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2018年アメリカ中間選挙 4つの法則と今回の注目点

前嶋和弘上智大学総合グローバル学部教授
2018年米中間選挙 まもなく投票日(写真:ロイター/アフロ)

 11月6日に迫ったアメリカ中間選挙は直前まで「上院:共和党多数、下院:民主党多数」となる見方がかなり優勢だ。その背景を「法則」と今回の注目点ともに分析する。

(1)アメリカ中間選挙とは

 その前段階としてアメリカの中間選挙について少し説明したい。

 中間選挙は2年に一度の議会選挙であり、下院(任期2年)は435人全員改選、上院(任期6年)100のうち3分の1が改選となる(今回は引退議員分2を合わせて35が改選となる)。11月6日は、同時にあわせて州知事選、市長、教育長、州裁判官、保安官などの選挙もあり、大統領選挙を除いて様々な選挙が一気に行われる一大選挙日だ。今年の場合、州知事50州のうち今回は36州が改選となるほか、米領(グアム、北マリアナ諸島、バージン諸島)の知事選も行われるように大きな選挙となっている。

(2)なぜ重要なのか

 トランプ政権の「中間テスト」としても重要な選挙である。現在は上下両院とも多数派は共和党であり(大統領とあわせて共和党の「統一政府」)だが、民主党が上下どちらかの議会で多数派となると「分割政府」となり、政治が確実に滞る。国会だけの日本のねじれと異なり、大統領もかかわるため、ねじれ具合も大きい。

 議会の多数派党が変われば、下院の場合は議長も変わるほか、どの政策を優先的に取り上げていくかを決める委員長職も変わる。民主党が上下両院のいずれかで多数派を奪還すれば、大統領の望む政策を優先しないようになる。このように政策運営そのものが大きく様変わりする。

 オバマ政権の時が明らかだった。就任して2年間は上下両院とも多数派は民主党で、「統一政府」だったため、オバマケア、大型景気刺激策、ウォール街改革という3つの大きな法案を民主党主導議会とともに成立させていった。しかし、2010年の中間選挙で共和党が下院の多数派を奪還すると、その後は全くといっていいほど、オバマ大統領が望むような政策が立法化されなかった。2010年中間選挙後からの6年間、オバマ政権は「レームダック化」したようなものだった。

 2014年中間選挙では上院も共和党が多数派を奪還した。これによってオバマ政権の政治任命職(連邦裁判所、大使など)の任命は大きくとまる。2016年2月に死去した最高裁のスカリア判事後任候補に任命したガーランド氏の任命承認は共和党側が全く受け付けなかった。

 国内政治が動かなければ、大統領が優先的に動かすことができる外交にも影響が出る。2013年8月、反政府市民に毒ガスをまき、明らかに「レッドライン」を超えたはずのシリア・アサド政権への制裁をオバマ政権が寸前のところで見送ったのは、戦費を危惧する共和党主導議会(特に下院)に配慮するものだった。

(3)中間選挙の4大法則と今年の注目点

「中間選挙の法則1」:大統領の政党はかなりの確率で議席を失う

 大統領に対しての"疲れ"というのがあり、中間選挙で大統領の政党は1934年以降、平均して下院で30、上院で4議席を減らしている。大統領の政党が議席を増やすのは、例外的であり、中間選挙で大統領の政党が議席を伸ばしたのは同年以降、3回しかない。はっきり議席を伸ばした2回には、世界恐慌からの復興(1934年)、ナインイレブン、アフガン報復直後(2002年)といった明らかな原因がある。もう1度の1998年選挙の場合、好景気とクリントンの性的スキャンダル追及疲れ(1998年)が原因で民主党が下院5議席のみと微増だった(上院は増減なし)。

 大統領選挙の年に当選した下院議員には、コートテール現象(便乗現象)もあり、大統領が飽きられるのと同時に弱くなる「逆コートテール」現象がある。

今年の注目点

 今年の選挙の場合も下院では「逆コートテール」現象もみえる。共和党候補に比べ、民主党側の候補者にはかなり多くの選挙資金が集中している。民主党の方が資金も熱意も関心も高く、「いま投票するなら共和党か民主党か」といういわゆるジェネリックボートではトランプ政権発足以来、常に民主党が10ポイント以上も差をつけてきた。下院は現在、共和党235対民主党193(7人欠員)であり、42議席差(つまりオセロゲームにたとえれば21の差)。民主党は勢いに乗って、この差をひっくり返すことができるかどうか。

 一方で、上院の方は、オバマ大統領の2期目の再選(2012年)に同時に多くの民主党議員が当選したため、6年後の今年は「逆コートテール」現象になる可能性もある。今年の場合、上院改選35のうち、26が民主党(無所属だが民主党と統一会派2を含む)である。上院は共和党51、民主党49(統一会派の無党派2を含む)と共和党が2議席差で多数派であり、民主党が多数派を奪還するのは、51議席(50対50の場合、副大統領が1票入れることになるため、50の場合は共和党が多数派を維持する)が必要である。つまり、民主党は26議席を全部死守したとしてもさらに3議席を共和党から奪わないといけない。そのため、民主党がかなり不利となっている。これが「上院での共和党有利」の議論の根拠となっている。

