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北欧フィンランドのファッションウィークが、最先端だと話題の理由

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
ヘルシンキ・ファッションウィークはなぜ特別? Photo:Asaki Abumi

19~22日、北欧フィンランドの首都で、ヘルシンキ・ファッションウィーク(Helsinki Fashion Week、以下HFWと省略)が開催された。

ここでは、従来のファッションウィークとは異なる点がある。

レザーやファーを使用するコレクションの参加は、今年から一切禁止されているのだ。

世界初、100%サステイナブルなファッションウィーク?

ブランド各自がファーの使用を控える動きはあるが、ファッションウィーク自体が規制をかけることは珍しい。「世界初」ではないか、ともいわれている。

大手ブランドよりも、新しく立ち上がった、小さなイノベーション的なブランドのほうが、主催者側の厳しい条件をクリアしやすいようだ。

それだけではない。

ファッションウィークといえば、モデルやインフルエンサーが主流。

しかし、HFWでは、ファッション業界の変革を望む人たちが集まり、たくさんの議論の場が設けられていた。

驚くほど、「勉強会」の要素が強かったプログラム。言語は英語 Photo: Asaki Abumi
驚くほど、「勉強会」の要素が強かったプログラム。言語は英語 Photo: Asaki Abumi

「(良識にかなった)エシカルとサステイナブルなファッションを考えるための、国際会議」という印象を、私は受けた。

会場の壁には、「光合成をして空気をきれいにする」藻類のバイオカーテンを使用 Photo: Asaki Abumi
会場の壁には、「光合成をして空気をきれいにする」藻類のバイオカーテンを使用 Photo: Asaki Abumi
ゴミの分別も徹底 Photo: Asaki Abumi
ゴミの分別も徹底 Photo: Asaki Abumi

気候変動や環境、工場で働く労働者の待遇改善のために、わたしたちには何ができるか?

ファッション雑誌、ショップ、インフルエンサー、消費者。でも、服を縫う労働者はどこ?業界が隠してきた労働者とその生活環境を、まっすぐみつめようと訴える Photo: Asaki Abumi
ファッション雑誌、ショップ、インフルエンサー、消費者。でも、服を縫う労働者はどこ?業界が隠してきた労働者とその生活環境を、まっすぐみつめようと訴える Photo: Asaki Abumi
  • 消費者は、情報に透明性があるブランドをより支持するようになっている
  • 自分たちの買う服が、どのような過程で製造されたのか、企業側が隠す姿勢は問題あり
  • 服は毎日洗う必要はない。もっと低い温度で洗うことだって可能
  • 批判だけではなく、エシカルファッションのために努力しているブランドを讃える風潮も必要
  • 必要でないなら、服を無駄に買わないほうがいい
  • もっと古着を着よう
  • 消費者ひとりひとりに力がある。大企業に呼び掛けていくことが大きな変化に
  • 問題に気づきながら、動こうとしない人にマインドセットを変えてもらうには?
  • 環境のための規制があったほうが、デザイナーの創造性はより増す
世界各国から集まった来場者たちは、真剣に意見を交わし合っていた Photo: Asaki Abumi
世界各国から集まった来場者たちは、真剣に意見を交わし合っていた Photo: Asaki Abumi
フィンランドのブランドVeera Konga Photo: Asaki Abumi
フィンランドのブランドVeera Konga Photo: Asaki Abumi
HFWは自国ブランドのPRにはこだわっていない。サステイナブルであれば、どの国も応募可能。今年はアジアが多かった。写真は韓国のOpen Plan Photo: Asaki Abumi
HFWは自国ブランドのPRにはこだわっていない。サステイナブルであれば、どの国も応募可能。今年はアジアが多かった。写真は韓国のOpen Plan Photo: Asaki Abumi

創業者であるエヴェリン・モラ(Evelyn Mora)さんを取材した。

フィンランドのファッションはおだやかに成長中

「フィンランドのファッション業界は、ゆっくりと成長しています。業界がサステイナブルな方向へ変わりつつあると、デザイナーたちは実感しており、国際的なレベルへ自分たちを高めようと努力しています」

「サステイナブルな変革をしようとする時、ファッション業界だけが変わろうとしても意味はないのです。エネルギー、水、技術、小売り業など、さまざまな方面と深くつながっているから」

来場者がペットボトル飲料をできるだけ買わないように、フィンランド政府が飲み場を提供。「マイボトルを持ってきて」と呼びかけられた。会場外にはソーラーパネルが設置され、古着を使用したアートオブジェも Photo: Asaki Abumi
来場者がペットボトル飲料をできるだけ買わないように、フィンランド政府が飲み場を提供。「マイボトルを持ってきて」と呼びかけられた。会場外にはソーラーパネルが設置され、古着を使用したアートオブジェも Photo: Asaki Abumi

「消費者が求めるようなサステイナブルな服を探し出すことのできるバイヤー。サステイナブルなデザインを取り上げるメディアが、より必要になってきます」

「そうでなければ、大企業が態度を変えてくれるような影響力を、新しいタイプのデザイナーたちは持つことができません」

高級ファッションブランドばかりに注目しがちな、わたしたちの態度も、変わっていく必要があるとモラさんは語る。

ブランドネームで評価される時代は終わり

「今までのわたしたちは、質ではなく、ブランドの名前にお金を払ってきた傾向がある。正直、フィンランドには高級に属する価格帯のブランドはないと思っています。でも、質は高級ブランドに負けてはいないと私は思いますね」

「業界を代表する大手ブランドは、もっと責任をもつべきだと思います」

「もう肩書やブランドネームで評価される時代ではなく、人は言動やメッセージに集まる」

会場で使用されていた紙コップは100%バイオ・コンポスト可能 Photo: Asaki Abumi
会場で使用されていた紙コップは100%バイオ・コンポスト可能 Photo: Asaki Abumi

若い人のファッション意識に変化

「若い世代は、以前のように安い服ばかりに夢中なのではなく、サステイナブルなファッションをもっと勉強しようとしています」

完全にサステイナブルな人などいない、みんな勉強中

「100%サステイナブルな人なんていないんです。だから、大企業は問題を口にすることを怖がる必要はない。ファッション業界は、次のレベルへといく時代にきています」と話すモラさん。

・・・・・

北欧ノルウェーのファッションウィークは、欧米の従来型ファッションウィークを真似ようとする傾向があるが、フィンランドはさらに先を進んでいた。

HFWは、「いいね!」の数を気にする広告インフルエンサーや人気カメラマンの招待にも強いこだわりはないようだった。

労働者や地球環境に配慮した、新しい方向性を模索する。

北欧らしいやり方で、業界に新しい刺激を与えそうな予感を、現場からは感じたのだった。

Photo&Text: Asaki Abumi

写真・文:あさきあぶみ(鐙 麻樹)

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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