2児が「放置死」 炎天下の車内で15時間 母親が逮捕~「親になる」とはどういうことか
26歳の母親が6歳と3歳の姉妹を約15時間40分にわたり車内に放置して熱中症で死亡させたとして、保護責任者遺棄致死容疑で香川県警に逮捕されました。
残念なことに、親に放置された子どもの悲劇は後を絶ちません。そこで、このような痛ましい事件が起きないように、今回は親になるとはどういうことを意味するかを民法の観点から改めて考えてみたいと思います。
いつから法律上の親子関係は成立するのか
まず、親子関係はどのようにして成立するのか見てみましょう。法律上の親子関係が成立するのは母子関係と父子関係では次のように違います。
母子関係の成立
民法には、法律上の母子関係に関しては、婚外子につき「認知することができる」という規定しかありません(民法779条) 。
民法779条(認知)
嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。
現在の判例・戸籍実務では、妻が婚姻中に妊娠した子および妻が婚姻後に出産した子を「嫡出子」(ちゃくしゅつし)とし、そうでない子は「嫡出でない子」としています。
母子関係は「出産の事実」で発生する
しかし、判例は、嫡出でない子について「母子の関係は分娩(=出産)の事実によって当然に発生する」とされました(最高裁判決昭和37[1962]年)。この「分娩者=母」というルール(「分娩主義」)は、嫡出子にも該当するとされています。
父子の関係の発生
一方、父子の関係は、妻が婚姻中に妊娠した子は、夫の子と推定されます(民法772条1項)。
民法772条1項(嫡出の推定)
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
この規定は、「母が婚姻中に妊娠した子の法律上の父は、母の夫と推定する」という父子関係の推定規定です。
しかし、実際のところ妻が婚姻中に妊娠したことを証明するのは簡単ではありません。そこで民法は、婚姻成立の日から200日を経過した後、婚姻解消の日から300日以内に出生した子は、婚姻中に妊娠したものと推定するとしています(民法772条2項)。この「200日」「300日」という数字は、医学的統計に基づくものです。そのため、未熟児・過熟児のような推定が働かない場合は、個別に婚姻中に妊娠したことを証明しなければなりません。
以上は血縁に基づいた親子関係ですが、養育の意思に基づいて成立する養子があります。
親子間の権利義務
法律上の親子関係が成立すると、法的な権利義務が親子間に発生します。民法は、現実に子の身の回りの世話をする監護教育権と、子の財産を管理したり、子に代わって法律行為をする親権、そして、親権者を欠く場合には後見人を選び、子への援助に漏れがないように規定しています。加えて、子を養育するのに必要な費用、つまり経済的な援助を扶養として構成しています。
こうした子の保護を私人ですべて負担することは困難であるし、また適任ではない場合もあります。このような場合に備えて、国や自治体が社会保障としてあるいは学校教育として援助する制度が設けられています。
では、親権者の権利義務について見てみましょう。
親権者の効力
未成年の子は親権に服します(民法818条1項)。両親が婚姻中は、両親が共同して親権を行使し、離婚等で父母の一方が親権を行使できない場合は、他方の一方が行使します(同条3項)。
民法818条(親権者)
1.成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2.子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3.親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
そして、親権には、大きく分けて身の回りの世話に関する身上監護と財産に関する財産管理権の2つがあります。以下、詳しく見てみましょう。
1.身の回りの世話(身上監護)
監護教育権
親権者は、子の利益のために子の監護および教育の権利を有し、義務を負います(民法820条)。
民法820条(監護及び教育の権利義務)
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
子の成長と発達を援助し、育成をする基本的な権利と義務です。なお、親権者は自分の勝手都合に合わせるような恣意的に子の監護教育をしてはなりません。
親権者が子の監護教育を適切に行わない場合
親権者が子の監護教育を適切に行わない場合には、その程度に応じて親権停止・喪失や父母以外の者を監護者に指定するなどの対応が用意されています(民法834・834の2)。また、公的な関与として都道府県等(児童相談所)が保護者を指導したり、その子を里親に委託したり児童福祉施設に入所させるなどの措置をとることがあります。
職業許可権
子は、親権者の許可を得なければ、職業を営むことができません(民法823条)。 未成年者がアルバイトをする場合にも、親権者の許可が必要です。親権者は、いったん許可を与えても、子がその職業に耐えられないと判断するときは、許可を取り消したり、制限することができます(同条2項)。
民法823条(職業の許可)
1.子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。
2.親権を行う者は、第六条第二項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
2.財産管理権
財産管理権
親権者は子の財産を管理します(民法824条)。この管理行為の対象となる財産は、未成年の子に属する一切の財産となります。
民法824条(財産の管理及び代表)
親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
注意義務
親権者は、財産管理権を行使する際には、自己のためにするのと同一の注意義務を負います(民法827条)。
民法827条(財産の管理における注意義務)
親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行わなければならない。
そして、子が成年に達すれば、親権は終了し、財産管理権も消滅します。
このように、親子関係が成立すると法律上親子間に権利義務が生じます。この権利義務は子どもの健やかな成長を守ることを基盤としています。
忙しい日常生活で親子関係について立ち止まって考える機会はほとんどの方はないと思います。だからこそ、子どもをもうけるということの意味を、民法の観点から今一度考えてみてはいかがでしょうか。子育てについて新たな視点を得るきっかけになるかもしれません。
最後になりましたが、亡くなられたお子様のご冥福を心よりお祈りいたします。