「中間選挙の法則2」:そもそも極めて低い投票率

 そもそも中間選挙の投票率は4割以下である(しかも党内の代表を決める予備選挙は2割以下)。前回4年前の中間選挙の投票率は36.4%だった。

 60%を割る大統領選挙よりもさらに20ポイントほど低い。日本の去年の衆議院選挙の投票率は、53.68%であり、「戦後2番目に低い」といわれるが、アメリカの中間選挙に比べると格段に高い。

 投票率が低い理由には、様々な理由がある。アメリカには住民登録制度がないため、選挙人名簿を作成するためには、有権者自身が事前に有権者登録を行う必要がある。さらに、近年は期日前投票が増えているものの、選挙は憲法に定めているように休日でなく、平日の火曜日である。また、上院も下院も現職の場合、再選率は9割を超すため、選挙を行う前から結果が予測できる選挙区が多く、「行かなくても結果は変わらない」と思う有権者も数多い。さらには刑務所に収監されている人物の投票を禁じている州がほとんどであるほか、有罪者の投票を禁じる州もある。

 いずれにしろ、低い投票率の中で、ものをいうのは、投票に向かう熱意である。前述の2010年の中間選挙ではティーパーティ運動がオバマ政権の進める「大きな政府」に強く反発し、共和党を押し上げた。

今年の注目点

 トランプ大統領に対する「怒り」が民主党側の今回の選挙の根底にある。「me too運動」とともに、承認公聴会での判事のカバノー氏に対してのセクハラ疑惑も民主党側の追い風になっている感もある。テネシー州出身のテイラー・スウィフトがカバノー氏を支援する共和党候補ではなく、民主党候補を支援することで注目されたのと同時に、若者の有権者登録が広がっている。

 一方で、中米諸国から移民キャラバン問題に対してトランプ氏の強硬な姿勢を支援する声も少なくない。共和党支持者にとって、これがトランプ氏支持(民主党の穏健な政策に対する怒り)をたきつける可能性もある。

「中間選挙の法則3」: 現職は極めて有利だが、現職不在は激戦

 上述したように、上下両院の再選率は9割以上であり、現職がいるところで「風は吹く」ことは多くはない。しかし、現職なし(新人どうし、新人対元職、元職対元職)は大きな変動がある。

今年の注目点

 今回は下院で共和党の引退、上院や州知事選への鞍替えが40人と民主党の倍であり、下院は「風は吹く」可能性がある。これが「下院での民主党有利」の議論の根拠となっている。

 辞める共和党議員をみると穏健派が目立っているほか、重要な委員会の委員長中心である。少数派になるよりも役職のまま引退したい議員も数多い。ライアン下院議長の引退は代表的である。

「中間選挙の法則4」: 経済が常に最大の争点(だが、今回は?)

 選挙の争点は常に景気である。景気は絶好調だ。9月の失業率は3.7%と1969年12月以来、48年9カ月ぶりの低水準である。法則1で「大統領の政党はかなりの確率で議席を失う」としても、98年のように通常なら大統領の政党が議席を増やしそうにも見える。

今年の注目点

 興味深いことに、今年の場合には景気が必ずしも最大の争点とは断言しにくい。様々な調査によると、中間選挙のカギとなる争点は「移民」「医療保険」「銃規制」の3つが「経済」と同列の大きな争点となっている。

 ただ、共和党側と民主党側とはそれぞれの争点の意味が異なる。

 移民対策については、メキシコとの国境での壁建設方針も、共和党支持者は「犯罪者やテロリストが入国するのを防ぐ」とみるが、民主党支持者は「移民の国のアメリカの理念に反する」と強く否定する。また、医療保険について、共和党が昨年の税制改正で非加入者への課税を撤廃し、オバマケアの柱である加入義務づけを骨抜きにしたがこれについては、共和党支持者が賛同し、民主党支持者は強く反発している。銃規制については、フロリダ州パークランドでの銃撃を生き延びた若者たちが規制強化を働きかけ、NRA(全米ライフル協会)から献金をもらっている候補者の落選運動を進めている。一方で、武器の保有は憲法修正第二条で認められている権利であるため、共和党支持者からは規制に強い反対がある。

 移民対策とオバマケア廃止はトランプ大統領主導の政策であり、銃を持つ権利擁護は大統領が強くこだわっている。

 その意味で「トランプ的なもの」が問われる選挙となる。

(4)2人のリーダーの熱烈な応援演説の向こう側

 共和党支持者の熱烈なトランプ大統領支持は全く変わっていない。中間選挙で大統領が遊説をすることはここ10年くらい前から始まったが、トランプ大統領の頻度は過去にない多さである。遊説を繰り返し、自分が出ない選挙でも共和党支持者の投票率を上げることで下院の状況を変えたいというのが大統領の狙いだろう。

 一方で、民主党支持者のトランプ大統領に対する嫌悪に似た感情も全く変わっていない。前の大統領が中間選挙の遊説をするのも異例だが、オバマ氏は全米を周っている。

 2人のリーダーの応援演説の向こう側には「トランプ的なもの」をどうみるかという評価がある。

 選挙の実際の結果がどうなるか。中間選挙の雌雄を決めるは「トランプ的なもの」への有権者の親和性かもしれない。

上智大学総合グローバル学部教授

専門はアメリカ現代政治外交。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(北樹出版,2011年)、『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』(小学館、2022年)、『アメリカ政治』(共著、有斐閣、2023年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著,東信堂,2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著,東洋経済新報社,2019年)等。

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