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殿様の働き方~1000年先を見据えて地域と共に~【相馬行胤×倉重公太朗】最終回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

倉重:そろそろ対談も終わりに近づいていますが、殿個人としては、これからどのような夢を持って生きていきますか?

相馬:今、僕たちが非営利の団体で取り組んでいることは、震災以降今まで本当に多くの皆さまにお世話になってきているので、自分たちが恩返しできることはないのかと常に考えています。その中で日本が抱えている社会問題の1つを自分たちが解決できないかと思っています。競走馬を引退した後の馬の行き先が世界的社会問題になっています。1000年以上にもわたり共に過ごしてきた私たちだからこそ、この問題を解決することができると思っています。馬たちと共生できる社会の構築です。先ほども申し上げた通り今後1000年先も野馬追を継承していくためにも、参加人数が減少傾向にある現況に歯止めをかけなくてはいけません。馬が今以上に身近に居る環境を作り、子供達と馬とのふれあいの場を多く作る。農業後継者も減ってきています。空いている畑を後継者ができるまで維持していくためにも馬の力は大変強力です。相馬ならではの共生の場を作りたいと思います。自分たちが置かれている環境下で日本に恩返しをしていく、何かしらの手助けをしていくということは自分としてはやっていきたいです。各地域が自分たちの強みを活かしていくことが出来れば日本はもっと豊かになると思います。

人生60歳の定年で認められる話ではなくなってきて、本当に100歳まで頑張らなければいけなくなりました。私の曽祖父は尾崎咢堂という政治家だったのですが、彼が晩年に「人生の本舞台は常に将来に在り」という言葉を残しました。90歳過ぎてからおっしゃったことなのです。

倉重:90過ぎてから!それはすごいですね。

相馬:僕も日々そう思っていまして、何歳だからリタイアだということではなく、若い、年を取っているうんぬんは関係なく、やはりピークは今ではなく常に未来にあるという精神を持ってまい進していければと思っています。

倉重:80になってもなお成長を目指すと。今のお話は本当にそのとおりで、年金の問題などとも重なると思うのです。今までだったら60で定年を迎えて、となりますが今の法律では65まで再雇用となります。そこから年金をもらうと2,000万円足りないなどとこの間やっていたじゃないですか。でも、それは結局、ずっと会社に言われるままに働いて、あとはお国が決めた年金だけをもらってというモデルが前提になっているわけですが、そもそもの発想は、おっしゃったように何歳までというのは自分で決めるのだと。その前提として何がしたいのかと。これが、これから最も大事になってくると思うのです。

相馬:今までが逆に言うと恵まれていて、経済成長して、会社と国が面倒を見てくれますよと。でも、もうそういう時代ではないですよと。だからこその転換期で。だから、自分たちが本当に思いなどを伝える、変えるチャンスです。これが右肩上がりの良いときであったら、ルールだって何だって変えようとは思わずにそれがベストだと思ってしまいますが、そうではないでしょうと。なんとなく今はベターかなという感じですが、やはりベストを目指していきましょう。変われるチャンスというものが、僕は今だと思っています。

倉重:いいですね。まさに今は正解がない時代ですよね。不確実性などと言ったりしますが。そういうときは皆不安なのです。殿は、ずっと聞いていても信念がおありになるし、全くぶれていませんが、やはり一般市民は不安に思う人も多いです。不安ですという人に対してはどう声を掛けますか。

相馬:不安な人たちは、やはりよりどころを求めているのではないかと思います。特にこういった都会にいると、周りも知らなかったり、情報を共有できる人がいなかったりと思われるかもしれません。不安を解消できる仲間、何かすがれるものはなんでもいいと思います。友達でも、宗教でも、本でも、映画でもいいですし、それこそ相馬でもいいですし。何かすがれるものがあって、自分が一人ではないと。なかなか一人の強い考えを持っている人は少ないです。でも必ず同じ思いや悩みを持っている方はいるので、それがいい意味で、つまらなく狭くならず、いろいろな意見交換ができる場に一歩踏み出すことが大事です。

倉重:それは自分から行かなければ駄目ですね。

相馬:自分からです。僕も震災のときに思いましたが、本当にご苦労されている方たちがいて、寄り添ってということを最初はやっていたのですが、この転換期において動かなければいけないときに後ろ向きな人たちとだけ一緒だと、なかなか変わらないのです。僕たちは変えていく、前に向かって進んでいく。あなたたちは変わってきた後についてきてよとしか言いようがありません。ですが、一緒になってやろうという人たちはいつでもウェルカムだよと思います。皆が皆手を取り合って一億総社会でいくということは幸せかもしれませんが、やはり変わるときというのは踏み出すメンバーがいて、とにかくアンテナを、今はこういうものが1個あってピコピコやっていれば、いろいろな情報が入るわけですから。

