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佐藤康光九段(49)、羽生善治九段(48)は五十歳名人となれるか?

松本博文将棋ライター
(2008年、復位を決めた直後の羽生善治名人:撮影筆者)

史上最年長名人の可能性

 2019年度の順位戦が始まりました。A級の開幕カードは6月12日の佐藤康光九段(49歳)-久保利明九段(43歳)戦。深夜、日付が変わった後にまで続く大熱戦は、佐藤九段の勝ちとなりました。

 佐藤九段は1998年、28歳で名人位に就くなど、タイトル獲得数は通算13期。永世棋聖の資格も持ち、数々の実績を残した超一流棋士です。現在は将棋連盟会長として重責を担い、多忙の日々を送る一方で、プレイヤーとしても第一線で活躍を続けています。2017年度のA級順位戦ではプレーオフにまで進出し、久々の名人戦登場まであともう少し、というところまで勝ち進みました。

 2019年6月現在、佐藤九段はA級最年長の49歳。10月1日に誕生日を迎えると、50歳になります。

 佐藤九段がもし今期A級で優勝して名人挑戦権を獲得し、七番勝負で豊島将之名人(現在29歳)に勝つと、史上最年長での名人戦制覇となります。

 1935年に実力制名人戦が開始されて以来、50歳の時点で名人位に就いていた「五十歳名人」は、米長邦雄名人ただ一人だけです。

 49歳11か月での名人戦七番勝負制覇(1993年)。

 50歳11ヶ月での名人在位(1994年)。

 以上が米長名人が残した、現在にまで残る最年長記録です。

 1994年。米長名人は羽生善治挑戦者(当時23歳)に2勝4敗で敗れ、名人の座を去ります。

 それから25年過ぎました。羽生善治現九段は48歳。現在は佐藤康光九段(49歳)に次いで、A級では2番目に年長です。

 羽生九段は今年2019年、9月27日の誕生日を迎えると49歳となります。来年、もし名人に返り咲けば、米長邦雄永世棋聖の記録に次ぐ年長記録を達成し、50歳での名人在位を記録できる可能性があります。

歴代名人の年齢

 ここで過去のデータを見てみましょう。名人戦を制した棋士は、当時何歳だったのか。

(表作成:筆者)
(表作成:筆者)

 木村義雄名人時代の一部の例外(挑戦者なし、戦争による中止)をのぞいて、名人戦最終局が終わった日の年齢です。

 平均は35歳9か月ぐらい。歴代のトップ棋士たちが最も充実していたのは、そのあたりの年齢と言ってよさそうです。

 「米長邦雄は49歳11ヶ月で初めて名人になったが、これは最年長名人記録として破られることはあるまい」

 河口俊彦八段は著書『大山康晴の晩節』(2003年)でそう記しています。「五十歳名人」がいかに至難な業かはデータ上でも明らかであり、河口八段の説も十分にうなずけます。

 ただし、黄金世代が歳を重ねた現在の状況からすれば、どうでしょうか。佐藤康光九段や羽生善治九段がその記録を更新できる可能性は、十分ありそうにも思われます。

名人挑戦の史上最年長記録は63歳!

 「六十歳名人」を標榜していた升田幸三九段は、1971年、53歳で名人戦七番勝負に登場します。待ち受けていたのは48歳の大山康晴名人。かつて「史上最高のライバル」と言われた両者による、最後の名人戦となりました。

 升田挑戦者は革新的な新戦法「升田式石田流」を披露。歴史的な妙手△3五銀を見せるなど、将棋史上屈指の名シリーズとなりました。結果は4勝3敗で大山名人が防衛。升田九段にとっても最後の挑戦となると同時に、大山名人にとっても最後の名人防衛でした。

 ちなみにその15年後の1986年。大山康晴15世名人は、またもや大記録を打ち立てます。それが63歳という、名人挑戦最年長記録です。

 1984年、将棋連盟会長としても、また現役棋士としても多忙をきわめていた大山15世名人は、ガンに侵されていることがわかり、一年間の休場を余儀なくされます。

 翌1985年度に復帰したものの、A級順位戦では体調的にも、また年齢的にも降級が心配されました。しかし結果は下位どころか、同率で最上位タイ。名人挑戦権を争うプレーオフでは、当時のトップ棋士である加藤一二三九段、米長邦雄十段を連破しています。

 そうして1986年、大山15世名人は名人戦七番勝負で中原誠名人(当時38歳)に挑戦しました。結果は1勝4敗での敗退。しかしガンを克服しての63歳名人挑戦が偉業であることに変わりはなく、社会的な感動を呼びました。

 さすがに63歳での名人戦登場は・・・。「鉄人」とも「超人」とも言われた大山15世名人にしか達成できないような、空前絶後の記録という感じもします。

 しかし15年後、あるいはもしかしたら・・・。

 豊島将之名人(44歳)に佐藤康光永世棋聖(64歳)が久々の挑戦!

 藤井聡太七冠(31歳)と羽生善治永世七冠(63歳)が名人戦5度目の対決!

 そんなニュースヘッドラインが踊るような未来が、ないとは限らないかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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