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若者と大学とお金:教育現場で感じる「今どきの学生」

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■大学とは

当Yahoo!ニュース個人でも、ここのところ大学や学費、奨学金、就職や生涯賃金などに関する記事がいくつもアップされています。

高校生には、本当に自分にあった進路を見つけて欲しいと願っています。言うまでもなく、大学だけが進路ではありません。でも、大学進学を希望し、事情が許すなら、ぜひ大学へ来てほしいと思います。大学はすばらしいところです。ただし、お金はかかります。

■進学率

四大短大への進学率は約55%。専門学校などを含めると、70%の人が高校卒業後にさらに上の学校を目指します。学ぶことはすばらしいことですが、これだけ多くの人が進学するということは、その事情も多様です。

トップクラスの大学は、世界をリードする研究者を輩出したり、日本を背負って立つような人材を養成したりしています。そこまでいかなくても、県庁や県内優良企業に就職する多くの人々を養成している大学もあります。そうでなくても、各地方の各分野で活躍する有能な人材を育てている地方の大学もたくさんあります。

全国模擬試験での偏差値が高くなくても、存在意義のある学校も多くあるでしょう。ちなみに、東京の四年生大学進学率は7割、東北や九州のいくつかの県では3割台、新潟などは4割台です。

東京にいると、「みんなが大学へ行く」と感じるでしょうが、まだ地方では、特に女子は、四大にいく意識の低いところもあります。たとえば鹿児島県の女子の四大進学率は29.2%です(2015)。かつて高校進学率の地域格差が大きかったように、大学進学の地域格差はまだ大きいといえるでしょう。

■高校卒業での就職

高校卒業で就職する生徒達をみていると、とても優秀な生徒が多いように感じます。公務員として現場に来る18歳をみると、なおさら優秀だと感じます。成績優秀でしっかりしていないと、公務員試験はもちろん受かりませんし、大手への就職も難しいでしょう。

偏差値がそれほど高くなく、就職希望の生徒が多い高校もあります。そのような高校では、先生方がとても熱心に指導しています。主要5科目の指導だけではなく、きちんと採用してもらえるように、3年間かけてしっかり教育しているように感じます。また就職希望者が多い高校は、就職先も開拓していますし、良い就職指導をしていると思います。

■大学進学する人々とその家庭

30年前の全国の大学進学率は3割ほどでした。ですから、学力や経済力がある程度ある人々が進学していたでしょう。ところが今は、事情が違います。

かつて高校進学率が上がっていくにつれて「せめて高校だけは」と親が考え、高校進学を渋る子どもに「お願いだから高校に言ってちょうだい」といったことを言っていましたが、それが現在は大学進学でも見られます。

「せめて大学だけは」と親が考え、親にお願いされて大学進学する生徒もいます。希望しても進学できない人から見れば、とんでもないですが、東京ではずいぶん以前から見られたことでしょう。

半分以上が大学進学するとなると、経済的にも厳しい家庭からも進学します。子どもが小さいころから子ども保険に入って積み立てしたり、教育ローンを借りたり、奨学金を利用し、学生達はアルバイトをしています。

大学進学率が上がる一方、全国の四年制大学の4割が定員割れしています(幸い私の勤務大学は定員を満たしていますが)。かなり学力が低くても入れる大学もあります。優秀な人は昔も今も優秀ですが、今の大学生は多様です。様々な大学があり、様々な大学生がいます。

高校を卒業して、この生徒はとてもじゃないけど就職などできない。専門学校へ行くほどの具体的就職希望もない。しかたがないので大学へ行かせる。そんな話も聞きます。

そんな大学や大学生に存在意義があるのかという議論もあるでしょうが、18歳よりは22歳の方が成長して社会に出ることはできるでしょう。

かつての高校では「高校は義務教育ではない。だから、やる気のない生徒は去れ」といったセリフも良く聞かれました。今はそんな言葉は死語かもしれません。現在では大学が、学力がかなり低くても、様々な心理的問題を持っていても、何とか面倒を見ようとするところも現れています。

現在、義務教育学校では、発達障害は大きなテーマです。高校では、心ある進歩的な学校がこの問題に積極的に関わっています。大学では、これからの取り組みが期待されています。

■大学と授業料

私立の大学では、授業料未納者の問題は大きな問題です。ただし、それが教授会で話題になったり、具体的な学生氏名が上がるかどうかは、学校によるでしょう。

先に紹介した大学というブラックビジネス~の記事では、「保護者のまったくのミスで授業料を払い忘れ、退学になった例」が紹介されていますが、私が関わってきた大学では、ちょっと考えられません。

期日までに支払いがなければ、督促状が行きます。それでも支払いがなければ、さらに複数の督促状が行き、さらに事務担当者が個別に話すことになり、それでも問題が解決しないと、小規模大学なら学生部長など担当教員が面談することもあります。

多くの大学が授業料の支払いに関しては、相談に乗ってくれます。学生便覧には明記していなくても、分割払いを許すところも多数あります。支払いがないまま進級させる場合もあるでしょう。さすがに支払いがないまま卒業証書を渡すことはないと思いますが、決して簡単に除籍するようなことはしないでしょう。

授業料支払いに困っている学生や保護者の方は、ぜひ大学に相談してみてください。

■奨学金に対する考え方

数十年前にくべれば、奨学金は借りやすくなっています。借りる必要のある学生も増えています。20年前は奨学金を利用している学生は2~3割でしたが、現在は5割です。奨学金のおかげで大学へ通えている学生も多いでしょう。その代わり、利子がつくようになりました。

上で紹介した記事へのコメントの中には、安易に奨学金を借りる学生が悪いという意見もありました。たしかに、そのような学生もいるでしょう。しかし、必要があるのに借りない学生もいます。

奨学金の借金で大変だという報道は、ずいぶんなされています。本当は奨学金を借りて、しっかり勉強したほうが良いのに、返済不安が高すぎて借りようとしない学生もいます。もちろん、必要のない有利子の借金をすることはありませんが。

■大学進学とお金

大学進学のために、奨学金があります。また、借りるのではなくお金がもらえる様々な給費生制度もあります。いくつもの大学で、成績優秀者への入学金免除や、授業料の減免制度などもあります。成績とは無関係に、経済的困窮者対象を対象とした授業料減免制度もあります(私の勤務大学にもあります)。

必要な情報が十分に伝わっていないこともあるようです。お金のことで悩んでいる進学希望者は、ぜひ調べてみてください。

■今どきの大学生

もちろん、「今どきの大学生」として全体を語れません。学力も経済力も将来への希望も現在の生活も、実に多様です。苦学している学生もいます。ところが苦学している学生達が、意外と充実した学生生活を送ったりもします。

アルバイトをして、ボランティアをして、授業にも卒論にも熱心に取り組む。そんな大学生もたくさんいます。そんな彼らが、ブラックバイトに苦しむことなく、大変でも楽しい大学生活を送れるように支援していきたいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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