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2畳の部屋に小窓だけ。俳優・奥田圭悟が「漢江ツイスト」に込めた韓国での2カ月半

中西正男芸能記者
「クレイジーケンバンド」の「漢江ツイスト」をカバーした俳優・奥田圭悟

 5月に「クレイジーケンバンド」の「漢江ツイスト」をカバーし、歌手としての顔も見せる俳優・奥田圭悟さん(34)。映画「空母いぶき」、BS-TBS「水戸黄門」などでも存在感を見せていますが、原点となったのは韓国での苛烈な2カ月半でした。

3日前の告知

 ありがたいことに「クレイジーケンバンド」さんとはご縁がありまして。

 ライブにも行かせていただいたりする中で「漢江ツイスト」を聞いた時に、衝撃を受けたんです。ミュージカル出演のため、韓国に行った時のことが一気に思い起こされまして。

 歌詞の内容や曲の雰囲気もありますし、何と言っても、ボーカルの横山剣さんの声も相まって、全てが自分の心に刺さったというか。その瞬間から「いつか機会があるなら、この曲を歌ってみたい」。そう思うようになったんです。

 韓国でのミュージカルがあったのは2016年。公演期間としては10月27日から11月18日だったんですけど、その1カ月半ほど前に韓国に渡りました。

 ただ、僕が韓国でのお仕事があることを知ったのが日本を発つ3日前でした(笑)。事務所の社長から連絡を受けて「こういう話があるので、3日後から韓国に行ってほしい」と言われまして。

 事務所としても、実は水面下でスケジュールを調整したり、いろいろと手を尽くしてくれていたようなんですけど、僕は全く知らなかったことだったので、ただただ「エッ!?」という感じで(笑)。

 以前出演した韓国の舞台があって、それは日本でやったものだったんですけど、その公演を韓国の演出家の方が見てくださっていたと。それをきっかけにオファーをいただいたそうでして。

 すごくありがたい流れではあるんですけど、とにかく急な話だったので、バッグ一つ持って飛行機に飛び乗った感覚でした。前々から、少しは韓国語の勉強をしてたんですけど、日常会話もままならない感じで。そんな状況で韓国での生活が始まりました。

台本1ページに5時間

 けいこ期間や移動などが1カ月半くらい、本番が約1カ月。2カ月半ほど韓国にいたんですけど、住んでいたマンションは2畳ほどの大きさで、ベッドと小窓があるだけ。テレビはなかったです。風呂も共同で。ただ、共有の冷蔵庫がありまして、そこにキムチはたくさん入っているんです。なので、ご飯とキムチは食べ放題というオプションはついていたんですけどね(笑)。

 ただ、けいこに入っても、こちらの韓国語のレベルがそんな感じなので、スムーズには進みませんでした。こちらが聞きたいことは何とか文章を組み立てて話したとしても、向こうから返ってくる言葉が分からない。耳が慣れていないし、聞き取れない。一方通行なコミュニケーションになってしまってました。

 あと、台本も韓国語なんですけど、だいたい、1ページを翻訳するのに、最初は5時間くらいかかりました。5時間かけて翻訳して意味を理解した上で、それを覚える。そして、ミュージカルなので、歌もたくさんあるので、曲も覚えないといけない。寝る時間以外は、ずっと舞台にかかりきりでした。舞台以外のことは、本当に何もしない2カ月半でした。

 でも、大変と思ったことは正直なかったんですよ。帰りたいとも思ったことはないですし。そこで、改めて「やっぱり、自分は芝居が好きなんだな」ということを再確認できました。

 そうやって迎えた初日。この時の感覚は色濃く残っています。地方の会場だったので、早朝に出演者みんなでバスに乗って。一つずつ、韓国風の海苔巻き、キンパを朝ごはんとしてもらうんですけど、アルミホイルを取って、食べながら車窓を見る。

 改めて「遠いところまで来たな」という思い。そして、けいこを経て「やっとここまで来たか」という思い。そんな思いが交錯したのを明確に覚えているからこそ、剣さんが歌う「漢江ツイスト」がすごく心に響いたんです。

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「いいぞ、好きにやれ」

 そして、ありがたいことに実際にカバーをさせてもらえるようになった。ただ、歌うとなったら、何か自分の経験や心情を乗せて歌わないといけないなと。剣さんのマネをしても当然かなわないし、それでは自分が歌わせてもらう意味もないですし。

 だからこそ、自分の思いを乗せて歌おうと思ったんですけど、剣さんからも「いいぞ、好きにやれ」と言っていただきまして。それでより一層、踏ん切りがつきました。

 それと、ミュージックビデオを撮らせてもらったんですけど、その場所が実際に「クレイジーケンバンド」さんが歌われていた、横浜のライブハウス「FRIDAY」でして。実際に剣さんが歌ってらっしゃった場所で撮影させてもらったのは、何とも言えない喜びがありました。

 韓国での時間を経て、自分の中での変化もありました。それまでは、何事も構えるというか、慎重に物事を進めるタイプだったんです。よく言えば慎重、悪く言えば臆病というか。でも、韓国での舞台を終えてからは「取りあえずやってみよう」という考えになりましたね。まずは一歩を踏み出してみる。

 あと、さらに自分を後押ししてくださったのがドラマ「クロスロード」(NHK BSプレミアム)でご一緒させていただいた舘ひろしさんでした。

 舘さんとは1シーンのみの絡みだったんですけれど、刑事役の舘さんに、僕が罪の告白をするという場面だったんです。

 心情の揺れみたいなこともあるシーンで、監督にいろいろと相談をしたりもしていたんですけど、そんな僕を見てくださっていたのか、舘さんがサラッと言ってくださったんです。「自分が思ったとおりにやれば、キミは絶対に大丈夫だから」と。

 長い言葉ではなかったんですけど、舘さんに言われるとすごく重みがあったといいますか、スッと肩の荷がおりたといいますか…。今でも自分の指針として、その言葉は心に深く刺さっています。

 どんなことも、全て無駄ではない。もし、つまづいたとしても、苦労しても、うまくいかなくても、それは未来の自分にとってプラスである。これまでの時間で、それは強く感じてきました。

 …ま、ただ、3日前というのは、さすがに驚きましたけどね(笑)。ただ、その分、今の大きな糧になっているのは間違いないです。

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(撮影・中西正男)

■奥田圭悟(おくだ・けいご)

1986年3月14日生まれ。神奈川県出身。Megu Entertainment所属。身長184センチ。 2010年から舞台を中心に活動し、15年、東京グローブ座にて「MORSE」に出演。日本テレビ「花咲舞が黙ってない」、テレビ朝日「警視庁・捜査一課長」、BS-TBS「水戸黄門」などドラマにも多数出演。19年にはファーストシングル「永遠の約束」をリリースするなど、音楽活動も展開。今年5月には「クレイジーケンバンド」の「漢江ツイスト」をカバーして配信。8月25日にはファーストDVD「Stories」を発売する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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