細部まで手の込んだ職人技に感嘆「一炉庵」さんの見目麗しい重陽の節句の上生菓子で楽しむ菊の美しさ
9月9日は重陽の節句。まだまだ馴染みが薄い節句ではありますが、一年の中で最も大きな数字且つ最後の節句ですので、大切に伝承していきたいところ。
その重陽の節句は、いわゆる「長寿祈願」にあたり、かつてはこの節句のあたりに見頃を迎えていた(現在は9月下旬から11月上旬が見頃と言われています)菊の花にまつわる料理やお菓子を口にすることで、健やかに年を重ねていけるよう願いを込めたといわれています。
東京都文京区、かつて文豪も愛し現在も長年のファンから和菓子の職人さんまで沢山の人から愛される名店「一炉庵」さんでは、二十四節気ごとに意匠を変えて目も舌も楽しませてくれる上生菓子が揃うのですが、重陽の節句には欠かせない菊の上生菓子が数種類揃っています。
今回はその中から定番の「着せ綿」とオリジナリティ溢れる「菊畑」をご紹介。
ふわりと柔らかな薄紅色の菊の花に被せられた綿の如く、上下から一筋ずつ丁寧に刻まれた花弁のスラリとした筋と、繊細なきんとんの対照的なタッチにも心惹かれる一炉庵さんの着せ綿。
紅色(薄紫色)の菊の花には白い綿を被せるのは、慶事を連想させるためと言い伝えられています。
思わず両手で掬いあげたくなる程繊細な金団はさらりと、まとまりが良く舌先でゆっくりと溶かしていくとあっという間にその細やかな粒子に心奪われる練り切り餡とその中に潜むこし餡。心穏やかになれる練り切りです。
そしてもう一つ。一炉庵さんの上生菓子のシリーズで季節ごとにデザインを変え何度か登場する寒天のお菓子。
ポップな花柄、と一言で形容するのは勿体ないどころではない程手が込んでいるのです。薄い羊羹を型でくりぬき、それをひとつひとつバランスを考えながら配置していき寒天液を流し込む…いずれも全て手作業でありながら、規則正しくなるよう配置するという。ただ並べるだけではなく、わずかな隙間や向きなど感性が問われます。
まろやかで海藻特有の臭みなどはいっさい無い錦玉羹に加わる仄かな羊羹の甘味、ぷるんと軽やかな弾力、そしてその中には抹茶をあわせたしゅわりと泡沫のように溶けていく淡雪羹。そこへ静かに沈む小豆。抹茶の香りも損なわれず、スンと鼻から抜ける清涼感と仄かな苦味は、朝露を纏った瑞々しい菊の花を連想させるよう。
来年も、また来年も、こうして美味しく見目麗しい菊のお菓子と出会えるよう健やかに年を重ねていきたいですね。
最後までご覧いただきありがとうございました。
<一炉庵>
東京都文京区向丘2-14-9
03-3823-1365
月曜~金曜 9時~18時(土日祝~17時)
定休日 火曜