倉重:スマホがあれば大抵のことは分かりますもんね。

相馬:はい。とにかくチェンジメーカーを見つけ、自分の仲間で面白いやつがいるといったら、その人の言動や行動を見ていれば、世界中の言葉や本がなんでも見られてしまうわけです。そういったものを見て、その人の思いに共感したと思えば、その人にすがって一緒についていって、「こいつ面白いぜ」と言ったら、「あ、実は僕も好きなんです」みたいなところから仲間が増えていくと、突破できるものがあるのではないかと僕は思います。

倉重:いいですね。しかも、「後ろ向きな人たちとやっていっても改革はできない」ということは殿しか言えないですよ。そのようなことを言うと叩かれるのではないかと思う人はたくさんいると思います。

相馬:私もいつも叩かれています。新しいアイデアを出すと、例えば先ほどの馬の件ですが「人がお戻りにならないところに馬を放せば、馬にとって幸せじゃないか」と言ったら、「俺らの土地をなんと思うんだ」言う方がおりますが、「いいです」と。活かせていない土地の新たな活用の提案に対し後ろ向きなご意見があっても、貴重なご意見を蔑んでいるわけでもなければ無視しているわけでもありません。やるべきことがたくさんありますので、共感してくださる方を見つけて始めます。

倉重:スパッと決断されていていいですね。

相馬:僕は政治家ではありませんので、選ばれているわけではないのです。生まれ落ちた場所で決まってしまったのですから。そうすると、自分が正しいという方向に進めるわけです。

倉重:生まれたときから殿様の家系ですからね。

相馬:それが間違っていたうんぬんではなくて、行動すると良いことがあるということは震災で学びました。誰もが認めなくてもこちらが良いということを進めたことによって、やはり結果は良かったと思うことを何度も経験しました。

倉重:不安や迷いもあるけれども、やはり自分のwillと信念に基づいて進んでいくと?それは自分の選択、決断ですよね。

相馬:自分の選択、決断です。それに対してのリスクは当然自分が負うかもしれないけれども、必ず結果がついてくると思います。

倉重:いいですね。最後に、殿が今、広島で作っているのはヨーグルトですか?

相馬:そうです(笑)。

倉重:ヨーグルトと何を作っているのですか。

相馬:僕は酪農事業をやっているので、乳製品は作っています。

倉重:ネットで買えるものがありましたよね。

相馬:ネットで買えるものがあります。

倉重:ヨーグルトのURLをここに貼っておきますね。

https://poke-m.com/products/3279

相馬:それと、せっかくならNPOのURLもここに貼っていただければ(笑)。

https://sart34.org/

倉重:分かりました(笑)。

 では、殿からお話をお伺いしましたが、今日はスタジオ観覧者もお二人来ていますので、本当はもっとたくさん質問したいと思うのですが、1つずつ質問を頂きましょうか。では、男性の方からどうぞ。

A:先ほどの歴史をよりどころにしているというお話がありましたよね。2,700年でしたっけ、一回も攻め落とされていなくて、1つの国がここまで続いた国は日本しかないと思います。本来であれば日本国民全員が歴史をよりどころにしたほうがいいと思うのですが、それができていません。殿様自体は800年の歴史をよりどころにされているということがあったのですが、よりどころにするような教育などがあったりしたのですか。震災があったからこそよりどころにしなければいけないと思ったのか、それとも幼少期からきちんと正しい歴史を教わったのか。歴史をよりどころにする経緯がどうだったのかというのが。

相馬:私は、幼少期のころから相馬の殿様の子どもだと言われて育ちましたので認識はありましたが、歴史的なことを学んだことはないです。やはり自分が困ったときです。勉強もそうだと思うのですが、親や先生からやれと言われても基本はやりませんよね。ですが、自分がやりたい、必要だと思ったときには一生懸命勉強すると思います。

倉重:人間は言われなくても、必要なときに勉強しますよね。

相馬:やはり必要なときに勉強して、若いときにその転換期が起きた人たちは幸せかもしれませんが、僕は2011年のとき37歳で、37歳からの勉強ですからわりとスタートは遅かったです。しかし、そのときからの頭に入り込む量は学生時代の数倍でしたよね。

