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「プッシーボウで男根社会を終わらせよ」オンナだけでは変えられぬ セクハラ廃絶せねばオトコが立たぬ

木村正人在英国際ジャーナリスト
抗議の「プッシーボウ」をして辞任したダニウス事務局長(写真:ロイター/アフロ)

財務事務次官の破廉恥発言

[ロンドン発]財務省の福田淳一事務次官(58)が18日、テレビ朝日の女性記者にセクハラ発言をした問題で辞任しました。権力あるところにセクハラあり。官僚の中の官僚である財務事務次官ともあろう者が、というより官僚組織の最高幹部という権力者だからこそ、あんな破廉恥な発言ができたと言えるでしょう。

セクハラを告発した女性記者の落ち度を探すのは的外れもいいところですが、日本と同じようにファロクラシー(男根統治=男性が支配する社会)が強く残るイタリアでも告発されたオトコより告発したオンナが好奇の目にさらされ、非難されるそうです(イタリアTV局の女性ジャーナリスト)。

世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート 2017」によると、日本は144カ国中114位。振り向けば中東、アフリカ諸国というのが現状です。イタリアは日本よりは随分マシで82位。筆者が暮らすイギリスは15位。

しかしジェンダー先進国の北欧スウェーデン(5位)でも信じられないようなセクハラ・スキャンダルが発覚しました。これまでにもエントリーしているノーベル文学賞を選ぶスウェーデン・アカデミー(定員18人)を舞台にしたセクハラ・スキャンダルです。

セクハラと言えば「お遊び」「お触り」「破廉恥な言動」程度の軽い印象を受けてしまいますが、強制性交(レイプ)、強制わいせつを構成する犯罪です。動かぬ証拠を押さえたら警察に届けるべきです。ホモセクシャルの被害もあります。問題の根底にはパワー(権力)とマネーがとぐろを巻いています。

フリーランスの筆者にはできないセクハラ

たとえばフリーランスの筆者がセクハラをしようと思ってもできません(もちろん、したくもありませんが)。パワーともマネーとも無縁の生き方をしているからです。

これに対してアカデミー会員の女流詩人カタリーナ・フロステンソン氏(65)の夫でフランス出身の文学サロン監督ジャン・クロード・アルノー氏(71)が20年にわたってアカデミー会員や会員の妻や娘、職員計18人に行っていたセクハラは凄まじい内容です。

地元の主要紙ダーゲンス・ニュヘテルに昨年11月、実名と顔を出した4人を含む18人が後ろ姿や手で顔を隠した写真を掲載して、○○を強制されて頭部を押さえつけられ恐怖のあまり嘔吐したり、彼氏と一緒にいるのにいきなり股間に手を入れられて弄られたりした様子を克明に告発したのです。

こうした性的暴行はアカデミーの施設だけでなく、ノーベル賞晩餐会で半ば公然と行われていました。

女性ジャーナリスト、伊藤詩織さんが安倍晋三首相に近い著名な男性TVジャーナリストにレイプされたと告発しましたが、男性は同意があったと主張し、不起訴になりました。セクハラ発言の音源が存在するにもかかわらず、福田氏はセクハラを真っ向から否定。アルノー氏も性的暴行のすべてを全面否定しています。

共通しているのはセクハラの被害者は仕事やネタを与えてくれる権力に逆らえず、性的行為を強要された(詩織さんの場合は昏睡中にレイプされた)と主張しているのに対し、セクハラの加害者は女性の自主的な「同意」があり、何の問題もないと思い込んでいることです。

パワーとマネーを分散させよ

スウェーデン・アカデミーは年50近くの賞を授与しており、大手出版社、王立ドラマ劇場、王立音楽アカデミー、王立美術アカデミーとも強い絆を持っています。アルノー氏はスウェーデン・アカデミーなどの資金で運営する自らの文学サロンで講演会や読書会、演奏会、舞踏会を仕切る文化界の最高実力者でした。

