるといっても、やれることには限界があるし、そんなに無茶をするタイプじゃないと自分では思っていて。怪我をする可能性があるような危険な企画はあまり好きじゃないんですけどね。

――物理的な危険性はなくても、そういう意地悪な発想はどこからくるんでしょうか(笑)。周りにドSと言われますか。

藤井P どうだろう……意地悪なところはあるのかもしれないですね。いじめっ子ではないけれど、子どもの頃からそういうことは思いつく方だった気がします。確かに、中学とかの同級生が僕の作っている番組を観たら「ああ、やりそうだな」と思うかも(笑)。三つ子の魂じゃないですけど、やっぱり得意なものは決まっているというか、自分が好きじゃなかったり得意じゃなかったりするものを、人よりうまくやれるってことは基本的にないと思うので。

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「自分が好きなものとか面白いポイントって、大人になってからそう変わるものでもないし」

――得意なものと得意じゃないものを、ご自身ではどう意識しますか。

藤井P 意識しなくても自然と自分に合う形に収まっていくとは思うんですよね。僕の場合でいえば、以前やっていた『クイズ☆タレント名鑑』はクイズ番組でスタジオ中心の展開だから、VTR中心の『水曜日のダウンタウン』とは番組の種類としては全然違う。でも、何故かトーン自体は近いんですよね。結局、1人が持っている面白さの芯の部分ってあまり幅がないんだと思います。そこにどういう装飾をつけるかなどでパターンは作れますけど。自分が好きなものとか面白いポイントって、大人になってからそう変わるものでもないし、中高生ぐらいのときにはもう固まっている気はしますね。

――『大脱出2』でやり残したことや、3があったらやってみたいことはありますか。

藤井P 2は1を踏襲する部分もありつつですが、ある程度やれることは詰め込んだ気はしていて。3もできたらやりたいですけど、今回で使い切っちゃったので、まだ全く思いついてないですね(笑)。

――コンプライアンスが厳しくなり、笑いの質や見る側の意識も変化してきていると思いますが、藤井さんはどう意識されますか。

藤井 僕自身も一応時代に合わせて変わっているとは思うんですよね。昔やっていた表現や面白がり方も、「今だったらこの言い方はしないな」とか「今これやったら、違うな」みたいに思うことは、多々ありますから。ただ、そこを意識的に変えているというより、社会に触れている中でその温度を感じながら、自分の感覚も自然にアップデートされていっているイメージです。やりづらさや難しさを感じる部分ももちろんありますが、時代の空気を感じながら、制限の中で新しく生まれてくるものも楽しんでいる感じですね。

(田幸和歌子)

エンタメライター/編集者

1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌・web等で俳優・脚本家・プロデューサーなどのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。エンタメ記事は毎日2本程度執筆。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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