倉重:本気で相馬藩の歴史を学び始めたのもそこからですか。

相馬:野馬追に出だしてからなんとなくのものはありましたが、人前で偉そうに語れるくらいになったのは、そのときにもう一度読み直したというか、学びました。

倉重:すごくいい質問で。やはり歴史を自分の中のよりどころにしようというのは、これはまさに相馬さんのお話を伺ってそのとおりでしたし、やろうと思えば日本国民皆が日本史を学べばできるではないかという話ですよね。

相馬:野馬追のような当たり前のものをやっている、地域の人たちも皆やっていますが、歴史はあるということは思っていても、そんなに深く考えていない方々はいると思います。ですが、お住まいの地域で実際にやられているお祭りや何気ない行動、何げないしぐさが先人たちから伝えられてきているものであったりしますから、そういうものを少しひも解いてみると、「ああ、こういう意味があるんだ」といったことがあるかもしれません。そういう意味では、きっかけとして伝統行事は面白いかもしれません。

倉重:なるほど。自分の地元の伝統行事から調べていってもいいですね。

相馬:そうですね。そういうことはあると思います。

倉重:それは面白いですね。具体的でいいですね。では、そちらで手を挙げた女性の方、お願いします。

B:先ほどの質問と少しかぶってしまうかもしれませんが、殿のお話は、なんとなく視点が大きくて。一方、私はすごく身近な小さいことですぐに心がいっぱいになってしまうのです。どうすれば大きな視点で物事を見られるようになるのかということをお伺いしたいです。

相馬:僕は、毎日昼になると「昼ご飯は何を食べようか」とか小さいことしか考えていません。大きな質問をされたから大きなことを偉そうに答えているだけです。

でも、先ほどおっしゃったように、日々考えているところから普段は考えないような大きな視点で物事を見ることは大事かもしれません。もしあなたが明日から外務大臣になれと言われたらどうするか、ここの地域の組長さんになってくれと言われたらどうするか、会社の社長になってくれと言われたらどうするかとふと思ったとき、突拍子もない考えが。普段は100円、10円を気にしているのが、国のトップだったら数兆円を考えなければいけないのか、みたいな。自分の中で大きい問題をあえて考えてみると、なんとなく。

僕もそうですが、課題があり過ぎて自分だけでは解決できないと思ってしまえるからこそ楽しいということがあるのです。本来であれば、これを自分たちでここまでクリアしなければいけないと当然思うわけじゃないですか。ですが、僕が生きている間には相馬で起きている課題は絶対に解決できません。そうであれば、できることからやればいいのです。

倉重:起こった問題が大き過ぎますからね。

相馬:大き過ぎるから。だったら、大きなことを考えて捉えるのです。それは当然小さいことの積み重ねなので、日々、少し大きなことを考えてみると結構楽しいかもしれません。夢は広がりますし。

B:楽しいと思えることがまずすごいです。

相馬:何かできるのではないかと思ってしまいます。

倉重:男女問題で悩んでいる場合ではないと(笑)。

相馬:男女問題も大きいですけれども(笑)。

倉重:すぐいっぱいいっぱいになってしまいます…

相馬:世界を変えるくらいの問題にしてしまえば。

倉重:少し視点を変えるとか。俯瞰的に見るとか。

相馬:先ほどの固定観念に縛られないということは大きいかもしれません。

倉重:女性だと、なかなかそれがやりづらいという人もいます。そうやって地図的に見るのは男性の脳のほうを使ったりするといいますが、それが苦手な人も結構いるので、それはどうしたものかと確かに思います。

相馬:僕は逆に、先ほどから言っているように能力がありません。大体、僕は女性がいないとやる気が起きません。妻がいるからやる気が出て、女性を支えるために男性がいるそんな社会をつくるべきだと思っています。いてくれるだけでありがたいのですから、それはそれでいいと僕は思います。

倉重:いいですね。悩む姿もそれでいいのだと。さすがですね。

相馬:それを見てしもべたちが働くと(笑)。頑張ります。

倉重:いい締めで。どうもすいません。長時間ありがとうございました。

相馬:ありがとうございました。(拍手)

対談協力:相馬行胤(そうま みちたね)

NPO法人 相馬救援隊代表理事

福島県相馬双葉地方をフィールドに、伝統文化の振興、教育、エネルギーなどの分野に新しいムーブメントを起こすため、引退競走馬を活用した地域創生プロジェクトに取り組んでいる。「被災地」と呼ばれて久しい故郷は、世界の持続可能性をめぐる課題を解決するリソースとアイディアに溢れ、『相馬野馬追』を代表とする地域の馬事文化を継承しつつ、人々と馬の新しい関係を築き、次世代に託す、そして、地域課題の解決を通じ、世界が抱える課題に寄与するモデルを提供することをミッションとする。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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