セクハラ、つまりは権力の乱用をなくすにはパワーとマネーを分散させ、組織を透明にする必要があります。権力者はこれに徹底的に抵抗します。初の女性事務局長としてセクハラを追及、アカデミーの改革派に取り組んできたサラ・ダニウス事務局長(56)が12日、信任投票の結果、辞任に追い込まれました。

背景にはセクハラ・スキャンダルをウヤムヤに済まそうとする守旧派8人組とウミを出し切ろうとする改革派ダニウス氏らの深刻な対立がありました。守旧派8人組が牛耳るようになったスウェーデン・アカデミーが極秘に会合を持った19日、ストックホルムやヨーテボリなどスウェーデンの主要都市で抗議集会が開かれました。

ダニウス氏が辞任時にしていた「プッシーボウ(リボン結び)」をし、スウェーデン・アカデミーに抗議して会員全員の辞任を求める女性や同性愛者が集まったのです。「プッシーボウ」には男性が着用する「ボウタイ」に対して女性という意味が込められています。

カール16世グスタフ国王はスウェーデン・アカデミーの憲章を改正して終身制を解こうとしていますが、ダニウス氏を辞任に追い込んだ守旧派8人組を含むアカデミー会員全員が辞任してゼロから出直さないとノーベル文学賞の信頼と権威は回復できそうにありません。

プリンセス物語と決別を

今年はイギリスで女性参政権が認められてから100年。20世紀初頭「サフラジェット」と呼ばれるイギリスの女性参政権闘争をリードした女性闘士エメリン・パンクハースト(1858~1928年)のひ孫で女性運動家ヘレン・パンクハーストさんからお話をうかがったことがあります。

ヘレン・パンクハーストさん(筆者撮影)
ヘレン・パンクハーストさん(筆者撮影)

――100年前の女性参政権運動はフェミニズムの第一の波と言われています。1960年代のアメリカ公民権運動とベトナム反戦運動に合わせて起きたウーマン・リブが第二の波。米ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏のスキャンダルに端を発する「#MeToo」運動をどう位置づけますか

「今、フェミニズムは第四の波(筆者注:1970年代以降に多様化したフェミニズムが第三の波と言われる)を迎えています。若い女性が自信を持ってフェミニズムを推し進めています。女性参政権運動から100年経ちましたが、#MeToo運動と多くの共通項があります」

「サフラジェットと政府の関係は暴力に行き着きました。#MeToo運動との共通項は、『もう、たくさんだ』ということです。女性が集まり、『私たちは変えることができる』と言って社会概念を変えようとしているのです」

――プリンセス(王女)やマーメイド(人魚姫)物語の未来はどうなるのでしょう

「11歳の少女がプリンセスやマーメイドになるより宇宙飛行士か科学者、スーパーヒーローになることを夢見ていると話してくれたことがあります。私はこの話が大好きです。しかし少女たちが何時間も何時間も見たり読んだりしている映画や小説の大半はプリンセス物語です」

「書籍の統計を見ても私たちの文化がプリンセスという文脈に支配されていることが分かります。少女が宇宙飛行士や科学者になるストーリーは本当に限られています。女性たちが望む、ありとあらゆる職業に就けるようになるまでは私たちはもっともっと闘わなければなりません」

――ファロクラシー(男根統治=男性が支配する社会)はいつ終わると思いますか

「もし今の動きをあと10年続けることができたら、2028年にはイギリスで男女同権を確立させることができるでしょう。その時、私たちはファロクラシーに終止符を打つのです。それが私たちのゴールです」

財務事務次官を告発した女性記者に賛同する人々はまずスウェーデンの女性や同性愛者のように「もうたくさんだ」という明確な意思表示を行うべきです。

女性が出産と育児に追われる時はキャリアを中断しなければならないことがファロクラシーの源泉になっています。女性記者は財務事務次官のような権力者の夜回りや朝駆けはすぐに止めて、どうすればパワーとマネーが男女平等に分散される社会を実現できるのかを考えて報道すべきだと思います。

(おわり)

参考:「あと10年で男根支配を終わらせる」女性闘士パンクハーストのひ孫が語る#MeToo(私も)と女性参政権の100年

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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