【さあ、お前の罪を数えろ!】時を経て繋がる2つの風!仮面ライダーとプリキュアが巻き起こした大旋風とは
みなさま、こんにちは!文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
寒さが身に染みる日々が続きますが、皆さまいかがお過ごしですか?
さて、今回のテーマは「風」です。
突然ですが、皆さまは「風」と聞くと、何を思い浮かべますか?
燦々と輝く太陽の下で、肌身に感じる心地よい風を思い浮かべる方もいれば・・・
自動車や船等の乗り物に乗りながら、肌身に感じる風を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。
地球という惑星において、生き物が生命活動を通じて肌身で感じているのが「風」。
「風」は生物に恩恵をもたらしてくれるほか、時には台風となって人々の生命や暮らしに大損害をもたらすこともあります。
そんな捉え方によって様々な顔を見せる「風」ですが、私達が暮らす日本で誕生したアニメ・特撮ヒーロー番組に登場したスーパーヒーロー達は、この凄まじい風の力を使って、悪と戦い、人々の自由と暮らしを守り続けた者達が数多くいました。
そこで今回は、東映株式会社制作の特撮ヒーロー番組である『仮面ライダー』シリーズ、そして東映アニメーション株式会社制作の『プリキュア』シリーズに登場した2人の「風」のヒーローの活躍に焦点を当ててみたいと思います。
※本記事は「私、ヒーローものにくわしくないわ」という皆様にも気軽に読んで頂けますよう、概要的にお話をして参ります。お好きなものを片手に、ゆっくり本記事をお楽しみ頂けますと幸いです。
また本記事における各原作者の表記ですが、敬意を表し「先生」という呼称で統一をしております。本記事を通じてはじめてアニメ・特撮ヒーロー番組に触れる方もいらっしゃいますので、ご配慮を頂けますと幸いです。
【サイクロン!ジョーカー!!】アニメ、漫画、舞台と多方面で大活躍した2人で1人の仮面ライダー、仮面ライダーWとは何者か?
さて、まずは東映の仮面ライダーシリーズに焦点を当て、「風」の力で戦ったヒーロー、仮面ライダーW(ダブル)についてお話をしたいと思います。
お話の本題に入る前に、少しだけ仮面ライダーシリーズについてご紹介をさせてください。
仮面ライダーは、漫画家・石ノ森章太郎先生の原作で生み出された特撮ヒーローのことです。1971年にシリーズ第1作『仮面ライダー(1971)』の放送が開始され、主人公・仮面ライダーが悪の秘密結社ショッカーによって改造手術を施されて、バッタの能力を持った大自然の使者・仮面ライダーとなり、毎週ショッカーが送り込む恐ろしい怪人と戦う物語が展開されました。
放映当初は怪奇色が強かった『仮面ライダー(1971)』ですが、2人目のヒーローである仮面ライダー2号が作品に登場した回(第14話)以降は、徐々に成績を伸ばしはじめ、最高視聴率30%を記録する人気番組へと成長を遂げるようになります。
さらに仮面ライダー2号の登場に伴い、はじめて「変身」の掛け声と共に特定の動きを行う変身パフォーマンスも披露されるようになりました。
その結果、『仮面ライダー(1971)』は国内で社会現象的な大ヒットを巻き起こすことになりました。その後、次回作『仮面ライダーV3(1973)』や『仮面ライダーBLACK RX(1988)』等の昭和の仮面ライダーシリーズを経て、『仮面ライダークウガ(2000)』から『仮面ライダージオウ(2019)』までの平成仮面ライダーシリーズ等、世代を跨ぎながらテレビシリーズは継続され、現在は『仮面ライダーガッチャード(2023)』が放送されています。
そんな半世紀以上の長い仮面ライダーシリーズの歴史において、非常に普遍的なキーワードであったのは「風」でした。
仮面ライダーシリーズの原作者である石ノ森章太郎先生は、バッタを自然の象徴と捉え、自然破壊に立ち向かうヒーローを構想していきながら、風力エネルギーで動く風車機構を備えたベルト、落下するキック力で敵を粉砕するという、跳躍力のあるバッタというモチーフを生かした設定をヒーローに組み込んでいきながら、仮面ライダーを構想したというエピソードが残されています。
その結果、「大自然が遣わした正義の使者」として仮面ライダーは誕生し、バッタという異形の仮面を被ったスーパーヒーローの活躍は子ども達に強烈なインパクトを与え、その後も同じくバッタの容姿をした仮面ライダー達が幾度も登場することになりました。
そんなバッタというモチーフの傍ら、仮面ライダーの動力源となったのは「風」をはじめとする大自然のエネルギーでした。風の力をベルトに宿し、バッタの跳躍力で悪者と戦う仮面ライダーの活躍は、時代の変遷を経て現在まで描かれ続けています。その中でも特に異彩を放っていたのは、2009年放送の『仮面ライダーW(ダブル)』でした。
『仮面ライダーW(2009)』は、風の吹く架空の街・風都を舞台に、半人前(ハーフボイルド)の私立探偵・左翔太郎と地球の全ての知識にアクセスできる頭脳派の少年・フィリップが2人で1人の「仮面ライダーW」となり、この街を泣かす犯罪を引き起こす悪の組織「ミュージアム」が生み出す怪人(ドーパント)から、愛する風都を守る物語。
エコロジー都市・風都という街が舞台であること、さらに主人公・仮面ライダーWは変身ベルトに、地球の記憶を宿した2本のUSBメモリ(サイクロンとジョーカー)を差し込んで、高速の風と共に変身する描写が取り入れられる等、歴代仮面ライダーの中でもとりわけ「風」の要素が強く反映されており、初代仮面ライダーの持つ懐かしさと、新時代ならではの新しさがベストマッチした作品でした。
この『仮面ライダーW(2009)』ですが、大衆的な支持を獲得することに成功し、その人気は上々。テレビ放送や映画公開に留まらず、複数のスピンオフ作品が製作された他、近年は『仮面ライダーW(2009)』の続編として漫画化された『風都探偵』が好評を博してきた上、本作のアニメ化や舞台化も行なわれる等、現在まで次々と派生作品が発表されています。
『仮面ライダーW』という1つのテレビ番組が、映画、オリジナルビデオ、続編漫画、アニメ、舞台と、ここまで多種多様に展開され続けるようになった事例は、長い仮面ライダーシリーズの歴史上はじめてのことで、今後もまだまだ『仮面ライダーW(2009)』が巻き起こした風(サイクロン)は、日本をはじめ世界でも吹き荒れていくことでしょう。
【時を経て繋がる2つの風!】最強の0歳プリキュア!紫の風の戦士・キュアアースとは何者か?
さて、ここからの章は、東映アニメーション制作のプリキュアシリーズに登場した「風」に縁のあるプリキュア・キュアアースをご紹介したいと思います。
彼女のお話に入る前に、少しだけプリキュアシリーズについて概説をさせてください。プリキュアシリーズは、東堂いづみ先生の原作で2004年に放送が開始された東映アニメーション制作の『ふたりはプリキュア』を起点とするアニメシリーズです。
『ふたりはプリキュア(2004)』は、ベローネ学院(中学校)のラクロス部のキャプテンでスポーツ万能な女の子、美墨なぎさ(キュアブラック)と、成績トップで科学部部長の優等生、「うんちく女王」の雪城ほのか(キュアホワイト)がタッグを組み、伝説の戦士・プリキュアとなってドツクゾーン(敵組織)と戦う物語。
「女の子だって暴れたい!」というキャッチコピーのもとで誕生した『ふたりはプリキュア(2004)』は大ヒットを記録し、『ふたりはプリキュア Max Heart (2005)』や『ふたりはプリキュア Splash Star(2006)』と派生作品が次々に放送され、以降も『Yes!プリキュア5 (2007)』、『ドキドキ!プリキュア(2013)』、『スター☆トゥインクルプリキュア(2019)』と世代を跨ぎながらシリーズ化されるようになりました。
現在はシリーズ第20作『ひろがるスカイ!プリキュア(2023)』が放送中であるほか、第21作『わんだふるぷりきゅあ(2024)』の放送も予定されているプリキュアシリーズですが、今回お話するのはシリーズ第17作『ヒーリングっどプリキュア(2020)』です。
『ヒーリングっどプリキュア(2020)』は「生きること」をテーマに、2020年から2021年までの約1年間、全45話が放送されました。
本作は、4人の少女達が4体のヒーリングアニマルと心を合わせ、「伝説の戦士・プリキュア」となり、地球を我が物にしようと企む病魔の集団「ビョーゲンズ」から、地球を守る(お手当)する物語でした。
本作が放送された2020年は、新型コロナウイルス(COVID-19)の国内での感染が拡大し、47都道府県を対象とした緊急事態宣言の発令等、人間とウイルス(病気)との長い戦いが始まった年。また『ヒーリングっどプリキュア(2020)』はコロナ禍の影響を受け、約2ヶ月間の放送中断等、プリキュアシリーズにおいて初めての大きな困難に直面した作品でもありました。
奇しくも、『ヒーリングっどプリキュア(2020)』の物語は、地球を脅かす病魔とプリキュア達が闘う物語。偶然にも、現実の世界とプリキュアの世界観がリンクするという、極めて珍しい事態が発生していたのです。そういう意味では、感染拡大によって世の中が閉塞した空気感に苛まれる中、病魔と戦う少女達を描いた『ヒーリングっどプリキュア』は、病気への恐怖で自由を束縛された人々の心をお手当するために、正に現れるべくして現れた運命的な作品といっても過言ではないと思います。
そんな『ヒーリングっどプリキュア(2020)』ですが、本作には4人のプリキュアが登場します。中学2年生の花寺のどかが変身する「花」のプリキュア・キュアグレース(桃)、のどかの同級生でしっかりものの沢泉ちゆが変身する「水」のプリキュア・キュアフォンテーヌ(青)、のどか達と同じクラスで可愛いものが大好きな平光ひなたが変身する「光」のプリキュア・キュアスパークル(黄)・・・
最後に、本章の主人公である風鈴アスミが変身するのが、「風」のプリキュア・キュアアースです。
この風鈴アスミ(キュアアース)、『ヒーリングっどプリキュア(2020)』の物語の途中(第19話)より登場したキャラクターであり、他の3人より年上な印象の女性ですが・・・実は、彼女は人間ではありません。
実は、他の3人のプリキュアがビョーゲンズ(敵)との戦いで窮地に陥り、さらにプリキュア達と一緒に戦っていた犬のラテの身に危険が迫ったことで、ラテの母親(ヒーリングガーデンの王女・テアティーヌ)の祈りが地球に届いた結果、地球が誕生させたのが風鈴アスミ(キュアアース)でした。
つまり彼女は・・・見た目は大人ですが生まれたての0歳。さらに地球が生み出した精霊と呼ぶべき存在でした。
このキュアアースは「風」のプリキュア。パンチやキックといった徒手空拳に加え、空気や音の力を用いた攻撃を得意とし、なんと必殺技はハリケーンを発生させるという(技名:プリキュア・ヒーリングハリケーン)、他の3人と比較しても強力なプリキュアだったのです。
しかしこの見上げるような実力の傍ら、彼女には致命的な問題点がありました。それは「人間界の常識が壊滅的になかった」ことでした。「地球は自分の家ですので」と主張して道路で寝ようとしたり、食事の際に箸が上手く使えず白目をむいたり、いざ食べ物を頬張れば「はじめて食べ物を口にした」と発言し、周囲を仰天させたり、さらには交通ルールが分からず赤信号で渡ろうとするといった珍騒動を次から次へと引き起こしてしまったのです。
羅列するとまるでトラブルメーカーですが、見た目は大人でも彼女は生まれたての赤ちゃんのようなもの。無知なのも無理はありません。そんなアスミに寄り添い、人間界の常識を教えたのは、同じくプリキュアのメンバーである花寺のどか(キュアグレース:桃)でした。
アスミがのどかの家に居候することになったのをきっかけに、2人一緒に行動する時間が生まれ、のどかはアスミに人間社会のルールを教えていきます。時には傷をつくることさえありました。そんなのどかにアスミは問います。
「なぜのどかは、わたくしのために尽くしてくださるのですか?プリキュアだからですか?疲れているのに、色々お世話をしてくれたり、わたくしのために怪我までして、それでも笑顔で説明をしてくれたり・・・のどかは、そういう風に生まれたのですか?私は、ラテをお守りするために生まれたように・・・」(アスミ)
「ううん。違うと思う。私ね、色んな人にたくさん助けて貰って、今こうやって元気でいられるの。それで、私も色んな人を助けたいって思うようになったのね。だから・・・そういう風に生まれたんじゃなくて、経験して変わったんだと思う。」(のどか)
また、のどかをはじめ他のプリキュアやヒーリングアニマル達との交流を通じて、アスミは精神的にも成長していきます。もともとアスミはラテ(犬)を守るためにこの世に生を受けた存在であるため、ラテだけを守れればそれで良いという考え方でしたが、次第に「みんなで一緒に地球を守る」、「みんなが暮らす街を守りたい」と思うようになります。
「皆さんのことも、この街のことも、わたくしには守るものが増えたのです」(キュアアース)
また人間社会に溶け込んでいくことで、アスミは「好き」「かわいい」「寂しい」「悔しい」といった気持ちを次々と学び、感情豊かに成長を遂げていきました。
そんなアスミの成長は、やがて大きな通過点を迎えることになります。それは一緒に暮らしている花寺のどか(キュアグレース:桃)のストレスでした。
実は、プリキュア達と敵対する悪の組織「ビョーゲンズ」の幹部のひとり(ダルイゼン)は、病気を患った幼少期ののどかの体から生まれた存在であることが発覚し、責任を感じたのどかはあせる気持ちを抑えられなくなります。
のどかの異変に気がついたのは、同じ屋根の下で暮らすアスミでした。そんな中、
敵(ビョーゲンズ)が現れるとキュアグレースは身の安全も顧みず、唐突猛進に挑みます。しかし、それはグレース自身を傷つける行為でした。そんなグレースに、キュアアース(アスミ)は向き合い、優しく問います。
「グレース・・・どうして焦るのです?・・・自分でも、焦っていると気付いているのでしょう。」(キュアアース/アスミ)
「だって、だって・・・私がダルイゼンをつくり出しちゃったから。そのせいで地球が・・・だから、私がなんとかしなきゃ、もっと頑張らなきゃ・・・」(キュアグレース/のどか)
「グレースは、テラビョーゲン(ダルイゼン)をつくりたいと思ったのですか?」(キュアアース/アスミ)
「そんなこと・・・思わないよ。」(キュアグレース/のどか)
「そうです。あなたはそんなこと望みませんよね。金森さんの風邪と同じです。」(キュアアース/アスミ)
キュアアースはグレースの手を取ります。
「あなたのせいではありません。だから、自分を責める必要は無いのです。」(キュアアース/アスミ)
キュアアース(アスミ)はグレース(のどか)に「ダルイゼンが誕生してしまったのは風邪と同じ。自分を責める必要は無い」と、のどかの気持ちにより添います。これは、かつてのアスミでは考えられないことでした。アスミはプリキュア達と共に生きたことで、人間社会を学ぶだけでなく、彼女の感情も大きな成長を遂げていたのです。
その後、4人のプリキュア達は激しいビョーゲンズとの戦いを乗り越えていき、時に悩み苦しみながらも、ついにビョーゲンズの首領(キングビョーゲン)を消滅(浄化)させることに成功します。
戦いを終えたアスミは、パートナーであるラテ(犬)をこれからも守っていくことを決意し、他のヒーリングアニマルと共に、ラテの母親がいる「ヒーリングガーデン」へと帰還することになりました。
のどか達に別れを告げ、意気揚々と「ヒーリングガーデン」へ去って行くアスミ。地球を守るという使命を完遂した彼女は、正に唯一無二の英雄(プリキュア)でした。
『ヒーリングっどプリキュア(2020)』の物語は、のどか達とアスミの別れで一旦の幕を閉じますが、その後も「ヒーリングっどプリキュア」の4人は後輩のプリキュア達の危機に駆けつけ、時には共に戦うこともありました。
地球を蝕もうとする者が現れる限り、「ヒーリングっどプリキュア」の4人は再び集結し、生きとし生けるもののために戦い続けるー。
正に彼女達にとって「生きることは戦うこと」なのです。
キュアアースは「風」のプリキュア。今日もどこかの風に乗り、懸命に毎日を過ごす人達や、地球の安全を見守り続けているのかもしれません。
いかがでしたか?
今回は「風」をテーマに、仮面ライダーとプリキュアシリーズに登場した「風」に縁のある2人のヒーローをご紹介しました。
今回取り上げた「風」のスーパーヒーロー達ですが、本記事以外にも風のヒーロー達はたくさん存在し、それぞれの物語の中で人々を脅かす悪と戦い続けています。
日常の中で吹く風を肌身で感じるように、彼らも私達のすぐ身近に存在し、人知れず私達を守り続けているのかも知れません。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
(参考文献)
・小田克己、『仮面ライダーをつくった男たち1971・2011』、講談社
・鈴木康成、『語れ!仮面ライダー【永久保存版】』、KKベストセラーズ
・菅谷洋也、『講談社シリーズMOOK 仮面ライダーOfficial Mook 仮面ライダー平成 Vol.11 仮面ライダーW』、講談社
・水谷隆介、『ヒーリングっどプリキュア オフィシャルコンプリートブック』、株式会社学研プラス